ポップアップ はショッピングモールの新たな秘密兵器【ファッション・ブリーフィング】

DIGIDAY

11月16日、キム・カーダシアン氏による話題のミニマルな美容ブランド、スキン・バイ・キム(SKKN By Kim)が、初めて実店舗への進出を果たした。ショッピングモールだ。

ロサンゼルスのウェストフィールドセンチュリーシティ(Westfield Century City)に設置されたこのポップアップは、創業5カ月となる同ブランドの常設店舗が最終的にどのような形になるかを「人々に一部披露する」ことを意図している。スキン・バイ・キムの店舗を複数オープンすることが将来のステップだと、カーダシアン氏はGlossyに語った

ショッピングセンターとブランドの両者に有利

ウェストフィールドセンチュリーシティの8600平方フィート(約800平方メートル)のアトリウム(Atrium)空間にその店舗はある。そのスペースは、インタラクティブなブランドアクティベーションや製品発表、授賞式、コンサート、ファッションショーなどを開催するために設計されており、短期間で注目を集めたい企業に対して同センターが提供する5つのスペースのうちのひとつに過ぎない。モール側にしてみれば、言うまでもなく、このような小売の「ドロップ」 は興奮と客足を呼び、長期賃貸契約以上の収益源となる。

最近では繰り返し小売が不安定な状況となっており、さらにレレバンスを追い求めるショッピングモールが流動的な状態にあるため、このようなポップアップはショッピングセンターの秘密兵器として人気を博している。実店舗の価値については納得しているが、ビジネスにコミットすることについて慎重になっているブランドにしてみても、ポップアップは当然ながら有利に働く。「機敏であること」と10年契約は、必ずしもうまく両立するわけではないのだ。

WSデベロップメント(WS Development)はこのコンセプトに早くから取り組み、2018年にボストン・シーポート(Boston Seaport)にリテールインキュベーターのザ・カレント(The Current)をオープンした。同じ年、小売業の家主であるメイスリッチ(Macerich)は、ワシントンD.C.のタイソンズコーナーセンター(Tysons Corner Center)にブランドボックス(BrandBox)というインキュベーターを導入。同じタイミングでコロンバスにあるイーストンタウンセンターがショップ/ラボ(Shop/LAB)を立ち上げた。

店舗のリースが勢いを増している

さらに最近では、モールのデベロッパーが、空室を埋めるためにポップアップを活用することについて透明性を持つようになっている。ニュージャージーに本拠を置くメガモール、アメリカンドリーム(American Dream)が2019年についにオープンした際、当時のチーフクリエイティブオフィサーだったケン・ダウニング氏は、モールの運営時の最初の100店舗のうち20店舗は、1カ月からリース可能なポップアップショップを指す「ドリームドロップ(Dream Drops)」になるだろうと述べている。2021年11月、同社はラグジュアリー棟のジ・アベニュー(The Avenue)にドリームドロップの1号店をオープンさせた。その店舗は現在も営業中で、スタイルアイコンのアイリス・アプフェル氏がキュレーションしたファッションやインテリア雑貨をセレクトしている。

だがショッピングモールのオーナーたちによれば、実店舗への回帰が進むなか、このような一時しのぎはあまり必要ではなく、あらゆる種類の小売スペースを手に入れることが難しくなってきている。

サイモンプロパティグループ(Simon Property Group)のIR責任者であるトム・ウォード氏は、11月1日の第3四半期決算説明会で同社の「リーシングの勢い」に言及し、第1四半期の開始以降、3100件以上のリース契約を締結、平均リース料率は前年同期比で10%上昇したと述べた。CEOデヴィッド・サイモン氏は、同社のリース期間の平均は現在7年であると述べている。11月10日、ブルックフィールドアセットマネジメント(Brookfield Asset Management Inc.)のCEOブルース・フラット氏は、第3四半期の業績報告の際、ショッピングセンターにおける小売売上高がCovid以前の水準と比較して30%増加しているという統計を指摘した。ブルックフィールドのショッピングセンターは、その「高品質な」ポジショニングを考慮すると、さらに大きな伸びを見せるだろうと、彼は述べている。それでもポップアップの価値を理解しているデベロッパーは、連続した短期リースを管理することは重荷となるにもかわらず、このコンセプトを維持し続けている。

WSデベロップメントのリテールエクスペリエンス&インキュベーションのトップ、カリーナ・ドノソ氏は、これまでのところ、同社のポップアップは主に空きスペースを活性化する必要性から実施されてきたと話す。ポップアップに特化したザ・カレントは例外だったが、同社のポップアップの施策でより大きな割合を占めるようになりつつある。WSデベロップメントは現在、特に屋外モールにおいて、埋める必要がある空室が少なくなっており、ザ・カレントのコンセプトを同社のポートフォリオ内のより多くの物件へと拡大するために取り組んでいるのだ。2店舗目は、パームビーチのロイヤルポインシアナプラザ(Royal Poinciana Plaza)に間もなくオープンする。

モール内のポップアップはウィンウィンの関係

MG2のプリンシパルで、ポップアップの設計を専門とするライオネスクグループ(The Lionesque Group)を創業したメリッサ・ゴンザレス氏は、モール内でのポップアップをウィンウィンの関係と呼ぶ。他のポップアップと同様に、ブランドは常設店舗をオープンするよりも低いリスクで、市場やコンセプトを試すことができる。一方、リースを行うチームにとっては、リースの合間の空いた期間にチャンスが訪れるのを待つだけでなく、こうしたアクティベーションは長期的なテナント候補と「付き合う」機会にもなるという。

「特に、デジタルネイティブなブランドが初めて実店舗に参入する場合、その店舗が成功するかどうかを判断するための最小限の指標が(あらかじめ)存在する」。

同時に全国のショッピングセンターは、人々を施設に向かわせるアンカーとなる「次の体験型の何か」を特定しようと試みている、と彼女は述べた。ポップアップは貴重なインサイトを提供しているのだ。

そのスペースがブランドとなる

ゴンザレス氏によると、WSデベロップメントとザ・カレントのように、複数のブランドを紹介する「ターンキー・ポップアップ・インフラストラクチャー」を設置したリースチームやデベロッパーは、ブランドに対してサービスを行っている。そのスペースがブランドとなり、それ自体が呼び物となることで、ポップアップや隣接する店舗と調和していないことに関するリスクのいくつかが解消される。

ドノソ氏が「アウトサイド・ビレッジ」と表現した本来のカレントには、それぞれ180平方フィート(約16.7平方メートル)または300平方フィート(約27.8平方メートル)の9つのポップアップ・スペースが設けられている。この複合施設には、一度に3〜6カ月間ポップアップの「家」を借りているテナントと、年間平均27のテナントが入居している。国内および地域のブランドを引きつけており、その中にはビジネスや顧客についてもっと知りたいと考えているデジタルネイティブ企業も多く含まれている。ドノソ氏は、このようなブランドに対して、ブランドの「強化された」デジタルプレゼンスを模倣して、ディスラプティブな店舗体験を提供することの重要性を強調している。

これをうまく行っているザ・カレントのテナントに、「パーマネント」ジュエリーの店内溶接サービスを提供しているブレイブ・ドーターズ(Brave Daughters)がある。もうひとつ傑出しているブランドは、売り上げの一部を慈善団体に寄付している帽子の会社、プロジェクト・ポーリー(Project Paulie)だ。イタリアの雑貨店にヒントを得た店舗は、イタリアの音楽やバゲットの形をしたキャンドル、「ピザの箱」のような帽子の箱が特徴となっている。

ただポップアップをやるだけではうまくいかない

ブランドにとって、ザ・カレントが提供する「ターンキー」なリテールには、店員の雇用とトレーニング、経験豊富なビジュアルマーチャンダイザーのチームによる店舗構築、堅固なマーケティングプランの提供などが含まれている。ブランドを搭載するには、合計で8週間かかる。ザ・カレントに出店している100のブランドのうち、実際に現場を訪れた経営者はわずか5%で、代わりにドノソ氏と5人のチームがプレゼンスを完全に管理することを任されているという。

ドノソ氏いわく、ブランドは通常、店舗の看板や什器、その他の装飾品に2500ドル(約35万円)から8500ドル(約120万円)を費やす。それよりも大きな投資は、店舗を成功させるために必要なマーケティングに対して行われる。

「『あなたのプロジェクトをやりたい』とブランドからメールが来るたびに、『あなたのビジネスでくだらないものを売る準備はできているか』と言っている。なぜなら、特に新しい市場を試している場合、ただポップアップをやってうまくいくわけがないからだ」。

そのマーケティングには、ポップアップの期間中、店内で最低3つのイベントを開催することも含まれる。最近では、業績不振に陥っていたカレントの小売業者が、最初の店頭イベントで4500ドル(約63万円)の売上を達成している。

ドノソ氏は、いまでもエキサイティングなブランドにインスタグラムでDMを送り、ザ・カレントを紹介しているが、この施設は現在ではほとんど「自分で売る」ようになったという。ボストンシーポート(Boston Seaport)には、オープン以降、大手テック企業のほか、スポーツジムやレストラン、いくつかのDNVB(デジタリーネイティブバーティカルブランド)の常設店舗が入居している。さらに、ザ・カレントのテナントを誘致するにはには、口コミが大いに役立っているようだ。

1カ所に長く留まらず、あらゆる市場でアフェアネスを高める

多くのブランドにとって、ポップアップのコンセプトは貴重な成長の手段となっている。そして、より実践的なアプローチを取ることで、その利点を得ることができる。

2022年1月、美容業界のベテランであるリン・パワー氏がコンシャスビューティコレクティブ(Conscious Beauty Collective)をローンチ、これはビューティとウェルネスのインディブランドを集め、一度に3~4カ月の共同出資および共同運営によるポップアップを行うことに重点を置く。サンフランシスコとボストンにあるショッピングモール、ブルックフィールド(Brookfield)は、どちらのモールでもこのイテレーションを行っている。

「私にはこのアイデアと(興味のある)ブランドがあり、ブルックフィールドにはスペースがあったので、とてもうまくいった」とパワー氏は言う。「どこかに長く留まることは望んでいない。私たちは、あらゆる市場でアフェアネスを高め、新規顧客や新しいインフルエンサー(のパートナー)、新たなメディアを獲得したい。ただどこかに行って話題を作りたい。ブルックフィールドは、全米のプレミアムな場所に300以上のモールを展開している」。

コンシャスビューティコレクティブの、ストーンズタウンガレリア(Stonestown Galleria)にあるサンフランシスコ店は、以前はアヴェダ(Aveda)の店舗だった。しかし、ボストンのネイティックモール(Natick Mall)にある最近の店舗では、紹介する製品のプレミアムなプライスポイントにマッチするために、より「美化」する必要があった。パワー氏いわく、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)やノードストローム(Nordstrom)の向かい側という立地を考えれば、それだけの努力に見合う価値はあった。

コンシャスビューティコレクティブの店舗では、美容のカテゴリーを超えた複数のブランドが紹介されており、発見を促すとパワー氏は話す。一方、この店舗では、「まだ主流ではない」クリーンビューティについての教育も促進している。店内での接客に加え、店員はショッピングモールの通行人に情報を載せたポストカードや製品サンプルを配布している。また、FacebookやGoogleのジオターゲティング広告やダイレクトメールを活用し、ショッピングモールの半径15マイル(約24キロメートル)以内の人々をターゲットにした店舗のプロモーションも行っている。

ポップアップは「生き残り戦術」

パワー氏は、このポップアップを、自身のブランドであるヘアケアブランドのマサミ(Masami)や、コラボレーターであるブランドの創業者たちの会社のための「生き残り戦術」だと呼ぶ。「私たちは小さいので、セフォラ(Sephora)やアルタ(Ulta)、クレド(Credo)ではまだ手に入らないブランドだ。だが、それは鶏が先か卵が先かという問題なのだ。つまり、私たちはブランドを成長させるためにこれらの小売業者に参入したいが、小売業者は私たちのブランドに自分たちを成長させることを求めている。それによって、私たちは小売業者が求める『スイートスポット』のサイズに達することができると同時に、大規模な小売パートナーシップがもたらす需要に備えることができるだろうと期待している」。

さらに彼女は「ブルックフィールドは、私たちに(長期的に)留まってほしいだろうが、先方はこの取引を知っており、サポートしてくれている」と付け加えた。

ブルックフィールドと同様に、WSデベロップメントもポップアップのテナントが長期テナントになることを望んでいる。ドノソ氏のプロジェクトでは、転換率は15%だと、彼女は述べている。

[原文:Fashion Briefing: Pop-ups are malls’ new secret weapon]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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