大手小売業が次に資金投入するのは「ハイテクフルフィルメントセンター」:SCM強化でAmazonに対抗

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小売業者が、多額の資金を投じてフルフィルメントセンターを構築する例が増えてきている。

ウォルマート(Walmart)は6月3日、従業員が顧客の注文を取りまとめやすくする自動化されたフルフィルメント倉庫を新たに4つ開設する計画を発表した。同社は、これらのセンターを運用するため4000人の従業員を雇用する。最初の施設は今夏、米イリノイ州のシカゴ郊外にオープンする。この投資はウォルマートがAmazonと競合していくための継続的な取り組みの一環であり、同社は店舗だけでなく、これらのハイテクのフルフィルメントセンターを組み合わせることで、より多くのeコマースの販売をサポートする。

テスト段階から実用段階へ

しかし、この発表は大手小売チェーン店のあいだで増えつつあるトレンドの一部でもある。ウォルマートはターゲット(Target)クローガー(Kroger)、ロウズ(Lowe’s)と並んで、ロボット工学を基礎にしたフルフィルメントおよびロジスティクスセンターを試験的に導入している。最近では、ターゲットが3月、新しいハイテク倉庫も含む事業運営に50億ドル(約6700億円)を投資すると発表した。ホームデポ(Home Depot)は5月、フルフィルメントのイノベーションに1億5000万ドル(約201億円)の資金を投入すると発表した。また、同社はハイテク配送センターの優先度を上げている。全国規模の小売業者は何年にもわたって自動化を重視してきたが、eコマースのロジスティクスや労働力のコストが上昇し続けるなかで、効率的かつ革新的なフルフィルメントはさらに重要となってきた。

エッジバイアセンシャル(Edge by Ascential)の北米担当顧問委員長を務めるジャック・オレアリー氏は、「小売部門全体にわたり、自動化技術がテストやトライアルのフェーズを終了し、導入フェーズに移行しはじめたことを目にしている」と述べる。同氏は、大手の小売業者は特に、もっとも大きな影響を最初に与えるため都市部をターゲットにしていると付け加える。「eコマースの浸透率が高い地域ほど、こうした展開の効果が最初に見られるだろうと予測している」。

苛酷な労働条件も、ロボット工学と自動化により改良される部分のひとつだと言われている。ウォルマートはこの発表において、同社の新しいフルフィルメントセンターでは、従来型の倉庫と比べても、従業員が注文された品の受け取りや梱包のために歩き回る時間を減らすことができると主張している。同社のプレスリリースによれば、同社の施設従業員は現在、梱包の内容をまとめるために毎日9マイル(約14.5km)を超える距離を歩いているという。同社は今後数年間に新しいロボット工学を42の自社配送センターに追加することを計画しており、倉庫の補充に役立つことが期待されている。

自動化が担う役割が増している

3Dロボット工学サプライチェーン企業のアタボティクス(Attabotics)の創設者でCEOを務めるスコット・グラベル氏は、ウォルマートやターゲットのような小売業者が自動倉庫技術に投資しているのは、いくつかの理由があると述べている。

同氏は次のように述べている。「自動化はたしかに、労働力や不動産についてコストの削減に役立つ。しかしもっとも重要なのは、生産能力を向上させ、サプライチェーンのレジリエンスを強化して、入手困難なリソースへの依存を減らせることだ」。

同氏は、小売業者がリアルタイムデータを制御するために、自動化の役割は増しているとも述べている。「高密度な自動化により、各社は自社の在庫を消費者と接近した場所に移し、D2C注文の配達や店舗の在庫補充を即日行えるようになる」と、同氏は述べている。

一方で、ロボット工学を応用したフルフィルメントは、実店舗を基盤とする小売業者が、Amazonのハイテク能力に対抗するためのもうひとつの手段である。過去10年間において、Amazonは、おもに2日以内、現在は1日以内の出荷を保証するという配達の迅速化を追求することで、最大手のeコマース小売業者のトップの座に君臨してきた。2021年、米国のオンライン販売市場におけるAmazonのシェアは、過去最高の56.7%に達した。同社は、地域密着型の倉庫やフルフィルメントby Amazonによる高速配送に早期投資したことで、ウォルマートのようなライバルの小売業者を越えることに成功した。

このように、店舗をローカル・フルフィルメント・センターとして長年使用してきたチェーン小売業者にとって、自動化は理にかなったステップだ。たとえばターゲットは、デジタルでの注文を発送するため、店舗内の在庫と従業員に頼っている。現在のところウォルマートは、デジタルでの注文に対応するため3500を超える店舗を使用しており、これは同社の全拠点の75%近くに及ぶ。これらの小売業者は現在、Amazonと競合するため、独自のより現代的なフルフィルメントセンターを作り上げようと試みている。

同時にAmazonも、しばしば批判される労働環境を改善しようと試みており、サプライチェーン技術に10億ドル(約1340億円)を投資すると4月に発表した。Amazonの倉庫は何年にもわたり、長時間労働、重労働、十分な休憩の欠如を課していると批判されており、労働組合からの要求が相次いでいる。。これまで同社は、Amazon産業イノベーション資金(Amazon Industrial Innovation Fund)経由で各種の倉庫テックの新興企業に投資してきた。こうした投資の対象は、従業員の骨格の健康を監視するウェアラブルテックの開発企業モジョール(Modjoul)から、人間と協働する産業用ロボットアームを開発しているマンティスロボティクス(Mantis Robotics)まで多岐にわたる。

投資対効果も見えはじめている

eコマース売上の鈍化にもかかわらず、デジタル注文のフルフィルメントの高速化は、ウォルマートやターゲットなどの小売業者にとって競合部分であり続けるだろう。エッジバイアセンシャルのデータによれば、eコマースは米国における小売業成長の最大の原動力となり、2021年の24.6%から、2026年には小売の総売上高の30.5%を占めるようになるとされている。

大手小売業者がハイテクロジスティクスへの投資を続けるのは、長期的に見ればその費用に見合うだけの効果が期待できるとオレアリー氏は語る。ウォルマート、ホームデポ、そのほかの小売業者は、自社のフルフィルメントプロセスを自動化することで「在庫のリアルタイムな可視性と、商品の品揃えを強化することができる」と同氏は述べている。

ガートナー(Gartner)のソフトウェアアドバイス(Software Advice)で共同プリンシパルサプライチェーンアナリストを務めるオリビア・モントゴメリー氏は、アジアでのパンデミックにおける規制により、製造拠点を米国に近づけようとする企業が増え、過去2年間にサプライチェーンが一新されたと語る。多くの企業が依然として労働力の不足に直面しているいま、自動化に目を向けるのは自然な流れだ。

これらの設備が利益率の改善に貢献するのにどれくらい時間がかかるかについて、一部の専門家は、これらの設備がすでに影響の兆候を示していると考えている。

「労働力の不足に関して言えば、自動化への投資の効果はすでに表れている」とグラベル氏は述べる。その一例が、ホームデポのロボット工学に基づくダラスとジョージアの配送センターだ。いずれも2020年に開設されたもので、同社が大量販売のフルフィルメントを改善するために12億ドル(約1610億円)を投資した事案の一部だ。同社はその後、マイアミとボルチモアに同様の施設を開設し、さらに多くの施設を計画している。

これらの施設は、特に建築請負業者などの高額消費者のあいだで、店舗からの圧力を緩和するために開設されたものである。配送センターに関するブルームバーグ(Bloomberg)の記事によると、これまでは複数の品目を注文すると、2つか3つの店舗で対応しなければならないことがあった。ペーサーやフォークリフトのような大規模なロボット機械を使用することで、従業員は合板の束や腐葉土入りの袋などを含む重量の大きい注文でも迅速に発送できるようになった。

「サプライチェーンのリアルタイムのデータが得られることで、小売業者は運用の無駄を省くことができ、予備の在庫を減らして、需要を予測する能力を高めることができる」とグラベル氏は述べている。

[原文:High-tech fulfillment centers are the next key area of investment for big-box retailers]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Walmart

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