インド で美容市場はいま急成長中のひとつ。グローバル展開の可能性は?【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

今回は、インドが自国の美容ブランドを求めていること、そして海外に移民した消費者と祖国にいる消費者それぞれが期待していることについて考えるーーPriya Rao

多くの人は知らないかもしないが、先月の8月15日にインドは独立75周年を迎えた。インドは英国から分離独立し、君主制によって英領インドは宗教の違いからインドとパキスタンのふたつの国に分かれた。毎年8月になるたびに私がこのことに思いを馳せるのは、両親が幼い子ども時代を過ごしてきたのがこうした変化の直後だったからだ。いつものようにこの時期に歴史を振り返っていたとき、投資家のゴーラブ・ダルミア氏がエコノミスト(The Economist)に寄稿したエッセイをたまたま目にした。インドの経済は、自国の才能と産業に支えられて成長を続けているが、ダルミア氏は、この国の将来は海外に住む人々によっても形成されることになるだろうと強調していた。「海外に暮らすインド人は、技術、貿易、投資を通じて、インドの生産性を高め、繁栄を加速させる上で重要な役割を果たすだろう」と彼は書いている。このことから、私は「ビューティ」について考えさせられた。

急成長が予測されるインドの美容市場

インドの美容市場は、いまのところ、ロレアル(L’Oréal)やエスティローダーカンパニーズ(The Estée Lauder Companies)といった外資系コングロマリットとそのブランドに支配されている。ユーロモニターインターナショナル(Euromonitor International)によると、現在の市場は150億ドル(約2.2兆円)と比較的規模が小さい。だが、インド国内外を問わず、インド人創業者が中心に立つための舞台は整っている。

「インドの(美容とパーソナルケアの)セグメントはもっとも急速に成長しているもののひとつで、我々は非常に興味深い時期にあって、(地元の)美容エコシステムにとっても最高の時期だ」と話すのは、インドで人気のデジタルサイト、ナイカ(Nykaa)の美容eコマースCEOアンチット・ナヤール氏だ。「今後5年以内に、美容市場の絶対的な規模がトップ5かトップ3になるだろうと予測されている。したがって規模と成長スケールの組み合わせが非常に独特なものとなっている。この急成長を牽引している追い風は、アウェアネスとアクセスだ」。

ナイカは、エスティローダーカンパニーズと共同で、インドの美容起業家のためのインキュベーターであるビューティ&ユー(Beauty & You)を7月にローンチした。このプログラムは、その数は不明だがインドの新興ブランドに対して実施され、受賞者はエスティローダーカンパニーズとナイカによるマスタークラスとメンターシップを受けられるほか、資金調達、製品開発、流通、マーケティングに関するサポートを受けることができる。11月には、もっとも革新的なブランドに対して総額50万ドル(約7170万円)が贈られる。

求めているのは、インドの伝統や歴史を反映した高品質の製品

エスティローダーカンパニーズがインドに初めて進出したのは2005年だ。現在、同社がインドでより大きな役割を果たしているのは驚くにあたらない。昨年、同社はアーリーステージの投資とインキュベーションの部門を構築した。同社のニューインキュベーションベンチャーズ(New Incubation Ventures、NIV)でバイスプレジデントを務めるシャナ・ランドハヴァ氏は、国際市場を視野に入れた新興ブランドへの投資をすでに4件行ったと述べている。NIVが投資している企業には、トロントを拠点とするグルーミングブランドのファコルティメン(Faculty Men)や、英国に拠点を置くナチュラルスキンケアとフレグランスのブランドのヘッケルズ(Haeckels)などがある。

中国の国産ブランドであるパーフェクトダイアリー(Perfect Diary)やフィリピンのサニーズフェイス(Sunnies Face)のブームを目にしているので、ナイカととエスティローダーカンパニーズは同じようなサクセスストーリーを再現しようとしているのかと思いきや、ナヤール氏はそうではないと言う。

「我々が求めていることと直接比較対象になるものは存在しない。求めているのは、最高品質の製品を生み出すために革新を続けている、非常に情熱的な創業者たちが運営している真にユニークなブランドだ」と彼は述べた。アーユルヴェーダは、数千年前にインドで始まって、世界的な現象となる能力を持つ美容のトレンドのよい例だ。インドの伝統や歴史により関連することを、非常に高い品質と実行レベルで行っている国産ブランドを見つけられると信じている」。

若いマイノリティに自信を与えるレプリゼンテーション

プリヤンカー・ガンジュー氏のメイクアップブランドのクルフィ(Kulfi)や、シャズ・ラジャシェカル氏とキク・チャウドゥリー氏の姉妹によるヘアラインのシャズ&キクズ(Shaz & Kiks)など、インド人や南アジア人が創業した美容ブランドがここ数年で次々と米国内に登場している。また、米国の大手美容小売業もそこに注目している。セフォラ(Sephora)は先月、2021年のセフォラアクセレレート(Sephora Accelerate)2021のメンバーであるクルフィをオンラインにローンチした。シャズ&キクズと、スラブヤ・アドゥスミリ氏が創業したカラーコスメティックスラインのマンゴーピープル(Mango People)は2022年のセフォラアクセレレート・プログラムに加わっている。アーユルヴェーダのスキン&ヘアラインであるラナバット(Ranavat)も2月にSephora.comでデビューし、先月には店舗へと拡大した。一方、ディーピカ・ムティヤラ氏が創業したライブティンテッド(Live Tinted)は、2021年10月にアルタビューティ(Ulta Beauty)にローンチしている。

これらのブランドは、今日、規模は小さいながらもインドの歴史や文化と現代的な視点とをつなぐ架け橋になることを試みている。また、創業者が誰なのか、ブランドが誰を代弁しているのかについても、より大胆になってきている。たとえば、ライブティンテッドはインドの文化をブランドのDNAの中核に据え、ディワリ製品をローンチし、最近ではミンディ・カリング氏主演のNetflixのドラマシリーズ『私の”初めて”日記(Never Have I Ever)』とコラボレーションした限定コレクションを発売している。

ライブティンテッドが今月アルタビューティの全店舗で発売されたことについて、ムティヤラ氏は「インド人が創業したブランドが引き続き米国とインドに誕生することはとても重要だ」と言及した。「また、若いマイノリティの南アジアの人々が自分たちも社会の一員であると思えるような世界を作る役割を、私たち全員が果すことができるようになるには、そうしたブランドが成長し、成功する機会を得られることが非常に重要だ。業界全体において自信や自己愛、野心のカギとなるのは、レプリゼンテーションだ」。

海外のブランドはインドで通用するか、またその逆は?

しかしこれらの米国のブランドがインドで通用するのか、また逆にインドのブランドは米国で通用するのか、という疑問はある。

インディワイルド(Indē Wild)は、アムステルダム在住のグローバルインフルエンサーでインド系のディーパ・ビューラー=コースラ氏が創業したスキンケアブランドで、彼女が「アーユルヴェーダと化学(ケミストリー)を融合させた概念」と呼ぶ、アーユルヴェディストリーに基づいている。「私たちの使命は当初からとても明確だった。アーユルヴェーダを現代の南アジアの女性のためにグローバルなものにすると同時に、身近なものにすること。インディワイルドは若者向けに作られているが、我が国の成分、伝統、文化を用いている」。

インディワイルドは昨年10月にオンラインで世界的に発売されたが、ビューラー=コースラ氏がインドにいつ来るのかというDMやメールを何千通も受け取ったため、7月に同ブランドはナイカとチームを組んだと彼女は言う。発売の当日、インディワイルドの2種類の美容液はほんの2時間あまりで完売した。「インドで人気のある強力な美容液、アーユルヴェーダと化学の組み合わせ、インドではまだそれほど普及していない創業者優先のアプローチなど、完璧な三拍子が揃っていた」とビューラー=コースラ氏は話す。インディワイルドは現在の売上高を公表することは避けたものの、8月のフラッシュセールでは24時間で10万ドル(約1435万円)を売り上げたという。同ブランドは最近、300万ドル(約4.3億円)のシリーズA資金調達ラウンドを終了した。

もちろん、ビューラー=コースラ氏のブランド構築には世界的な知名度が貢献している。彼女はインスタグラムに180万人のフォロワーがいて、カンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩き、「エル・インディア(Elle India)」や「ヴォーグ・インディア(Vogue India)」など数え切れないほどの雑誌の表紙に登場している。同様に、おそらくインドでもっとも有名な米国在住者であるプリヤンカー・チョープラー・ジョナス氏もこの手のホームカミングを果たしている。2021年にマエサ(Maesa)がインキュベートした彼女のブランド、アノマリー(Anomaly)は、8月にナイカで国際的に発売された。マエサのポートフォリオに含まれる新興ビジネスと報じられたが、当然のことながら、チョープラー・ジョナス氏のラインはナイカで24時間で(ふたつのSKUを除いてすべてが)完売した。

ビューラー=コースラ氏は、さらなる国際展開のために米国と欧州の小売業者と交渉中で、「(ニュー)デリーやムンバイで育つインド人は、ニューヨークやトロントで育つインド人と同じ」と強調した。

「この消費者はどこにでもいるのだから、ブランドがこの人たち全員に届くように大きくならないわけがない」と彼女は言う。

美容市場が拡張しているインド

インド人が創業した美容ブランドがインド国内外に増え、そしてインドの美容の消費者が成熟していくにつれ、それらのブランドのひとつがグローバルに展開するようになるのは時間の問題だ。有名なブランドが優位に立つ一方で、インディーズブランドも見過ごすことはできない。

グッドグラムグループ(The Good Glamm Group)の創業者でCEOのダーパン・サンヴィ氏は以前Glossyに、「(インドにおける)美容とパーソナルケアの普及率は世界でもっとも低いうちに入る」と語っている。「一気に拡大するのを待っていた市場だった。最近までインドで利用できるブランドは古いレガシーブランドだったが、新しい消費者は違うブランドを求めており、いまや顧客は携帯電話もインターネットやソーシャルメディアへのアクセスもあるのだ」。

ナヤール氏も同意見だ。「美容業界が未熟なため、インドの美容消費者もまだ未熟だ。とはいえ、インドの美容消費者はもっと知りたいという欲求が非常に強く、教育を求めている。インドの美容消費者は、ブランドが世界的に提供している最高のものを手に入れたいと思っているのだ」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Can an Indian-founded beauty brand go global?]

PRIYA RAO(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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