eコマース売上失速か? 実店舗 が復活している理由【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

この2年間はeコマースの売上がとても好調だったが、ビューティとウェルネス企業は実店舗に再びフォーカスしつつある。

Shopify(ショッピファイ)が7月末に従業員の1割削減を発表した際、CEOのトビアス・リュトケ氏は、販売をeコマースに恒久的にシフトするという賭けに出て、それは失敗に終わったと述べた。

リュトケ氏はShopifyの声明で次のように述べている。「パンデミック以前、eコマースの成長は安定しており、予測可能だった。急増は一時的な影響にすぎないのか、それともそれが新しい標準になるのだろうか。状況を見て賭けに出た。チャネルミックス、つまり実店舗ではなく、電子商取引を通じて移動するドルの割合は5年、10年先までもずっと成長し続けるだろうと。当時ははっきりとはわからなかったが、もしそうなる可能性があるならばそれに合わせて会社を拡大しなければならないだろうということは理解していた。いまや、その賭けが当たらなかったことは明白になった」。

リュトケ氏によるとShopifyは依然として有意義な成長を遂げているというが、実店舗からの売上は同氏が期待していたほどではない。また、Shopifyがそのような苦悩を経験しているのは業界全体が物理的な小売に動いていることを示唆している。

eコマース売上の失速

「eコマースの売上は失速し始めている。この数カ月、成長率は確実に鈍化しているとクライアントに伝えている」と述べているのは、ベラルディウォン(Belardi Wong)のプレジデント、ポリー・ウォン氏だ。同社はD2Cと協働しているダイレクトマーケティングとクリエイティブサービスのエージェンシーだ。

ウォン氏は次のように続ける。「忘れないでほしいのだが、パンデミック以前は小売の売上は88%が実店舗、12%がオンラインだった。オンライン売上が急増したパンデミックから抜け出しつつある現在でも、小売販売の約80%が店舗で、20%がオンラインだ。変化は起きているが、(売上高は)依然として店舗がかなりの割合を占めている」。

そのような兆候はD2Cを長い間支持してきた人々からももはや無視されてはいない。グロシエ(Glossier)とセフォラ(Sephora)の永続的なパートナーシップはその例だ。また、実店舗の売上が引き続き好調であるため、ビューティとウェルネスの企業は実店舗のエクスペリエンスの向上に注力している。

体験的小売の復活

アルタビューティ(Ulta Beauty)は、顧客の行動の変化をもっと反映するために店頭でのエクスペリエンスを再構築している。同社の広報担当者は、「当社は目新しいフレッシュな店頭体験、厳選されたストーリーやキャンペーンを展開して全体的な店舗ナビゲーションを向上しているところだ」と述べている。「ブランドの進化した物理的なタッチポイントは『驚くべき』新体験を提供して、店舗全体で発見とストーリーテリングのいっそう優れた機会を提供する。視覚的な要素から隣接カテゴリーの直感的なマーチャンダイジングまでもっとまとまりのあるエクスペリエンスを生み出す。来店する客には、カテゴリー、製品、テーマ、プロモーションの瞬間を示すための一貫したアプローチのエキサイティングで新しいナビゲーションを見つけてもらえるだろう」。

伝えられるところによると、レガシーブランドとインディーズブランドの両方が織り交ぜられて店舗の正面に配置されるという。これは、認知度の向上を目指す新規のインディーズブランドにとっては特に有益だろう。そのようなブランドは通常、アルタの新規ブランド向けの定番であるスパークト(Sparked)セクションに配置されているからだ。

「エクスペリエンス」は、物理的なロケーションに関して企業が強調しているキーワードといえそうだ。

ナチュラルでウォーターレスのネイルサロンであり、製品の販売も行っているバーニッシュレーン(Varnish Lane)の共同創業者兼CEO、ローレン・ダン氏は次のように述べている。「売っているのはネイルではなく、エクスペリエンスと(当社サロンにいるときの)気持ちだと私は常々言っている。クリーンで安全で、美しくて、心からリラックスできる環境を作りたかった。ネイルサロンというより自宅にいるように感じてもらえることが目標だ」。

ワシントンD.C.地区を拠点にしているバーニッシュレーンは、最近サウスカロライナ州チャールストン、ノースカロライナ州シャーロット、ジョージア州アトランタに4ロケーションを展開。同社の計画には新しい不動産開発におけるロケーションがいくつかあり、そこでは同社のネイルサロンが建物の主要ポイントとなる可能性がある。「早めに賃貸契約を結べるように(商業施設ビルなどの)プロジェクトを検討してきた」とダン氏。

賃貸者の柔軟性を利用

住宅を借りている人々は手頃な価格の家を見つけるのに苦労しているが、小売業は、特に「エクスペリエンス」が付随している場合にはより有利な機会を見つけているようだ。

コレス(Korres)の共同創設者であるレナ・コレス氏は「物理的なフットプリントがあり人々と交流する機会を持ちたいと思っている。また、顧客が当社サイトで行いたいと思うエキサイティングなことをすべて物理的に体験できるようにするという別の目標もある」と述べている。コレスは5月にニューヨーク市に1号店をオープンしたが、同氏はその店を「ギリシャのパーティ」と呼んでいる。

コレスは旗艦店のロケーション探しに5年を費やし、エリザベスストリートにスペースを見つけて2021年夏に賃貸を開始した。「あの街角に開店したいと思っていた。当ブランドにふさわしい雰囲気があると感じていたが、空きスペースがなかった。パンデミックによってロケーションを見つけることが可能になり、確保できた」。

「アフターコロナ」というものはもはやあり得ないのかもしれないが、ダン氏によると、ニューヨークの賃貸主は決まった賃貸料ではなく月間収益の割合など、賃貸条件を柔軟に変更することにいまだ積極的だという。しかし、米国南東部となると状況は異なる。

「ニューヨークは当社が注目しているほかの市場とは違う。ニューヨークには、ワシントンD.C.や南部の都市よりもずっと多くの空きスペースがある」とダン氏。「アトランタ、チャールストン、シャーロットでは、街区の建物や高層ビルとは対照的にストリップモールセンター(1階建ての店舗が横に連なっているタイプの商業施設)が多く、賃貸者が既存のテナントと独占契約を結んでいる傾向がある。なので、良いスペースがあったならすぐに契約しなければならない」。

シリーズAの資金調達を行っている最中のバーニッシュレーンは、フロリダとテキサスを検討中だという。ダン氏は、現在の景気後退が資金調達の取り組みや同社の大規模な店舗展開に悪影響を与えることは懸念していないという。

「前例のないレベルでオンラインで製品を購入していた消費者は、エクスペリエンスへの投資へと支出をシフトしつつある。これによりこの3~6カ月間に2つの傾向が見られた。1つ目は、パンデミックを切り抜けたサービス小売業者は現在大規模な拡大を行っており、投資家の関心を集めていること。一方で、製品ビジネスの成長はD2Cの失速により減速していること。そのために、製品ビジネスへの投資活動のハードルが高くなった」と、ステージ1ファイナンシャル(Stage 1 Financial)の共同創業者、ジェレミー・トリフェンバック氏は述べている。バーニッシュレーンは同社の顧客である。

ファシルのエクスペリエンスと製品の統合の例

体験モデルと製品モデルの境界線を探っている企業がある。ロサンゼルスに2ロケーションを抱える皮膚科・スキンケアブティック、ファシル(Facile)は製品ビジネスを成長させる一方で、ニューヨークの不動産を検討してきた。皮膚科医療はファシルの事業の中核(顧客は治療の際のみ医師の診察を受ける)なので、適切なスペースを適切な価格で見つけるだけではなくそのロケーションを強化するのにふさわしい医師を擁することも重要であると述べているのは、共同創業者兼CEOのダニエル・ナディック・レヴィ氏だ。「我々は、ドライバー(Dry Bar)のように何百もの店舗を展開しようとしているわけではない」。

一方、2021年9月にローンチしたファシルの製品ラインはリボルブ(Revolve)とアンソロポロジー(Anthropologie)で取り扱われており、総収益の約30%を占めている。ナディック・レヴィ氏によると、最終的には70%を占める可能性があるという。ファシルはまた、より大規模な実店舗候補地との交渉も行っているところだ。

「当社の消費財部門は小売部門より大きくなる可能性を秘めているが、これは小売部門が成功していることの副産物だ」とナディック・レヴィ氏。「製品に触れて、感じて、見て、製品について学べるので、顧客が自分の小売体験を持てることには利点がある。また、小売体験は治療とセットなので、(製品購入に迷うことなく)すぐに決めることができる」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Why physical retail is bouncing back

PRIYA RAO(翻訳:ぬえよしこ、編集:)

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