Amazon、プライム会員の配送特典を別サイトでも使える「Buy with Prime」発表:進化するフルフィルメント戦略を読み解く

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eコマースの成長が鈍化しつつあるなか、Amazonはフルフィルメント戦略に磨きをかけはじめている。

同社はふたつの重大な発表を行ったが、両者はある意味、相反するように見えるかもしれない。まず、Amazonは4月21日、Buy With Prime(バイウィズプライム)という新機能を発表した。これは、Amazonに出店していない業者も含めて、プライムのフルフィルメントを提供できる機能だ。そして、そのわずか1週間後、Amazonは決算発表の場において、2年間にわたり大規模な投資を行ってきた倉庫スペースへの投資を一時中断すると発表したのだ

CFOを務めるブライアン・オルサブスキー氏は次のように述べている。「当社には現在、需要パターンに対して十分すぎるほどの空きスペースがある。四半期の後半にCovid-19変異株の影響が減少し、従業員が休暇から戻ってくると、当社は人員不足から一気に人員過剰に変化し、生産性低下を引き起こした」。

これらふたつの新たな動きは、Amazonのフルフィルメント戦略の再調整が行われていることを示唆させる。eコマースの大手企業である同社は長年にわたり、倉庫機能の拡張に努めてきた。マーケットプレイスを利用しているブランドに、自社サービスを利用してもらうことで、Amazonのフライホイールの一部であり続けるようにしているのだ。同社は現在、コスト上昇と成長鈍化を認識しながらも、フルフィルメント分野での主導権を広げようとしているようだ。これは、Shopify(ショッピファイ)などの競合他社とのフルフィルメント競争がさらに激化していることに対応したものだ。

成長を一時中断

Amazonは、倉庫の新規開設を中断する計画を公表する以前は、フルフィルメントへの投資を総力で進めてきた。機器レンタルネットワークのビッグレンツ(Big Rentz)からの報告によれば、Amazonは2023年の末までに倉庫面積を3億1900万平方フィート(約2960万平方メートル)に拡大する計画だった。2021年4月の時点で、最大規模の10件の倉庫建設プロジェクトのうち、9件がAmazonによるものだった。

現在、このような野心的な拡大は抑えられている。Amazonが現在、自社の倉庫の業績が悪いと語っているのはある意味注目すべきことだろう。同社は4月、フルフィルメントby Amazon(FBA)を使用している小売業者に対して新たな在庫制限を設定し、特定カテゴリーの価格基準を調整した。この規約の変更により、一部の小売業者は商品を倉庫に入れられなくなった。サプライキック(SupplyKick)のCEOを務めるクリス・パーマー氏は「複雑なメッセージだ」と述べている。

パーマー氏は次のように述べている。「我々は、エアコンや折りたたみ式ワゴンを倉庫に送れなくなった。Amazonがこのような制限を付けているのは、容量が不足しているためだ」。

Amazonがこのような新しい制限と料金を出品者に課している理由としてもっとも考えられるのは、利益を増やすためだ。Amazonは2015年から純利益を報告してきたが、投資家に対して、2022年度第1四半期の純損失は38億ドル(約4860億円)だと報告した。これは電気自動車会社のリビアンオートモーティブ(Rivian Automotive)への投資が大きな原因だが、eコマース企業が転換点に達したことも理由だろう。

ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は次のように述べている。「消費者が店舗に戻るという転換が起きていることから、オンラインショッピングの成長は鈍化している」。

その理由から、料金の引き上げと新しい制限の設定はおそらく、ビジネス上困難な期間に利益を伸ばすための方法と考えられる。それでも、一部の人々はこれが今後のための最良の方法ではないだろうと考えている。

パーマー氏はその後、メールで追加説明している。「Amazonはこれらの在庫補充制限を設定するとともに、保管料を長期的に一貫して引き上げている。つまり、回転が速くない商品のFBAでの在庫は採算が取れなくなっていく。販売が遅い商品を保管し続けるのは極めて困難だ。Amazonは、倉庫スペースに問題があれば、料金を引き下げればいい。そうすれば、業者がAmazonに委託する品目の数量が増えるだろう。それよりも、同社が料金を大幅に引き上げることで、商品が非常に迅速に販売された場合に、大きなメリットがあるということだ」。

新しい顧客をターゲットに設定

同時にAmazonは、Buy With Primeという形で、自社のフルフィルメント収益を増やす計画を進めていることも明白だ。ジャシンスキー氏によれば、この新しいサービスは長期的な影響をもたらす可能性がある。同氏は次のように述べている。「同社は独自の巨大な配送ネットワークを作り上げた。USPS、UPS、FedExを経由するのではなく、非常に多くの部分がAmazonと、その契約業者によって処理される。Buy With Primeにも同じ可能性が考えられる」。

「これは、Shopifyへの大きな脅威や、競合となるばかりではない。私は、AmazonがUSPSやFedExと競合する必要があると考えざるを得ない」と、同氏は続けている。

パーマー氏も同様の見通しを持っている。「私は長期的に、D2C配達の多くの部分がFBAによって行われるようになると考えている」。

その一方で、ほかのeコマース大手は、引き続き自社のフルフィルメント戦略の再修正を行っている。たとえばShopifyは、過去数年間にわたって独自ネットワークの構築を行ってきた。しかし、同社が最近になって新興企業のデリバー(Deliverr)を買収したことは、同社のプラットフォームの戦略が修正され、本来の3PLから、倉庫ブローカーとしての役割を強めていくことに注力する可能性が示唆されている。

これらのすべてを総合的に見ると、各プラットフォームが自社の成長の原動力と明確に見なしている、eコマースの隠された部分が明らかになる。eコマースの成長は減速しつつあるが、オンラインショッピングが消滅することは起こり得ない。このため、Amazonはバックエンドの可能な限り多くの部分をコントロールしようと試み、マーケットプレイスで販売を行っていないブランドさえも呼び込もうとしているようだ。

パーマー氏は次のように述べている。「FBAはAmazonが提供するものの象徴で、同社の将来に向けた成長の道に欠かせない。これに近いフルフィルメントを実現している物流ネットワークはほとんど存在しない」。

[原文:Amazon Briefing: Making sense of Amazon’s evolving fulfillment strategy]

Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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