パブリッシャーの決算報告書に見る、 メディアビジネス の現状:要点まとめ

DIGIDAY

2022年第1四半期が終わり、パブリッシャーは各社とも、こと健全な事業の維持に関しては数多くの懸案を抱えている。

バズフィード(BuzzFeed)にしろ、フューチャー(Future)やガネット(Gannett)、IACのドットダッシュ・メレディス(Dotdash Meredith)、ニューズ・コーポレーション(News Corp)のダウジョーンズ(Dow Jones)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)にしろ、決算報告書を見れば、その理由が景気低迷であれ、ロシア・ウクライナ戦争であれ、広告収益がすでに低調であることは明らかだ。さらに、オーディエンスの行動が読書から買い物まですべてが変化しているため、コマース事業はかつて想定されていたほど利益のあがるビジネスではない。

メディア市場の状況

  • 好調なデジタルサブスクリプション。不調を脱したニュースパブリッシャーもある。
  • その一方で、デジタル広告の収益は、特にプログラマティック広告で落ち込みを見せ始めている。
  • オーディエンスが買い物習慣をオンラインから対面に変えているので、コマース事業も打撃を受けている。

具体的に各社の2022年第1四半期決算報告書を見ると、全体として増益傾向にはある。

  • バズフィードの総収益は2022年度第1四半期が9160万ドル(約115億円)となり、前年同期比26%増。
  • フューチャーの総収益は2022年度上半期4億430万ポンド(約5084万ドル、約647億円)で、前年同期の2億7260万ポンド(約3.5億万ドル、約436億円)から48%増。
  • ガネットの総収益は2022年度第1四半期7億4810万ドル(約935億円)で、前年同期比3.7%減。
  • ドットダッシュ・メレディスの総収益は2022年度第1四半期に5億50万ドル(約626億円)に達し、前年同期の6540万ドル(約81.8億ドル)で765%増。この増加は主にメレディス買収による。
  • ダウジョーンズの総収益は、2022年度第3四半期4億8700万ドル(約609億円)になり、前年同期の4億2100万ドル(約526億円)の16%増。
  • ニューヨーク・タイムズの総収益は前年比14%増で、2022年度第1四半期の収益は5億3740万ドル(約672億円)。

しかしながら、この状況から判断すると、パブリッシャーの経営陣は何とか2022年を切り抜けようと気を引き締める一方で、このように収益がわずかに減少し、成長が鈍るのは、いわゆる「新型コロナウイルス後の世界」に対する一時的な反応にすぎないと希望的観測を抱いている。

デジタル広告収益、試練の時を迎える

ニューヨーク・タイムズの第1四半期の収益から、デジタル広告業界が望ましいとは言えない状況を見せ始める可能性が明らかになった5月4日に発表された2022年度第1四半期の業績発表では、デジタル広告の収益が前年比13%増、6700万ドル(約84億円)まで上昇しているにもかかわらず、同社CEOのメレディス・コピット・レヴィアン氏によると、デジタル広告事業の数字は「期待以下」だという。

しかしながら、第1四半期のデジタル広告の結果にわずかながら不満を見せるパブリッシャーはニューヨーク・タイムズだけではない。バズフィードのCFOフェリシア・デラフォーチュナ氏は同社の第1四半期業績説明会で、「2021年は、市場全体で広告CPMが明らかに季節性の上昇を見せた。それで、プログラマティック広告のCPMが鈍くなっている」と話している。

とはいえ、バズフィードも2021年第1四半期と2022年第1四半期を比較すると、広告収益に上昇が見られる。説明会では、広告分野が前年比26%増を見せ、4870万ドル(約61億円)になったと発表している。ただし、バズフィード増益の大半は、2021年12月に締結したコンプレックス・ネットワークス(Complex Networks)の買収によるものだ。一方、サードパーティプラットフォームの広告収益は前年比で減少しており、その原因は、オーディエンスがFacebookよりもTikTokというように、パブリッシャーと広告収益を共有しないプラットフォームを好むことにあると、デラフォーチュナ氏が業績発表で述べている。

IACのドットダッシュ・メレディスでは、実際にデジタル広告収益が前年比で減少を見せている。これは調整後収益の数字によるもので、2021年度第1四半期からドットダッシュの収益を調整し、メレディス買収が同期の数字に与えたであろう影響を反映させている。

調整後デジタル広告収益(買収後の数字を同じ条件で比較するために、メレディスの買収前収益を含んだもの)は、2021年第1四半期の2億2220万ドル(約277億8000万円)から2022年第1四半期の2億1620万ドル(約270億3000万円)と3%の減少を見せた。同社の決算報告書によると、この減少は、「弊社のサイトへのトラフィックは、コロナ禍でトラフィックが増えた前年と比較すると減少し、ディスプレイ広告とパフォーマンスマーケティングの両方の収益に影響を与えている」「複数のマクロな逆風(オミクロン株、サプライチェーン、ウクライナなど)がディスプレイ広告の環境に影響を与えている」「コンテンツの改善やマネタイゼーションの削減など、メレディスのプロパティにドットダッシュのやり方を導入している」ためだという。

以前とは違うコマース

広告はさておき、コマースもパブリッシャーの2022年第1四半期業績不振の犯人である。

数少ない上場パブリッシャーのなかで、決算報告書にコマースが唯一の収益事業だと発表したのがバズフィードである。2021年第1四半期から2022年まで、コマースの収益は前年比27%減で1060万ドル(約13億3000万円)まで減少した。同社のCFOフェリシア・デラフォーチュナ氏はこれについて、パンデミックの最中にある堅調なeコマースと比較して、「想定内」の減少だと評した。

IACのCEOであるジョーイ・レビン氏も、第1四半期のデジタル収益が望ましいとはいえない結果になったのは、オーディエンスがオンラインショッピングから離れたからだと指摘した。「2022年第1四半期のデジタルビジネスの減益は、前年2021年に見られた新型コロナウイルス関連の異例な消費者行動(2021年第1四半期は、多くの消費者がデバイスを使い自宅でオンラインショッピングを行った)と、短期収益の減少につながる事業変革が相まって生じたものだ」。

しかしバズフィードも、オーディエンスがオンラインで過ごす場所が変わったと主張している。それが、オーディエンスにコマースコンテンツを提供する最大の情報ルート、Facebookに影響を与えたという。

「弊社のコマースコンテンツへのオーディエンストラフィックの大半は、Facebook経由で発生している。つまり、コマースの収益もオーディエンスの消費パターンの変化が影響した」とバズフィードのデラフォーチュナ氏は話す。またオーディエンスがバズフィードのコンテンツ利用時間が、2022年第1四半期には前年同期比で4%減少しているが、これはサードパーティプラットフォームの利用時間が減少したことによるという。というのも、オーディエンスが「TikTokやReelsのような短編バーティカル動画フォーマットのほうを好む傾向が続いている」からだ。

一方、取引や製品比較、レビューがメインのトムズ・ガイド(Tom’s Guide)やスリフター(Thrifter)など複数のブランドを持つフューチャーの場合、同社の2022年度上半期決算報告書によると、「オーガニックグロース」によるアフィリエイト収益は前年同期比で10%減だという。同社は積極的にM&Aを行っているので、同年比の実績をより明確に示すため、2022年上半期に行なわれた企業の買収と売却はオーガニックグロースから除外されている。

新規M&Aを加えると、同社のアフィリエイト収益は前年同期比63%増で、8520万ポンド(1億710万ドル、約136億3000万円)から1億3880万ポンド(1億7450万ドル、2億7920万円)に増加している。報告書によれば、アフィリエイトはフューチャーの収益源として最も多くを占める。

フューチャーの報告書もバズフィードやドットダッシュ・メレディスのように、アフィリエイト収益の自然減少は、コロナ禍当初に生じたオンラインショッピングの急増が自然に収まったことに起因しているとまとめている。自然減少に関して特に興味深いのは、フューチャーの2022年度上半期に、最繁忙期の2021年10月~12月期が含まれている点だ。

プラットフォームを扱うのなら、要はクリエイター

バズフィードは、オーディエンスの好みは引き続きTikTokやReelsのような短編バーティカル動画プラットフォームであると指摘し、BuzzFeedとComplex Networksの両方を含むクリエイタープログラムを構築している。

新しいクリエイタープログラムCatalyst(カタリスト)は、バズフィードの戦略的3本柱のひとつで、創業者でCEOのジョナ・ペレッティ氏が決算説明会で、第1四半期の収益を前年同期比26%増の9160万ドル(約114億5000万円)まで伸ばすことができた立役者だと述べている。

なおCatalystは、同社のほかのイニシアチブUpShots(アップショッツ)とも連携している。これは、広告主がサードバーティプラットフォームを利用してバーティカル動画を制作できるプログラムで、100人以上のクリエイターから1人選ぶことが可能だ。

ニュースパブリッシャーの頼りになる相棒、それはサブスクリプション

今は広告とコマースにとって苦しい時期だが、ニュースパブリッシャーにとっては全く違う。ニューヨーク・タイムズやガネット、ニューズ・コーポレーションのダウジョーンズをはじめとする各社は、デジタル版サブスクリプションを中心に、前年同期比2桁の増益を見せている。

ダウジョーンズのデジタル版サブスクリプションを含む購読料の収益は2022年度第3四半期(2022年1月1日~3月31日)には前年同期比で15%増、4800万ドル増(約60億円)となった。ニューズ・コーポレーションの決算報告によると、ウォールストリートジャーナルは、紙媒体を加えた総購読者数が前年比10%増で、1月1日から3月31日までの四半期で平均370万件を超えた。デジタル版サブスクリプションに限定した場合、16%増になり、同四半期のサブスクリプション数は平均300万件強で、ウォールストリートジャーナル総購読者数の82%を占めるという。

ガネットの場合、収益をデジタル版サブスクリプションに限定すると、2022年3月31日までの第1四半期では前年同期比でほぼ30%増。同じ時期のデジタル版購読者数は175万件で、総購読者数に占めるデジタル版サブスクリプションの割合は前年同期から44%増加した。なお、同社は最大ブランドUSAトゥデイ(USA Today)の有料化開始から1年も経たないうちに、この伸びを実現している。

最後にニューヨーク・タイムズについて触れておこう。同社はスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」(The Athletic)の買収で、購読者数1000万件という2025年の目標を見事に3年前倒しで実現したところだが、コンバージョン率が前年同期の倍増を示すなど、すでに2022年第1四半期でさらなる成長を見せている。決算報告書によると、デジタル版サブスクリプションの収益は、前年同期比で26%増の2億2680万ドル(約283億5000万円)で、デジタル版購読者数は2021年第4四半期の680万件から増加し、830万件に達したという。

[原文:Media Briefing: What publishers’ latest earnings reports say about the state of the media business

Tim Peterson and Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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