地域密着 型マーケティングがブランドにもたらしてくれるもの。米塗料メーカーの場合

DIGIDAY

ベンジャミンムーア(Benjamin Moore)は、新しく家を買った人々に自社の塗料がどこで手に入るかを教えようとしている。といっても、このブランドの製品は小さな会社や地域の小売店でしか購入できないのだ。140年の歴史を持つ同社は、屋外広告(OOH)、印刷物、ディスプレイ広告、インフルエンサーとのパートナーシップを利用して、ブランド認知を高めるだけでなく、同社の製品が大規模小売店では手に入らないことを知ってもらおうとしている。

ベンジャミンムーアのブランドおよびデジタルマーケティング担当バイスプレジデントを務めるメレディス・キンズマン氏は、「50%の人は、ベンジャミンムーアが地域の店舗でしか販売されていないことを知らない」と話す。「ベンジャミンムーアの塗料が置いてあると思って大規模小売店に行った人たちは、置いていないと知って不満を抱く。そこで、我々の製品がどこで販売されているのかを周知したいと考えた。我々は、小規模な地域の小売店にのみ対応している。塗料を購入するのは簡単なことではないため、質問に答えてくれる店員が必要なのだ」。

遊び心のあるアプローチとOOH

ベンジャミンムーアは当初、地元での購入を促すこのマーケティング活動に、「紛れ込み」と称するアプローチを用いた。自社がソーシャルプラットフォームで発信したり、インフルエンサーに投稿してもらったりするコンテンツのなかに、隠れたメッセージを仕掛ける手法だ。たとえば、ある部屋の写真を投稿する。最初はただの部屋に見えるが、よく見ると、写真のなかの絵画に「ベンジャミンムーアの塗料は地元のお店でしか買えません」と書かれていたりする。

まるでかくれんぼのように、このメッセージを見つけた人たちを喜ばせ、買い物客のあいだで話題を呼ぶと同時に知識を広めようというのが、ブランドの狙いだった。最初の「紛れ込み」アプローチに続いて、ブランドは「アーキテクチュラル・ダイジェスト(Architectural Digest)」といった雑誌への印刷広告やディスプレイ広告に加え、30の市場を対象とした地域の屋外広告に取り組んだ。

「これらのビルボードのなかには、大規模小売店の隣に設置されるものもあるため、人々はそこに行ってもベンジャミンムーアが買えないことを知り、地元で経営している店舗を探すようになる」とキンズマン氏は話す。またこの取り組みは、ブランドが近年注力を減らしていたチャネルへの支出にもつながっているという。

「長いあいだ、我々は屋外広告を行わず、印刷物からも撤退し、バナー広告も出してこなかった。しかし今回、オーディエンスが少なかったために離れていたこれらのメディアに戻ることになった。我々が撤退していたメディアが、今回どのようなパフォーマンスを見せるのかテストするのは興味深い」とキンズマン氏は述べている。

ベンジャミンムーアがこれらのチャネルにそれぞれいくら支出し、またこの取り組み全体の予算がどれほどなのかは、キンズマン氏が詳細を伏せたため不明だ。ビビックス(Vivvix)とパスマティックス(Pathmatics)のデータによると、ベンジャミンムーアは2023年の第1四半期にメディアに446万ドル(約6億2250万円)を費やしている。2022年通期では1630万ドル(約22億7500万円)を費やしており、2021年の1700万ドル(約23億7300万円)からわずかに減少している。

ローカルマーケティングがブランドに人間味を持たせる

隠れたメッセージと地域密着型のアプローチを用いる方法は理にかなっていると、ブランドコンサルティング会社プロフェット(Prophet)のシニアパートナーで、マーケティングおよびセールス部門の共同責任者を務めるマット・ザッカー氏は評する。「ローカルマーケティングに関して言えるのは、ブランドに非常に人間味をもたせられるということだ」と同氏は話す。「また現在、自分の近場にあるものに関する検索数が非常に増えており、その点でも好都合だろう」。

独立系マーケティングエージェンシーのナインスワンダー(9thWonder)で、メディアおよびリサーチ担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるカイル・アレン氏は、今回の地域ビルボード広告の取り組みについてこう評している。「メディアプランニングにおいて、『トップダウン』ではなく『ボトムアップ』の視点から地理的要素を考慮することは、多くのエージェンシーやブランドが十分に注意を払っていないメディア戦略における重要な戦略的手段だ」。

さらにアレン氏は、「このようなアプローチをとることで、賢いマーケターは市場内外におけるオーディエンスのダイナミクス、カテゴリー利用、メディア行動における意味のある変化を見つけ出し、それに即した行動をとることができる。我々の経験では、このような考え方は、より効果的で効率的な結果をもたらす」と述べている。

メディアの細分化でリーチが困難に

ベンジャミンムーアは、今回の取り組みがこの先、支出を減らしていたビルボード、印刷物、ディスプレイ広告などのチャネルへの支出増につながるかどうかは明言しなかったが、キンズマン氏の言うように、今回の取り組みがテストの役割を果たし、今後の変化につながる可能性はある。

「現状、マーケターとして大変なのはすべてのことを試し、あらゆるところに存在しなければならないことだ」とキンズマン氏は述べ、メディアが細分化されたことで、人々にリーチすることがより困難になっていると指摘した。「マーケターとしては的を絞りたいのだが、リーチしたい相手の居場所がばらけていると、それが難しい」。

[原文:Benjamin Moore is using OOH near big-box retailers to say their paint isn’t there, encouraging people shop local

Kristina Monllos(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:島田涼平)

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