「コンテンツファーストではない」メディアは成立するか?:MERY のポストメディア戦略

DIGIDAY

Z世代の女性向けメディア「MERY(メリー)」は2度生まれ変わった。1度目は2016年のキュレーションメディア問題を受けてサービスそのものを停止したとき。2度目はコロナ禍のあおりを受けてアプリサービスを終了したときだ。

2016年のキュレーションメディア問題とは、医療メディア「WELQ(ウェルク)」をはじめ、株式会社ディー・エヌ・エーが運営していたメディアの記事内容が問題視された事件。これにより同社の関連10メディアすべてがサービス停止に追い込まれた。当時、同社の子会社だった株式会社ペロリがインディペンデントに運営していた「MERY」もそのなかに含まれる。その後の2017年、小学館とDeNAの共同出資会社のもと、MERYは新たな記事制作体制とフローとともに復活を果たした。

しかし、ふたたび大きな成長を遂げようとしていた矢先、新たな試練がMERYを襲う。2020年のコロナ禍だ。それまで広告中心で経営を賄っていたため、その反動は大きかった。そこでMERYは2021年5月、事業転換を実施。運用コストの高いアプリサービスを終了し、ふたたび新たなコミュニティメディアとして生まれ変わった。

「MERYの持つ独自資源を見つめ直して再解釈し、アプリサービスの終了やコンセプトのリニューアル、そして広告モデル一本足からの脱却を図った」と、株式会社MERYのCOO青木秀樹氏は語る。「従来のメディアのような広告ビジネスでは終わらない」。

DIGIDAY[日本版]が3月17日にザ・リッツ・カールトン東京で開催した、パブリッシャーエグゼクティブのためのイベント「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2022」。本記事では、そのイベントで青木氏が登壇したセッション「コンテンツファーストではないメディアは成立するのか? MERYのポストメディア戦略」の内容をサマリーにしてお届けする。

株式会社MERYのCOO青木秀樹氏

最初の「黄金期」では月商5億

株式会社ペロリが2013年から運営をスタートしたMERY。「ほしいものが見つかる」をコンセプトとするアプリサービスのほか、紙媒体「MERY」の出版やネイルのサブスクリプション事業などをおこなっていた。その後、2014年10月には株式会社ディー・エヌ・エーによるM&Aを受け、MERYを運営するペロリは同社の子会社に。

「当時はまさにこれからキュレーションメディア全盛期を迎えようとする前夜のような時代」と、2015年からMERYの経営に携わっている青木氏は、当時を振り返る。「待っているだけで広告がたくさん入ってきて、記事のタイアップだけで月商5億円を超えていた」。

そのころMERYは、月間2000万UU、月間4億PV、そしてアプリサービスは500万ダウンロードを突破し、まさに破竹の勢いにあった。そのような時代を経験したあと、一連のキュレーションメディア問題が発覚し、MERYはサービス停止に至る。しかし、その半年後、小学館とDeNAが共同出資で設立した「株式会社MERY」のもとで運営再開を果たした。それから1年半で月間440万UU、アプリとウェブサイトを合わせて月間1億4440万PVに復活。さらに電通の資本参加などもあり、運営はふたたび軌道に乗りはじめていた。

テキストメディアの限界

しかし、そこで勃発したのが、2020年のコロナショックだ。この世界的な危機は、多くのデジタルメディアに大きな打撃を与えた。それはMERYも例外ではなかった。

その際に直面したのが「テキストメディアの限界」だと、青木氏は語る。インターネット広告市場において、予約型の広告が減少していき、運用型の市場に取られていくなかで、MERYは前者の収益を中心にしていた。さらにパンデミックの影響を受けやすいライフスタイルメディアという事情も相まって、そのダメージは非常に大きなものだったという。

「収益方法のアップデートについて本気で考えないといけない。これがまず私たちが向き合ったテーマだった」と、青木氏。「たしかにコロナが時計の針を早く回すきっかけとなった。でもそれは言い訳にすぎない。MERYが以前から直面していた事業課題、構造的な問題がコロナによって表面化しただけだ」。

MERYがコロナ禍によって直面した課題

MERYのポストメディア戦略

そうした試行錯誤のうえ、2020年5月、ウェブサイトとともにMERYの主な事業でありコンテンツの発信源であったアプリサービスを終了。そこから大きな事業モデルの刷新、コンセプトのリニューアルをおこなった。そこで策定された新たな方向性は、大きく3つ挙げられるという。

1つ目はメディアビジネスの発展形だ。テキストメディアの限界を課題としてとらえ、TikTokやインスタグラムなどを中心とする短尺動画の配信に注力しはじめた。「今まであまり『人』を感じさせなかったMERYに、人格を持たせるようにした」と青木氏。その具体的な施策のひとつが、「MERY ライフクリエイター」というコミュニティだ。ここではコミュニティメンバーであるインフルエンサーとともに短尺動画を作成。MERYが自社運営する「うぬぼれちゃん(@nem.sheep)」というTikTokアカウントもその一例だ。このアカウントは立ち上げて半年で5万フォロワーを突破している。このように、各種SNSのアカウントをコミュニティと一緒に成長させていくことをMERYは目指しているという。それ以外にもいわゆる従来のメディアとして、Webサイトだけでなく、インスタグラムやTikTok、Twitterなどのソーシャルプラットフォームなど、幅広くコンテンツの提供を続けている。

2つ目がD2Cビジネスの展開だ。MERYが届けてきたコンテンツに対するユーザーの反応からニーズを汲み取り、それをD2Cのプロダクト制作に直接反映。それを、直営ECサイト「MERY shop」などを通して販売する。ハンドメイドのアクセサリーを販売するこのMERY shop、開設当初からアクセサリー好きのコレクターの注目が集まった。最近ではフォトウェディングの拡大とともに、ブライダルシーンにおけるアクセサリー需要も高まり、順調に成長しているという。

そして3つ目がB2Bのソリューションビジネスだ。これまでのメディア運用ノウハウを横展開することで、企業が抱える本質的な課題をMERYが解決する。特にZ世代の知見を生かしたSNSのグロースハックや、コンテンツクリエイティブの制作を得意としているという。たとえば、ファッションブランドと提携した、キービジュアルやブランドサイトの構築などだ。

事業転換を図ったMERYのビジネスプラン

自分たちにしかできないことを

「この1年間で事業のあり方を見直し、それとあわせて我々がユーザーに何を提供したいのか、いわゆるパーパスの部分の見直しもおこなった」。青木氏はセッションのなかで、「餅は餅屋」という例を挙げながら、自分たちにしかできないことは何かを見つめ直し、事業転換を図るなかでも、そこからブレないことの重要性を語った。

MERYは昨年の事業転換で、新たなコンセプトとして「Update my happiness」を掲げている。この背景には、価値観や社会情勢が刻一刻と変わるなかで、Z世代の女性が抱えている漠然とした悩みや不安があるという。

「現代社会では正解の形が多様化し、さまざまな価値観が認められるようになった。その一方で、自分らしさを求められすぎるあまり、Z世代にとってはそれが生きづらさに繋がってしまう。また、ポスト資本主義のなかで置き去りになっている格差社会や環境問題などに対して、多くのZ世代は漠然とした不安を抱えている」。

発信することに意義がある

MERYのユーザーの多くは、Z世代の女性だ。だからこそ、MERYがメッセージを発信することに意義があると青木氏は考えている。

「信念を持ったメディアの役割は非常に大きい。これはアルゴリズムによって成り立っている大きなプラットフォーマーには絶対にできないことで、想いや情熱を持ったパブリッシャーだからできること。その意義が大きくなっているのが、いまだと感じている」と、青木氏は締めくくる。「我々が提供できるメッセージは何なのかを改めて見つめ直すことが重要だ。そして、それを届ける手段は時代に合わせて変わっていくべきだ」。

Written by 黒田千聖、長田真
Photo by 渡部幸和(人物[本文中])

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