イーロン・マスク氏の Twitter 、すべての広告主から避けられているというわけでもない

DIGIDAY

Twitterはいまや、広告主の嫌悪の対象と化している。しかし、皆が皆というわけではない。

数こそ少ないものの、AmazonやApple、BスカイB(BSkyB)などは、そのリスクを承知の上で、Twitterでの出稿を継続している。

イーロン・マスク氏が実権を握るようになったいま、Twitterでの出稿は、思いも寄らない悪い結果をブランドにもたらしても不思議はない。Twitterを買収して以来、「フリースピーチ絶対主義者」を自称するビリオネアのマスク氏は、凍結されたアカウントを復活させ、誤情報に関するポリシーを少なくともひとつ廃止してきた。

AppleやAmazonの動向は

そんなマスク氏には多くのマーケターが神経過敏になっているが、なかには、Twitterでの出稿から得られる利益が、そのリスクを上回っているケースもある。その理由は理解に難くない。ありとあらゆる難題がTwitterを襲ってはいるが、広告費はオーディエンスが行くところへ流れる。Twitterの広告売上に関する最新データを見れば、このことは火を見るよりも明らかだ。

パスマティックス(Pathmatics)が収集したデータによると、マスク氏が買収を完了した週の売上は、総額で3537万ドル(約48億7000万円)だった。その翌週は3545万ドル(約48億8000万円)に増え、それ以降は週ごとに3570万~3590万ドル(約49億1500万円~49億4000万円)のラインをキープしている。つまり、Twitterの広告事業は依然として大赤字を出してはいるが、まだ完全にノックアウトされたわけではないのだ。

クリエイティブエージェンシー、デザイン・ハブ(Design Hub)のCEO、サミュエル・マグロウ氏は、次のように語る。「Twitterでの出稿を再開している広告主もいれば、継続している広告主もいる。Twitterというプラットフォームが、そこでしか得られないターゲットオーディエンスにリーチするための強みやチャンスを提供してくれるからだ。ここのところ、さまざまな論争に巻き込まれてはいるが、Twitterはいまも強力なプラットフォームであり、マーケターに多くの可能性を提供している」。

その一例がAppleだ。パスマティックスによると、マスク氏による買収の前は、AppleはTwitterへ週平均で22万8642ドル(約3148万円)支出していた。買収後は、この金額が0.20%増えて、22万9100ドル(約3154万円)になっているという。

Amazonについては、買収前の支出額は週平均で140万ドル(約1億9300万円)ほどだったが、買収後は69万8325ドル(約9615万円)となっている。米国のメディア、プラットフォーマー(Platformer)のゾーイ・シファー氏が投稿したツイートによれば、Amazonは、Twitterの広告プラットフォームでセキュリティ関連の整備が完了次第、年間約1億ドル(約138億円)の支出を計画しているという。

Twitterに光明を見出すマーケターも

ベイシス・テクノロジーズ(Basis Technologies)でペイドソーシャル担当バイスプレジデントを務めるカエラ・グリーン氏は、「我々のクライアントの事例から見ると、パフォーマンス、つまりターゲットオーディエンスへのリーチや、ユーザー側と広告主側の双方からのエンゲージメントを見るかぎり、大きな移行や変化は起きていない」と述べている。同エージェンシーは、今回の混乱のさなかも継続して、一部クライアントの予算をTwitterへ支出してきた。

ここで明確にしておきたいのは、これらはどれも、Twitterの広告ビジネスを減速させている広告費の大移動に本格的な反転が起きていることを示すシグナルではないということだ。苦境に立たされているTwitterへ舞い戻る広告主は、そう多くはない。でなければ、Twitter側が、新規広告主へのディスカウントや、無料の分析、専用広告フォーマットへのアクセスといったインセンティブを広告主に提供するはずがない。

その一方で、一部の広告費がTwitterへ流れ込んでいるという事実は、必ずしもすべてのマーケターが、Twitterをめぐる一連の騒動を自社ブランドにとっての大きなリスクとみなしているわけではないということをはっきりと示している。それどころか、彼らはここ数週間Twitterに垂れ込める雲に一筋の光明を見いだしてさえいる。

「Twitterは現在、製品公開のペースを落として、ここ数週間に登場しているパロディーアカウントの撲滅に取り組んでいる」と、マーテク企業、コンステレーション(Constellation)のCEO、ダイアナ・リー氏は語る。「また、誤情報対策にもいっそう真剣に取り組むようになっている。近いところでは、反ユダヤ主義的なコメントを投稿したイェ(旧名:カニエ・ウェスト)のアカウント凍結を見ればわかる」

AppleやAmazonなどの広告主にとって最も重要なオーディエンスは、いまなおTwitterを利用している。これが現実だ。このレベルの人気を擁するブランドがポジティブなメッセージを維持・拡大するには、Twitterではオープンで自然な会話を常に管理できるわけではないということを知っておくことが何よりも重要だ。こうしたことに前述のインセンティブを加えれば、Twitterをどうするかについて考え直すマーケターが出てくるとしても、何の不思議もない。

そのインセンティブの内容とは?

常連をつなぎとめ、新規を獲得するために、Twitterは現在、広告主にそれなりのインセンティブを提供している。

マグロウ氏のもとには、あるクライアントからその内容を詳しく記したTwitterからのメールが転送されてきた。そこには、Twitterに50万ドル(約6900万円)以上支出する広告主には、100万ドル(約1億3800万円)を上限として、Twitterがその額に応じたマッチングを行うと書かれていた。35万ドル(約4800万円)支出する広告主にはトータルコストの50%分の、20万ドル(2750万円)支出する広告主にはトータルコストの25%分のインプレッションが追加で与えられるという。

また、マグロウ氏によれば、これらインセンティブの一環として、無料の分析も提供されているという。そのひとつが「Ads Insights」で、広告インプレッションやクリック、エンゲージメントなどのキーパフォーマンス指標に切り込むデータを広告主に提供する。

「Twitterは、キーワードやユーザーセグメンテーションといった、より高度なターゲティング広告オプションが利用できる『Twitter Ads API』へのアクセスも提供している」と、マグロウ氏は語る。「広告フォーマットの変数に関してもささやかれているが、私もクライアントも、新しいインセンティブについては何も聞いていない」。

ルールの存在を証明する例外

Twitterでの出稿をめぐるこれらの議論はどれも、マーケティング界隈を支配する現在の風潮とは相反している。Twitterはブランドにとって安全な場所ではないと多くの関係者が考えており、マーケターたちはそんなプラットフォームでの出稿に難色を示しているように見える。

マーケティング戦略エージェンシー、ベラソーニ(Verasoni)のCEO、エイブ・カスボ氏は、「現在も引き続き、Twitterとは距離を置くようにクライアントにはアドバイスしている。マスク氏の行動は予測できないからだ」と語る。「ブランドや消費者が痛い目に遭うおそれのある混乱劇には、首を突っ込まないのが得策だろう。Twitterに投資すれば、午前3時に批判の的にされて、慌てて出稿を中止して対応を迫られるという事態を招きかねない。クライアントにそんなことをしろとはとても言えない。ブランドが消費者とエンゲージできるメディアはいくらでもあるのに、そんなリスクを取る必要はどこにもない。Twitterだけではないのだ」。

ブランドセーフティに関するリスクは、ニューヨーク市の地下鉄に人々が抱く安全リスクと少し似ているかもしれない。

アドテク企業、ペリオン(Perion)のCEO、ドロン・ガーステル氏は、次のように語る。「地下鉄での犯罪は、ニューヨーク市全体の犯罪の2.6%にすぎないが、メディアの報道を見ていると、そうは思えないだろう。同じように、メディアは誤情報のリスクをやたらと強調するが、その割合はコンテンツ全体のごくわずかだ。それだけメディアの影響力は大きいということだ」。

[原文:Whisper it: some advertisers still like Elon Musk’s Twitter

Krystal Scanlon(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)

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