経済的な逆風も、 エージェンシー のM&Aブームは減速せず:「1+1が5になるような力学が働くのであれば、M&Aを追求すべきだ」

DIGIDAY

インフレの嵐が吹き荒れ、金利が急騰し、景気後退の兆しがいたるところに潜んでいる。こうしたなかで、かつて熱狂に沸いたエージェンシー領域のM&A市場は、今年後半から2023年にかけてどうなるのだろうか。

先週、ブランドテックグループ(Brandtech Group)が「ジェリーフィッシュグループ(Jellyfish Group)の買収について、フランスの投資会社のフィマラック(Fimalac)と独占交渉を開始した」と発表したのだが、景気の雲行きが怪しくなり、M&A市場も冷え込むものと見ていた業界の識者たちは、この素っ気ないほど短い発表文に驚きを隠せなかった。ジェリーフィッシュはロブ・ピエール氏が経営するデジタルマーケティングエージェンシーで、フィマラックが株式の過半数を保有している。

この交渉についていずれの当事者もコメントを控えているが、厳しい環境下にもかかわらず、エージェンシーの買収に意欲を見せているのはプライベートエクイティ企業だけではないようだ。

「1兆ドルの市場機会」がある領域

ハバス(Havas)でCEOを務めたデヴィッド・ジョーンズ氏が経営するブランドテックグループはこれまでにも興味深い買収活動を展開しており、同氏はこの6月に米DIGIDAYがおこなった取材で「マーケティング界のセールスフォース(Salesforce)をめざす」と話している。

ただし、メディア部門の買収に関しては手薄感が否めず、あるメディアコンサルティング会社の幹部は「ジェリーフィッシュの買収は賢い一手だ」とオフレコを条件に語っている。「世界的な大手企業を顧客に加えたくても、現在のブランドテックの規模では無理な話だ」とこの幹部は話す。「ジェリーフィッシュといっしょなら、デジタル特化ではあるが、大規模で発展性のあるメディアサービスをグローバルに提供できるだろう。現状では到底手の届かないスタグウェル(Stagwell)やS4らとも十分張り合えるはずだ。この買収が成立すれば、ブランドテックはメディアバイイングとエグゼキューションの領域で、規模と信頼性を手にすることができるだろう」。

ブランドテックグループによる驚きではあるが賢明な買収話にとどまらず、ほかの投資顧問会社もM&A市場が再び堅調に転じると見ている。M&A専門のコンサルティング会社としてマディソンアレー(Madison Alley)を創業し、CEOを務めるマイケル・サイドラー氏によると、昨年成立した戦略会社もしくはPEによるエージェンシーやマーケティングサービスのM&Aは、案件数にして400を超え、総額で100億ドル(約1兆330億円)近くにおよぶ。今年はすでに、第1四半期に約115件で45億ドル(約600億円)超、第2四半期に125件で15億ドル(約200億円)相当のM&Aが成立した。

活発なM&Aを目の当たりにして、サイドラー氏は確信した。コンサルティング会社やアドテク企業も含めれば、より広範なマーケティングコミュニケーション領域で、「1兆ドル(約133兆円)の市場機会」があるはずだ。サイドラー氏はアクセンチュア(Accenture)やデロイト(Deloitte)のほか、タタ(Tata)、ウィプロ(Wipro)、インフォシス(Infosys)などの多国籍企業を挙げながら、「マーケティングサービス部門はその10%程度にすぎない」と語った。「マーケティングサービス企業は開発力を養い、カスタムソフトウェアの開発や戦略的デジタルトランスフォーメーションに注力しはじめており、我々はこの部門に大きな可能性を見ている」。

何を求めてM&Aに取り組むのか

メディアセンス(MediaSense)で戦略部門のマネージングパートナーを務めるライアン・カンギサー氏は、専門性の高いマーケティングショップの需要が高い分野として、リテールメディアを挙げている。「米国ではリテールメディアの成長が著しい反面、この分野を専門に扱えるショップは圧倒的に不足している」と同氏は話す。「この分野に明るい、顧客の支持を得られる独立系の企業があれば、確実にM&Aの動きが出るだろう」。

持株会社のスタグウェルでCEOを務めるマーク・ペン氏は、同社の決算発表後、「伝統的な持株会社に対抗する長期的な戦略の一環として、今後も買収活動を継続する意向だ」と述べている。「我々の戦略目標はグローバルな事業拡大であり、我々のテクノロジーを世界的に普及させたい」と同氏は話す。「為替相場は大きな要因のひとつだ。ドル高になれば、他国の企業を30%多く買収できる。たとえば、(エージェンシーの)評価倍率が20%から30%下がり、ドルが20%から30%上がれば、少なくとも我々のような米国企業には、さらなるM&Aの可能性が開かれるだろう」。

プライベートエクイティの領域でも、2年から4年前の買収案件がいくつか転売時期を迎えるため、何らかの動きがあるだろう(多くのM&A仲介企業によると、一般的に、PEは買収した企業を5年以内に売却するという)。サイドラー氏は、リアルケミストリー(Real Chemistry)、バウンティアス(Bounteous)、ティヌイティ(Tinuiti)など、この時期に買収されたいくつかの独立系エージェンシーがまもなく売りに出されるだろうと見ている。ナイキのメディア業務の大部分を獲得したPMGでさえ、買収のターゲットになりうるという。

ロンドンを拠点とするM&Aコンサルティング会社のエージェンシーフューチャーズ(Agency Futures)でCEOを務めるダグ・バクスター氏は、M&Aで考慮すべき重要事項として「文化」を挙げている。「事業の相乗効果という側面だけでなく、文化的にも、1+1が5になるような力学が働いているか考える必要がある」と同氏は話す。「そういうM&Aを追求すべきであり、重要なのは、共通のビジョンを持つ相手を見つけ、理に適う事業の統合を模索することだ」。

[原文:Media Buying Briefing: M&A shows no signs of letting up despite economic headwinds

Michael Bürgi(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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