広告付きストリーミング 市場で、存在感を増しつつあるDSP:サムスンの提案が意味するもの

DIGIDAY

広告付きストリーミングサービス市場で起きているさまざまな競争のなかで、DSPを前面に押し出した戦略はもっとも目立たないかもしれないが、もっとも大きな影響をもたらす可能性を秘めている。ストリーミング広告市場では、プログラマティックが今年のアップフロント交渉でこれまで以上に大きな役割を担うはずだ。したがって、DSPは広告主のプログラマティック購入用ツールとして、ますます重要な役割を引き受けることになるだろう。

CTV(コネクテッドTV)プラットフォームを所有するサムスン(Samsung)も、DSPがますます中心的な役割を果たすと考えていることが、5月上旬に開催されたニューフロント(NewFront:デジタル広告枠の販売イベント)のプレゼンテーションで明らかになった

サムスンは、同社のCTVプラットフォームで広告を配信する広告主に対し、アップフロントで購入した従来のTV広告枠をサムスンのDSPで管理することを提案したのだ。サムスンは広告主に対し「TVネットワークと取引をするなら、弊社の広告購入ツールに管理させてほしい。そうすれば、これが重要なことなのだが、取引の実行を監視し、その状況をチェックできるようになる」と伝えている。

今回のポイント

  • サムスンが広告主に対し、同社のDSPを利用してTVネットワークとのアップフロント契約を管理することを提案している。
  • この提案は、ストリーミング広告市場においてDSPが中心的な役割を果たしていることを示すものだ。
  • プラットフォームのDSPでアップフロント契約を管理すれば、リーチとフリークエンシーに対する広告主の不満は解消されるかもしれないが、競合が問題となる可能性がある。

プラットフォーム側の需要

理屈のうえでは、サムスンの提案は筋が通っており、広告付きストリーミング市場でDSPが重要になる根本的な理由をうまく説明している。広告主やエージェンシーは日頃から、ストリーミングキャンペーンでリーチとフリークエンシーを管理することの難しさに不満を述べている。そんな彼らがCTVプラットフォームのDSPに参加すれば、DSP経由で購入した広告だけでなく、アップフロント契約を通じてTVネットワークから直接購入した広告も管理できるようになるだろう。

「アップフロント支出やコミットされた支出を抱える広告主なら、それらの支出をひとつのプラットフォームで管理できる機能は、社内やエージェンシーのチームにとって魅力的なものになる。また、リーチやフリークエンシーをまとめて管理できるだけでなく、測定もまとめて行えるようになれば、メリットになるのは間違いない」と、マーケティングサービスコンサルタント会社のケプラー・グループ(Kepler Group)でビデオ・センター・オブ・エクセレンス担当アソシエイトバイスプレジデントを務めるケビン・カーン氏はいう。

だが、サムスンの提案は、DSPがトロイの木馬と化す可能性をも示している。サムスンは公平な存在ではない。自社が手がける無料の広告付きストリーミングTVサービス経由で、また自社のCTVプラットフォームを利用しているサードパーティのストリーミングサービス経由で広告を販売し、TVネットワークやストリーミングサービスと広告主の予算を争っているのだ。

広告主がサムスンのDSPでアップフロント取引を管理するようになれば、サムスンのDSPはそのアップフロント取引の効果を把握できるようになる。リーチとフリークエンシーを追跡し、リーチできていないオーディエンスをターゲットにしたイベントリー(在庫)を販売できるからだ。建前上は、彼らも客観的な立場で追跡や提案を行うはずだが、ストリーミング広告の販売者が所有するDSPは、自社のインベントリーに広告予算を振り向けようとする可能性があるとして、警戒する広告主もいる。

どのDPSと手を組むべきか?

誤解のないようにいえば、後者の懸念はサムスンのDSPに限った話ではない。ストリーミング広告の販売者が所有するすべてのDSPに当てはまる。たとえば、AmazonのDSPは、広告主がAmazonの購買データを利用して、AmazonのCTVプラットフォームの広告を購入できるようにしている。Googleのディスプレイ・アンド・ビデオ360(Display & Video 360)は、YouTubeのインベントリーへの独占的なアクセスを提供しているDSPだ。Roku(ロク)のワンビュー(OneView)では、RokuのFASTサービスであるRoku Channel(ロクチャンネル)と独自のオーディエンスデータに独占的にアクセスできる。

「Rokuがすべてを管理しているからといって、つまり配信を独自のアルゴリズムで管理しているからといって、自分たちに有利になるように変更を加えているかどうかはわからない」と、広告エージェンシーのキグリー・シンプソン(Quigley-Simpson)でメディアおよび分析担当エグゼクティブバイスプレジデントとデータおよび分析担当バイスプレジデントを務めるスコット・マースデン氏は、5月4日に開催されたDIGIDAY Programmatic Marketing Summitのステージで指摘している。

「彼らはあらゆる面倒な仕事を自社のプラットフォームでやってもらいたいと考えている」と、Amazon、サムスン、Roku、Google、YouTubeを担当するエージェンシー幹部のひとりはいう。「彼らは、私たちが監視だけでなく管理を必要としていることを知っている。また、もうひとつ考えるべきことがある。それは、メディアに縛られていないザ・トレードデスク(The Trade Desk)のようなDSPと提携するのか、(Rokukの)ワンビューやAmazonのDSPや(Googleの)ディスプレイ・アンド・ビデオ360と手を組む道を選ぶのかということだ。また、どれかひとつを選んだ場合に、すべてのフリークエンシーとリーチをひとつの場所で確認するうえで、どのような課題が待ち受けているのかも考える必要がある」。

このエージェンシー幹部が触れたように、広告主が考えるべきもうひとつの点は、アップフロント取引をCTVプラットフォームが所有するDSPで管理すれば、そのプラットフォームにおけるリーチとフリークエンシーを管理しやすくなる反面、さまざまなCTVプラットフォームで横断的にリーチとフリークエンシーを管理する能力が制限されるということだ。

広告主にとって現時点での問題は

とはいえ、プラットフォームのDSPを少なくとも独立系のDSPとともに利用することには、多くのメリットがある。プラットフォームのDSPなら、そのプラットフォーム独自のファーストパーティデータを利用できる。たとえば、スマートTVに組み込まれた自動コンテンツ認識技術で収集された視聴データなどだ。さらに、プラットフォームはたいてい、自分たちが所有、取引しているインベントリーへの独占的なアクセスを提供している。

「各プラットフォームのデータや彼らが所有、取引しているインベントリーがそのプラットフォームで独占的に提供されている限り、壁はしばらく存在し続けるだろう」と、カーン氏は語った。

したがって、広告主にとっての問題は、プラットフォームのDSPと独立系のDSPのどちらを選ぶかということではない。いまのところ、広告主は両方のDSPへの対応を続けている。それよりも問題なのは、今年のアップフロント交渉でDSPがどのような役割を果たすのかということなのだ。

[原文:Future of TV Briefing: Demand-side platforms stand to play a more important role in the ad-supported streaming market

Tim Peterson(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)

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