求職者が「企業に求める」条件、コロナ禍の影響で変化:「チェック項目が大幅に増えた」

DIGIDAY

コロナ禍は、いわゆる「大離職時代」の引き金を引いた。記録的な数の労働者が、仕事を辞めたり変えたりしている。人的資源の争奪戦は激化するばかりだ。優秀な人材の確保や維持に奔走するリクルーターや人事担当者の苦労は察するに余りある。しかも、すべてはリモートで行われるのだ。

誰にとっても、変化に満ちた20カ月だった。人材不足のさなか、仕事や企業に対する働き手の期待も変化しており、リクルーターたちは労働者と雇用主のマッチングに苦心している。

HRテック企業のエンプロイメントヒーロー(Employment Hero)が実施した最近の調査によると、英国では、ミレニアル世代の77%がキャリアの再出発を積極的に模索しており、また、このさき半年以内に250万人の経営幹部や管理職者が離職する。後任の採用にかかるコストは総額で340億ポンド(約5兆3100億円)にのぼるという。

一方、英国のオープン大学(The Open University)が10月に発表した年次報告書「2021年版ビジネスバロメーター」によると、現在英国の企業幹部の63%が採用問題で苦労しており、その主な理由は、採用候補者に専門的なスキルや経験が不足していることだ。この問題は、特にデジタルやハイテク分野で深刻だという。さらに、雇用主の24%が、「このスキル不足は、今後5年間で企業が直面する最大の課題になるだろう」と答えている。

ただ一方で、この報告書の共同発行者に名を連ねるインスティテュート・オブ・ディレクターズ(Institute of Directors)のチーフエコノミスト、キティ・アッシャー氏によると、「候補者のスキル不足をリモートワークが補う可能性や、将来の働き手を育成する技能実習の役割への期待など、前向きな見方を示す動きもある」という。

Dropbox(ドロップボックス)で国際的な採用活動を統括するローラ・ライアン氏も、コロナ禍の影響で生じたポジティブな変化に注目し、こう述べている。「リモートワークの大きなメリットは、求職者の居住地を問わずに適材を採用することができるため、人材のプールが広がることだ。また、採用のプロセスをバーチャル化することにより、面接の日程調整から実施までの時差が70%短縮された」。

煩雑化する採用活動

パンデミック勃発前夜の2019年12月、CRMプラットフォームを提供するハブスポット(HubSpot)は、企業レビューサイトのグラスドア(Glassdoor)が発表する、「米国でもっとも働きたい企業」の第1位に選ばれた。しかし、同社はこの栄光に安住することはなかった。2020年には働き方を全面的に見直し、いちはやく完全リモート化を断行するとともに、従業員の幸福度を向上させるための長期的な計画を策定した。

ハブスポットでは、従業員の満足感を維持し、燃え尽きを防ぐための福利厚生として、無制限の休暇や、学業を続けるための資金援助を提供するほか、同社が拠点を持つところならどこでも3カ月のあいだ勤務できるという特典も用意している。

ハブスポットでグローバルリクルーティング担当バイスプレジデントであり、マサチューセッツ州ケンブリッジ在住のベッキー・マカラ氏によると、リモートワークへの移行により、人材プールの多様化が大きく進んだという。同氏は、テクノロジー分野のリクルーターであればなおさら、迷わずこのプールを活用すべきだと訴える。

マカラ氏はさらにこう指摘する。「コロナ禍以前の採用プロセスでは、求職者の居住地が採否を決める大きな要因となっていた。特にテクノロジー業界における採用は、世界的に見ても、大都市に大きく偏っている」。同氏によると、2005年から2017年にかけて米国で急増したハイテク分野の雇用の90%を、わずか5つの都市圏が独占していたという。「この状況が、所得の格差を助長しただけなく、地方の小都市からの人材採用を難しくしていた」。

フランク・リクルートメント・グループ(Frank Recruitment Group)を率いるプレジデントのゾーイ・モリス氏も、同じ考えの持ち主だ。同グループは世界各地に20を超えるオフィスを構え、マイクロソフト(Microsoft)、セールスフォース(Salesforce)、AWSら、大手ハイテク企業に人材を供給している。「採用活動で一番大きく変わった点は、求職者たちが仕事を探すうえで優先する労働条件が、大きく変わったことだろう」とモリス氏は話す。「特に柔軟な勤務時間や福利厚生など、求職者がマークするチェック項目が大幅に増えて、その分、採用活動は以前よりもずっと煩雑になっている」。

重要なのは「多様性」「包摂性」「帰属性」

確かに、パワーバランスは雇用者から被雇用者へと傾いている。一方で、経営コンサルティング企業のマッキンゼー(McKinsey)をはじめ、調査企業がまとめた各種の報告書を見る限り、最高額の報酬を提示した者が勝利するのかといえば、もはやそういう時代でもないようだ。給与が増えることよりも、目的意識や価値観の共有を重視する労働者が増えている。

採用担当者が担う役割も複雑化している。欧州・中東・アフリカ諸国(EMEA)で、ワークプレイス(Workplace:Facebookが提供するビジネス向けコミュニケーションツール)の責任者を務めるナジル・ウルガニ氏はこう話す。「真のコミュニティや包摂性のある文化を創造し、それによって優秀な人材を獲得または維持したいと考える企業経営者にとって、共感力と信頼性はいまや不可欠の資質となっている」。実際、同社が実施した調査によると、英国の従業員の58%は、企業の支援が十分でないと感じたら、離職を検討すると回答している。

ハブスポットのマカラ氏は、優れた人材の確保と豊かな文化の育成には、多様性、包摂性、帰属性と並んで、人材の流動性が重要になっていると考える。同氏によると、ポストコロナの人材業界では、順応性と柔軟性を備えた人材紹介企業が勝者となるという。

「在宅と出社のハイブリッド勤務の導入、新たな人材プールの活用、面接プロセスの見直しなど、採用業務を担う者たちは、あるべき候補者体験を実現し、企業文化や企業理念を採用プロセスに反映させる手立てを模索しつつ、働き方や採用をめぐる既成概念の変革に取り組んでいる」。

[原文:‘There are now a lot more boxes a role needs to tick’: Recruiters share how post-pandemic job expectations have changed

OLIVER PICKUP(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)

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