物事が瞬時に起こる今日のデジタルの世界では、PR企業は時間をかけた「スローなブランド構築」の価値を顧客に売り込むのに苦労している。2020年のデジタルブームと、パンデミックによるロックダウンで人々がオンラインショッピングにより多くの時間を費やすようになったことで、この問題は悪化の一途をたどっていると業界の専門家らは述べている。
米DIGIDAYの以前の報道によると、ブランドたちがマーケティング戦略としてバイラルになろうとする傾向は近年、顧客とエージェンシーの関係に負担をかけている。一方、本稿の取材に応じた経験の長いPR業務のベテランは、ブランドはマーケティング戦略の手っ取り早い解決策を求めてエージェンシーを次々に変えていると述べている。
匿名を条件に業界について赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、経験豊富なPR分野のプロフェッショナルでありエージェンシーのファウンダーでもある人物が、クライアントが持つ非現実的な期待、エージェンシーを次々に変える行為、それがコミュニケーション分野にどのような影響を与えるかについて、自身のフラストレーションを語ってくれた。
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このインタビューは、わかりやすさのために編集および要約されている。
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――PR会社とブランドの現在の関係はどうなっているのか。なぜいま、緊張状態にあると感じているのか?
興味深いことに、多くのブランドはPR会社とよい関係を築くための必要な手段を避けたがる。その代わりに、多くのブランドが何もかも丸投げできるエージェンシーと一緒にローンチに取り組んでいる。往々にして結果が出ず誰も幸せにならないが、それでも自分達自身がよいパートナーになろうとはせず、そのエージェンシーを切り捨て別のエージェンシーに行くのだ。そして、新しいエージェンシーでも同じ結果を味わい、また別のエージェンシーに行く。
私たちはこうしたブランドの存在を把握しており、業界内ではジャンパー(次から次に飛びつく人々)と呼ばれている。もしあなたが年に3回PRエージェンシーを変えるなら、おそらく原因はエージェンシーにはない。ブランドが望むPR結果を得るためには、エージェンシーとよいブランドパートナーになる必要があり、そのためにはブランド自身もよきパートナーとなるよう努力しなければいけない。
――ジャンパーたちができていないこととは、なんだろうか?
PR会社との窓口となる人物を社内に置くことだ。それはファウンダーではダメだ。なぜなら、特にスタートアップの場合ファウンダーは常にとても忙しく、PR会社と向き合う十分な時間を割くことができないからだ。私たちがファウンダーたちにメールを送り、懸命にインタビューを整理し、戦略を検討しても、そもそも返信が返ってこない。それが1番の問題だ。
2番目の問題は、ブランド自身が市場のどこに位置しているのかについて現実的な認識を持っていないこと。もはや「ディスラプティブ(市場に新しい変化を起こすような)なD2Cブランド」という立ち位置は特別なことでもなんでもなく、不十分な認識だ。自分たちが何者なのか、なぜ革新的なことをしているのかを理解し、私たちと協力してそのストーリーを語る必要がある。
エージェンシーとして我々がやらなければならない仕事はたくさんある。そのためには、ブランドが私たちと一緒にテーブルに座り、一緒に取り組んでくれることが必要だ。ブランドにはある種の怠惰さがある。「私たちは君たちに私たちのストーリーを伝えてもらいたい。これが当社の製品。これが当社のラインシート。これがタイムライン。では、お返事よろしく」という感じだ。しかし、いまはそのやり方では通用しない。みんな、PR会社に現実を見せつけようとしているようだが、これらのブランドの多くは、自分たちの現実をちゃんと理解できているのか。チェックが必要だ。
――もう少しブランドの「怠惰」について聞きたい。
パンデミック以降のこの2年間、そうしたブランドに関しては協力する姿勢が欠如している。彼らはただ「これが、私たちがおこなっていること。それを宣伝するためのストーリーを作ってくれ」というだけだ。これでは通用しない。もっと多くのPRエージェンシーがそんなブランドに「ノー」と言ってくれるといいのだが。
――あなたの考える解決策は?
新しい提案依頼を受けて、先方が「あなた(PRエージェンシー)に成功してもらうためには、私たち(ブランド)から何を必要としているか」と質問をしてきたら、彼らはよいパートナーだとわかる。そうでなく、「私はブランドのファウンダーで、正直PRに集中する時間はあまりない。でも素晴らしいものになるよ」と言っているようであれば、それは危険な信号だ。
もしブランドがよいパートナーになるための時間を惜しまなければ、彼らに必要なのは腕のいいエージェンシーだけであり、求める結果が得られるだろう。これは私見だが、ブランドがエージェンシーを切り捨てる理由の80%は、そのパートナーシップから結果を出すために必要な作業をブランド側が怠ったためで、そういう意味では、私たちは最初から負けるゲームに置かれているとも言える。
私がファウンダーとミーティングをすることになったとき、「私もあなたも幸せにはなれなさそうだ」とぼやきたくなるのは、その時点で失敗が約束されていることがわかっているからだ。
Kimeko McCoy(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)