「NYTゲームズ」の成功、いかに日本で再現すべきか?:AnyMind 作増志郎 氏に訊く、最新収益化トレンド

DIGIDAY

ニュースパブリッシャーにとって、ゲームは救世主となり得るのか。

ニュースパブリッシャー本来の提供価値である記事制作が、必ずしも収益化にはつながらない状況が生まれている。そのため、国内外のニュースパブリッシャーたちは、新手法のコンテンツ投入、サブスクリプションモデルの導入、オンラインサロンの開催、ECサイト運営など、さまざまなマネタイズ手法にチャレンジしてきた。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times、以下:NYT)は、そんなニュースパブリッシャーの代表的な1社だ。同社はさまざまな改革を進め、いち早くDXに成功したことは、もはや説明不要だろう。

そのNYTが新たな収益化手段として「ゲーム」を取り入れ始めている。というのも、同社は最近、人気の言葉当てゲーム「Wordle(ワードル)」を数百万ドルで買収した。このニュースを聞いて驚いた人は、少なくないだろう。なにしろ、これまでの施策に加えて、巨額の投資をしてまで、ゲームを導入しようとしているのだ。

NYTは、なぜゲームに投資をしたのか?

「ニュースパブリッシャーにとって、サイト内でのゲーム提供によるメリットは少なくない」と、パブリッシャーの収益化支援に取り組む、株式会社フォーエム(FourM)の取締役とAnyMind Japan(エニーマインドジャパン)株式会社の事業部長を兼任する作増志郎氏は語る。

「ユーザーが、記事コンテンツを読むだけでなく、ゲームと記事を行き来することによってサイト内での滞在時間が長くなる」と、作増氏は続ける。「その結果、ユーザーあたりの記事への接触機会が増える。またゲーム内には広告掲出も可能なため、広告収入も期待することができる」。

フォーエム/AnyMind Japanの作増志郎氏

さらに作増氏は、「1日あたりのプレイヤー数が数百万人になるという『Wordle』のような、知名度と人気のあるゲームを自社コンテンツに取り込むことができれば、そのファンは必然的にニューヨーク・タイムズのサイトを訪れることになる。これは有料のユーザーが1000万人超というNYTにとって、大きな成功といえるだろう」と補足した。

実は日本でもすでに、サイト内のコンテンツに「数独」のようなゲームを取り入れているニュースパブリッシャーが存在する。そもそも紙ベースの新聞の時代には、クロスワードパズルのようなゲームは、紙面で展開されていた。その延長として現在でも、デジタル上のニュースサイトでゲームが利用されているのだ。

日本のニュースパブリッシャーのゲーム活用は、はじまったばかりだ。「だから、まだまだ発展の余地がある。もっと積極的にゲームを活用することで、NYTのような成功につながる可能性があるのだ」と、作増氏は語る。

NYTのゲーム施策の特徴は2点ある

たとえば、NYTのゲーム施策の特徴は2点あると、作増氏は指摘する。まずひとつが、NYTが大量のユーザーをすでに抱えていること。ゲームコンテンツの投入によってさらにトラフィックが増加すれば、それは収益増にもつながりうる。つまり、相当規模のユーザーがいるニュースパブリッシャーであれば、ゲームコンテンツによってその会員基盤をさらに活性化できる可能性が高いということだ。

もうひとつが、NYTという媒体に合ったゲームを選択していること。NYTのユーザー層を考えると、たとえば派手なキャラクター系のゲームなどでは、あまり歓迎されなかったかもしれない。というのも、NYTのユーザーは、頭を使うことが好きなインテリジェントな人が多いからだ。ニュースを読むことは頭を使うが、Wordleも相当頭を使う。その意味で親和性が高かったのだろうと、作増氏は解説する。

「ニュースパブリッシャーの1コンテンツとして提供されるゲームは、コアなゲームファンが喜ぶような難度が高いものよりも、プレイしているうちに自然とルールがわかる、いわゆる『脳トレ系』が適切だ」と、作増氏。

そのほうが、ルールが単純なだけでなく、初プレイの敷居が低い。それにもかかわらず、クリアするのは難しいために、ユーザーはいわゆる『ハマる』状態になりやすいのだ。だからこそ結果として、自然と滞在時間も長くなるのだろう。

需要と供給がWin-Winの関係に

しかし、気になるのは開発費だ。ただでさえテック人材が足りていない日本のニュースパブリッシャーが、海の物とも山の物ともつかぬ新規事業に大枚をはたくのは難しい。自前でゲームを用意できなければ、ゲームプロバイダーからプロダクトを調達する必要がある。だが、そのツテを探すところから始めなければならない企業も多いだろう。

だが、実は、ゲームプロバイダー側も、ニュースパブリッシャーのようなビジネスパートナーを渇望している。

かつては、個人のゲームクリエイターであっても、ヒットコンテンツを作ることができれば、一攫千金で巨額の利益を上げることができた。しかし今ではマーケットが成熟し、大手メーカーたちによる、ほぼ寡占状態となっているため、新規参入には巨額の広告費用が必要になる。つまり、規模の小さなゲームプロバイダーは、そもそもマーケットに入ることすら非常に困難な状況なのだ。

このような小規模ゲームプロバイダーにとって、大量のトラフィックが期待できるニュースパブリッシャーのメディアに自社のゲームが採用されるメリットは計り知れない。ゲームの知名度の向上が見込める上、ニュースパブリッシャーのサイトから自社サイトへの誘導を図ることで、ゲーム販売の機会拡大にもつながるからだ。

作増氏は、「つまり、ニュースパブリッシャーにとってゲームは集客と収益向上を実現でき、ゲームプロバイダーからすると自社ゲームの認知拡大と販売ルートの確保を実現できる。ニュースパブリッシャーがゲームを取り入れることは、ゲームプロバイダーとのWin-Winの関係にあるといえる」と述べる。

AnyManagerで勝ち筋を見つける

コロナ禍を機会として、ゲーム関連のマーケットは世界的に大きく伸びた。そして、このような成長を続けているゲームを、ニュースパブリッシャーが利用しやすくするプロダクトが、AnyMindの展開する「AnyManager(エニーマネージャー)」だ。

AnyManagerにはすでに数百にも及ぶゲームが用意されている。ニュースパブリッシャーは、それらのゲームをCMSで自社メディアのコンテンツとして埋め込むことで、簡単に導入できる仕組みになっている。CMSが用意されているというと、ニュースパブリッシャーが自分でゲームを選び、メディアに埋め込むように思えるが、基本的にはAnyMindのコンサルタントが各パートナーにつき、相談をしながらどのゲームを採用するか決めていく。

沖縄タイムスプラスにおいても、AnyManager GAMESによってクロスワードやブラックジャックのようなゲームを導入している。特定のカテゴリページ配下にゲーム用のJavaScriptタグを1行実装するだけなので、パブリッシャーの開発リソースを圧迫せずに実装できる。

沖縄タイムスで実装されているAnyManager GAMES

「ニュースパブリッシャーにとってどのようなゲームが適切なのか、A/Bテストを繰り返して検証する必要がある。だが、その部分についてニュースパブリッシャーは不得手だろう。パートナーと相談もしながら、どのゲームだとユーザーが滞留するのか、CPMが高いのか、マネタイズにつながる施策を進め、新たな勝ち筋を見つけるのが我々のミッションだ」。

オールインワンのプラットフォーム「AnyManager(エニーマネージャー)」(※画像クリックで拡大)

「一度で成功事例をつくろうとしない」

では、日ごろあまりゲームに馴染みのないニュースパブリッシャーが新たにゲームを導入する際、どのようなマインドが必要なのか。

「それは、一度で成功事例をつくろうとしないことだ」と、作増氏は指摘する。

「このことは、ニュースパブリッシャーの本業でもある記事制作に置き換えると分かりやすいだろう。PVの伸びる記事とは、一度で作れるものではない。何本もの記事を制作し、試行錯誤を繰り返すなかでようやく、どのような記事が好まれ、PVを伸ばすポイントがどこなのかを掴めるようになる。ゲームも記事作成と同じで、どのようなゲームが自分たちのユーザーに受け入れられるのかは、メディアごとに異なるため未知数である。数多くのゲームをトライし、検証を繰り返していくことではじめて、自分たちのユーザーが『ハマる』ゲームを打ち出せるようになる」と、作増氏は語った。

つまり、すべてのゲームを成功させなければと気負うのではなく、自分たちのユーザーの傾向を理解できるように、代わる代わるゲームを掲載して検証していくマインドセットが大切なのだ。どのゲームを提供するとユーザーがプレイするのか、その反応を楽しみながら取り組むべきなのだろう。そして自社のメディアに合うゲームが分かったら、最終的には自分たちで独自ゲームの制作にも挑戦してもいいだろう。

AnyMindが開発した脳トレ系ゲーム「Merge The Numbers」

パブリッシャーの情熱とアイデアを実現するために

ゲームの導入は、新規ユーザーの獲得と収益化を両立させ、結果的にすべてのKPIを向上させる可能性がある。いずれは、ニュースパブリッシャーのビジネスを下支えするコンテンツにもなるかもしれない。

さらにゲームは、ほかのビジネスへの架け橋にもなり得る。サードパーティーデータが規制されるなか、大手ニュースパブリッシャーなどでは、ハッシュ化したメールアドレスをIDとしているケースが多い。それだけに留まらず、IDをキーにしてどのようなゲームをプレイしているか、どのような広告がふさわしいのか、しっかりと見極める仕組みを整えることで、EC系案件の獲得に寄与する可能性もある。その意味で、ゲームが持つポテンシャルは非常に高い。

「ゲームとニュースパブリッシャーの成功を、ここから作っていきたい」と、作増氏は締めくくる。「ゲームの広告で収益を上げてゲームをプレイしてもらうことで、滞在時間が伸びて、記事も読まれるようになる。ゲームの導入が、ニュースパブリッシャーが情熱を実現するためのひとつの収益軸になっていけばいいと思う」。

Sponsored by AnyMind Japan

Written by DIGIDAY Brand STUDIO(滝口雅志)
Photo by 合田和弘(人物)

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