Google のイニシアチブは、規制回避の自己保身優先か?:YouTube広告の「開放」から、サードパーティCookie廃止延期まで

DIGIDAY

非公式にではあるが、GoogleがEUの独占禁止法規制当局の怒りを鎮めるために、YouTubeでのサードパーティの広告出稿を許可すると申し出たという話が伝わってきた。もし事実なら、この動向が及ぼす影響は計り知れない。

この噂の1年前に、GoogleはChromeにおけるサードパーティCookieの廃止を延期すると発表している。一部の観測筋は、この計画もまた政治的意味合いを含んでおり、また同じことが繰り返されるのではとにらんでいる。

ロイター(Reuters)によれば、Googleの親会社であるアルファベット(Alphabet)は、サードパーティのアドテク企業各社による同社の各種サービスへのアクセスを制限しているかどうかをめぐるEUの調査に対する是正案として、サードパーティにYouTubeでの出稿を許可することを申し出たようだ。

Googleからの「和解」の申し出か

ロイターの6月13日付けの記事は、匿名の情報筋の証言として、EUの独占禁止法規制当局が「広告主はGoogleのDSPサービスであるディスプレイ&ビデオ360(DV360)とGoogle広告を使用してYouTube広告を購入するとする、Googleの要件を調査している」と報じた。

いまのところ、この是正案の影響力がほかのアドサーバーやDSPにも及ぶのかどうかはわかっていない。また一部からは、米国をはじめほかの国々でもGoogleが同様の独占禁止法をめぐる捜査に直面しているという現状を考慮して、これが全世界に展開される可能性があるのかについてを問う声も上がっているが、もしそうなれば、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)などの独立系プレイヤーは業績の上向きを期待できるだろう。

詳細を確かめるべく、米DIGIDAYがGoogleに質問したところ、広報担当者から次のような答えが返ってきた。「Googleは欧州委員会と建設的な関係を築いている。現時点では、これ以上申し上げられることはない」。

アルファベットの昨年の売上は約2570億ドル(34兆7140億円)で、そのうちYouTube広告の売上は約290億ドル(3兆9170億円)だった。同社は先日のGoogleマーケティング・ライブ(Google Marketing Live)で、YouTubeショートのさらなるマネタイズと、広告主のための検索およびショッピング機能のさらなる統合に向けた計画を発表した。

ワイヤーコープ(WireCorp)のCSOで、ファースト・パーティ・キャピタル(First Party Captial)のゼネラルパートナーでもあるシアラン・オケイン氏は、報じられているこの動向が示唆するのは、EU当局に対するGoogleの顕著な和解の申し出であり、ヨーロッパ以外の反トラスト当局も自国への申し出を期待するだろうと話す。

「米国以外の国々では、CTVイコールYouTubeだ。YouTubeでインベントリーが買えるのはDV360だけであるという事実が意味するのは、多くのエージェンシーがこのようにしてGoogleと結びついているということだ」と、同氏は語る。「Googleは今後、このような譲歩をほかのエリアでも行なっていくのではないだろうか。解体のリスクといった、独占禁止法調査がもたらす影響を彼らはおそれているからだ」。

Cookieは2023年以降も存続?

Googleがいま本腰を入れて取り組んでいるイニシアチブはほかにもある。市場をリードするウェブブラウザ、Chromeでの脱サードパーティCookieに対する技術的解決策の発見だ。慎重さが要求されるこのスキームで、果たしてほかのアドテクプロバイダーを弱体化させることなく、ユーザーのプライバシーをよりよく促進できるのかは、実施してみなければわからない点が多い。

このイニシアチブの中核となるのが、プライバシー・サンドボックス(Privacy Sandbox)だ。問題の解決に向けたさまざまな提案から成るプライバシー・サンドボックスは、一部の関係者のあいだで反感を買う一方で、英国の競争・市場庁(Competition and Markets Authority)などのほかの独占禁止法規制当局からの監視も呼び込んできた。

6月13日付けのロイターの記事を受けて、Googleの広報担当者は次のように述べている。「プライバシー・サンドボックスに関しては、規制当局、業界各社と共に、できるかぎりよい成果をあげられるように取り組みを進めている」。

市場観測筋なら、プライバシー・サンドボックスに対する初期の実験にともなう複雑さの影響で、GoogleがサードパーティCookieの廃止を2023年の最終四半期まで延期したことを思い出すだろう。

一部からは、Googleの上に垂れ込める政治的暗雲はもちろん、プライバシー・サンドボックスをめぐる状況が遅々として進まないことへの不安から、業界内で自己優先的なのではないかという批判が生じることを恐れ、またも同じことを繰り返すのではないかという疑問の声が上がっている。

プライバシーへの対応か、規制当局を欺くためか

投資銀行のルマ・パートナーズ(LUMA Partners)が今年5月に行ったイベントの壇上で、同銀行のCEOであるテレンス・カワジャ氏は、Googleでプラットフォーム部門のアメリカ大陸担当バイスプレジデントを務めるショーン・ダウニー氏にこの質問を投げかけた。ダウニー氏の回答から伝わってきたのは歯切れの悪さだった。

「私自身がこだわっているのは、(プライバシーの)第1原則だ」と、ダウニー氏は述べた。「しかし、さまざまな組織とさまざまな国がひしめき合う市場において、Googleは両者に解決策を提供しなければならない。プライバシーに関する確固たる基盤を築いた上で、誰もが納得できる体制を敷かなければならない」。

その後、IABテック・ラボ(IAB Tech Lab)主催のあるカンファレンスで、米DIGIDAYはメディアモンクス(Media.Monks)でGTMデータ部門のバイスプレジデントを務めるマイルス・ヤンガー氏に話を聞いた。同社は、Googleのアドスタックにおけるビジネスの最適化とキャンペーンの実施に関するサービスを広告主に提供している。ヤンガー氏はダウニー氏が表明した考えに同意し、消費者がプライバシー水準の向上を求めていることに「疑いの余地はない」と述べた。

「消費者のスタンスははっきりしている。Googleについても同じだ」と、ヤンガー氏は語る。Googleの方針決定が下流に及ぼすかもしれない影響のひとつとして同氏は、「データを処理し、デバイス上で決定するという可能性が意味しうるのは、基盤レベルでデジタル広告の仕組みにもたらされる極度の変化だ。その可能性はさらにその先へと押し進められることも考えられる」と指摘する。

一方、IDファイブ(ID 5)のCEO、マチュー・ロシュ氏は、プライバシー・サンドボックスはGoogleの計略のひとつであり、それによって同社は、競合するアドテクプロバイダーのニーズに応えようとしているという印象を与えようと目論んでいると話す。「自分たちはプライバシー・サンドボックスで業界各社の生死を左右できる支配力を持つ広告プレイヤーではない……というふりをして、規制当局を欺こうとしているだけであって、実際の彼らは業界のために何かを構築しているわけではない」と、同氏は語る。

「彼らが構築しているのは、自分たちは市場を支配できる地位にはいないというふりをするための隠れ蓑だ。したがって、それを延期するかどうかをめぐる決断には、何の意味もない。いずれにせよ、Cookieはもう死んでいる。いまやそれが機能しているのは、全デバイスの半分以下だけだ」

Googleが狙う「2つの物語」

Googleがプライバシー・サンドボックスをプライバシー対応と競争重視という「デュアルナラティブ」を打ち立てるためだけに利用する−−EMXデジタル(EMX Digital)のCEO、マイケル・ザッカースキー氏は、それを「興味深い説」と表現する。

「もし誰かがこれを考案したのなら、実によくできた戦略だが、実行に移すには大きな手間がかかるだろう。私が思うに、重要なのは消費者と政治家がこのテクノロジーの仕組みと、それに関わるトレードオフをできるかぎり深く理解することだ」と、同氏は語る。

「我々全員が、これらのテクノロジーがどのように機能して価値とエンターテイメントを提供するかを可能な限り学ぶ必要があるだろう。(中略)私からすると、Googleのアイデアが消費者の注目を集めるほどフォーカスされているとは思えない」。

[原文:YouTube’s competition remedies spark debate on potential future concessions

Ronan Shields(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)

Source

タイトルとURLをコピーしました