サプライチェーンスペシャリスト : 小売業界でもっとも注目を浴びる職務の中身

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こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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過去2年間に、サプライチェーンをあと回しで考えることの危険性が明らかになった。そのため、多くの小売業者やブランドは、物流の運用を主導するために経験を積んだ人材を雇用するようになってきた。

過去1年間に、多くの小売企業は最高サプライチェーン責任者と専門家を割り当て、協力するサプライヤを多様化し、サプライチェーンのさまざまな部分での遅延を軽減、およびそのほかの作業を行うようなった。一部の企業は、在庫管理の課題が積み重なっていくことに対応するため、新しい最高サプライチェーン責任者を任命するようになった。ほかのD2C新興企業は、回復力のあるサプライチェーンを構築する重要性が昨年明らかになったことを受けて、過去に行ったよりも早くサプライチェーンの専門家を引き入れようとしている。

3月初頭にペロトン(Peloton)は、アンドルー・レンディッチ氏が最高サプライチェーン責任者として同社に加わることを発表した。レンディッチ氏はグローブ・コラボレーティブ(Grove Collaborative)からペロトンに移籍し、同社によれば「ペロトンのサプライチェーン、配送、メンバーサポート、および情報テクノロジーチームを監督する」。ペロトンは昨年の生産とフルフィルメントに10億ドル(約1240億円)を投資しており、同社の自転車の需要減少を予測するのに困難を抱えてきた。この新しい雇用は、ペロトンが自社の構造改革の一部としてサプライチェーンエグゼクティブのチームをレイオフしたあとで発表された。

早期段階のブランドは、自社のサプライチェーン部門の構築にも有利なスタートを切っている。D2Cのオリーブオイルブランドのブライトランド(Brightland)は、自社初となるサプライチェーンアナリストを雇用することを検討。求人情報によれば、選ばれた候補者は「既存の商品のサプライと物流の管理を主に担当するほか、新商品と販売チャネルの運用サポートも行う」。

サプライチェーン専門家の職務

ブランドまたは小売業者でのサプライチェーンの運用を監督する責任者には、もっとも一般的なものとして、最高サプライチェーン責任者、運用責任者などいくつかの役職のうちひとつが与えられることがある。会社がこれらの役割の人材をいつ雇用するかは、その会社の規模と範囲によって異なる。たとえば食料や飲料の会社は、卸売に参入し、生産を大幅に増強することが必要になったあとで、サプライチェーンの専門家を招き入れるかもしれない。しかし、一部の創設者はこの2年間で、もっと早期に専門家を引き入れるべきだと考えるようになってきている。

パンのブランドであるスーパーナチュラル(Supernatural)の創設者であるカーメル・ハーゲン氏は、あと数年間はサプライチェーン専門家の雇用が必要ないと考えていた。「いくつもの小売業者の管理が必要になるまでは、創設者自身が多くの役割にうまく時間を割くことができる」と同氏は以前米モダンリテールに語った。しかし、同社がホールフーズ(Whole Foods)とストップ・アンド・ショップ(Stop & Shop)に商品を卸すようになり、パンデミックのあいだにAmazonなどいくつものオンラインマーケットプレイスでも商品を販売するようになったことから、サプライチェーン側の管理が難しくなってきた。

このためハーゲン氏は昨年運用責任者を雇用した。この運用責任者は入社してから、スーパーナチュラルのD2C在庫や、小売業者との日常的な連絡を、卸売発注も含めて管理してきた。「厳密に言うと、運用担当者を雇用するのに適した時期は、私が行ったよりも3から6カ月前だっただろう。しかし私は、そろそろ行うべきときだと確信した」と、ハーゲン氏は述べている。

ベンダーとの関係構築も重要

サプライチェーンに特化した役割を雇用するには、サプライヤーと製造業者とのつながりについて深い知識が必要となる。遅延が続いたことから、各ブランドはサプライチェーンの問題を解決するために、これらのエグゼクティブが役立つことを期待している。

たとえば、ブライトランドのサプライチェーンアナリストの職位では、在庫計画を実行し、「ベンダーとの優れた関係を作り上げ」、サプライチェーンの問題点を特定して、それらに対する解決策を提案し、そのほかに日常的なタスクを行うよう、候補者に求める。また応募者は、サプライチェーンまたは関連する物流について3年から5年間の経験を持つことも求められる。

ほかの職位と同様に、大企業でサプライチェーンの運用に携わった経験があることは強みとなる。卵白を基礎とするラップブランドのエッグライフ(Egglife)は2019年に創設され、サプライチェーンのベテランを最近雇用したCPG新興企業のひとつだ。同社は2021年初頭に、クラフトフーズ(Kraft Foods)のスナックと菓子のビジネスで製造と運用を主導していたシンシア・ワゴナー氏を、サプライチェーン責任者として招き入れた。同氏の役割の一部は、製造および配送要員のサポートで、エッグライフが今年さらに多くの小売業者と取引をはじめるにつれ、新しい商業施設のサポートも行う。

専任を招き入れないとしても

ほかの企業では、専任のサプライチェーン責任者を招き入れないとしても、ほかのトップエグゼクティブの役割を雇用するとき、サプライチェーンの経験を重視している。

サブスクリプションのプロバイオティクスおよびマイクロバイオームの研究企業であるシード(Seed)は、2021年後半にエリック・カウ氏を最高執行責任者として雇用し、同氏はサプライチェーンの運用も監督する。

カウ氏の過去の経歴には、Amazonのビタミンおよびスポーツ栄養部門での仕事や、美容品サブスクリプションボックスサービスのボクシーチャーム(BoxyCharm)のCOOがある。同氏は新興企業のボクシーチャームで、eコマースとサプライチェーンなどいくつかの職務を主導し、この職務がシードでの役割にも引き継がれたと同氏は語っている。

シードのサプライチェーンは、農業のパートナーシップとコールドチェーン物流に依存しており、常に複雑なものだったと、カウ氏は説明する。「私は、インフラストラクチャの知識を活用して、当社のマルチプロダクトの拡大戦略を作り上げる」と同氏は述べている。同氏はシードのサプライチェーンチームを運用し、シードの財務と会計のインフラストラクチャを、共同創設者のラージャ・ダール氏とともに作り上げようとしている。「当社が現在特に注力しているのは、サステイナブルなパッケージについてだ」と同氏は語る。

需要拡大に対応するための能力

消費者向けブランドがサプライチェーンを重視するにつれ、指数的な成長目標を達成するには、サプライチェーンに関する新しい雇用が鍵であると認識するようになってきた。一部の消費者向けブランドは過去数年間に売上額が2倍、さらには3倍に増加しており、需要に対応するため製造能力の増強が必要であることがわかってきている。

たとえばエッグライフは、小売店舗数を2021年の2000店から、今年は食料品店チェーンのスプラウト(Sprouts)やクローガー(Kroger)も含めて1万店以上に拡大した。これによる大量の注文に応じるため、同社は製造能力を2倍に増強し、販売担当者の雇用を増やそうとしている。

同様に、昨年11月にCBDブランドのハイラインウェルネス(Highline Wellness)にプレジデント兼最高執行責任者として入社したアリン・マエックス氏は、同社の重要な成長期間において、サプライチェーンの最適化に注力している。同氏の新しい役割の一部には、CBDブランドの拡大の監督と、拡大していく製品ラインの原料の調達および管理が含まれている。

「私が入社してから、当社はサプライチェーンを最適化し、急成長していく企業の需要をパートナーが満たせることを保証するため、熱意を持って働いてきた」と、マエックス氏は米モダンリテールに語った。

欠かせないサプライチェーン戦略

マエックス氏とそのチームは過去数カ月にわたり、「より厳格な需要計画のパラメータを実装してきた」と説明している。また同氏は、ハイラインウェルネスが新たに重視している部分として、必要なパッケージングの効率化、商品製造のストレステスト、および成功していないSKUの製造終了の監督も行っている。「当社は、自社商品のポートフォリオも詳細に調べ、必要な調整を加えている」と同氏は続ける。顧客からのフィードバックと、長期的に原料が利用可能かどうかも考慮に加えていると、同氏は述べている。

これらの手順はすべて、「当社のサプライチェーンのあらゆる部分がシームレスに働くことを保証する」ためのものだと、同氏は述べている。

「当社の最終的な目標は、ビジネスの売上を4億5000万ドル(約558億円)まで増やすことだ」とマエックス氏は締めくくっている。同社の年間収益は現在約2000万ドル(約24億8000万円)で、今後5年間でこの目標値に達することをめざしている。「そのためには、成長と平行してサプライチェーンの微調整が必要になるだろう」。

[原文:The hottest job in retail: Supply chain specialist]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:長田真)

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