ジェネレーティブAI は業界をどのように変えるか【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

ファッションブランドでは、ジェネレーティブAIが大きな効率化の役割を担うようになりつつある。ジェネレーティブAIとは、大規模なデータセットで訓練された人工知能アルゴリズムで、コンテンツ、テキスト、音声、動画を作成する。ジェネレーティブAIはブランドが長年活用してきた高度な分析を超えており、おかげでブランドはこれまでよりも迅速に、そしてほとんどのケースにおいて低コストでコンテンツを作成できるようになっている。

ボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting Group)のラグジュアリー部門グローバルヘッドであるサラ・ウィラースドルフ氏は、「AIとはステップが自動化された高度な分析のサブコンポーネントだと捉えている」と述べた。同氏はAIの特徴として、機械学習あるいは自己学習能力と、単なるコードではなく、人間の言葉を理解または再現する能力である自然言語処理を挙げている。ジェネレーティブAIの利点のひとつは、順序付けられたデータセットとは対照的に、非構造化データセットから生成できることだという。

重要なのは元データの著作権や顧客データの保護

AIコンテンツにはデータが不可欠なため、そのデータがどこから来たもので、誰が所有しているのかという法的な問題が大きくなっている。訴訟を避けたいブランドは、自社のファーストパーティデータを用いたジェネレーティブAIのトレーニングや使用に限定している。

AIの利用に特化した正確な知的財産権法はまだ制定されていないが、すでに2月の時点でビジュアルメディア企業のゲッティ(Getty)がAI画像生成ツールのステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)のクリエイターを相手取って訴訟を起こしている。その訴訟では、写真が無断で使用され、著作権や商標権を侵害されたと主張している。ゲッティのように大量のデータの所有者は、AI利用がどのくらい早く一般化するか、またどの画像がジェネレーティブAIに使えるのかという点において、重要な意思決定者となる。

ドイツのeテイラーであるザランド(Zalando)は、ジェネレーティブAIテキストツールのChatGPTを消費者向けのバーチャルアシスタントとして使用すると4月に発表した。同社の広報担当者によると、ザランドにとって特に重要なのは顧客データの保護だという。「信頼できる体験を提供するというザランドのコミットメントに沿って、個人情報保護とAI保護を含む、顧客にとって信頼できるコンパニオンを作ることを目指す」。

「当社のファッションアシスタント(Fashion Assistant)が関連する答えを提供するという目的で、顧客の検索は私たちに代わってChatGPTによって処理される」とザランドは説明している。「ただし、これはサービスプロバイダー契約の下で行われる。その契約には、データ処理契約を含む一般データ保護規則の下で要求される保護が含まれている。つまり、OpenAIが独自の目的で顧客のデータを処理することは一切なく、当社の指示と管理の下でのみ行われる」。

コンテンツ制作において、AIはゲームチェンジャーだ

自社データでAIを訓練しているファッションのアーリーアダプターでは、非常によい結果が得られている。2018年に創業した英国のラグジュアリーニットウェアブランド、シープ・インク(Sheep Inc)は、5月19日にリリースされるキャンペーンの開発にAIを使用した。過去のキャンペーン写真を活用したAIインテグレーションで、同ブランドでは通常8週間ほどかかるキャンペーンスケジュールを数日に短縮できたという。

シープ・インクは、自社の写真とAIツールを使ってニットウェアのハーフジップ(Half Zip)、羊、モデルを起用したフォトリアリズムなキャンペーン画像を作成した。クリエイティブチームは、このツールを使って希望通りのイメージを作り出している。同社の担当者は、使用したツールの詳細や必要とされた投資額については明言を避けた。

シープ・インクはすでにNFCタグを使用して、ニュージーランドのサステナブルなウールの調達先から加工や製造などのステップにいたるまでの衣料品の追跡を行っている。10人で構成された同社のチームにとって、AIに基づいたキャンペーンを活用することは、時間やコスト、二酸化炭素排出量の削減など、複数のメリットがある。

「私たちはつねに、次に何が起こるか、どうすれば自分たちの影響をさらに改善できるかを楽しみにしている」と、シープ・インクの共同創業者エッツァルト・ヴァン・デル・ウィック氏は述べた。「こうしたジェネレーティブAIツールが出てきたことで、それにまつわる技術的な恐怖がたくさんあることは当然ながら理解している。我々はいまもいくらか警戒しながら取り入れているが、コンテンツ制作の観点からすると、まさにゲームチェンジャーだ」。

AIでコストや時間を短縮し、排出量を削減

シープ・インクのようなラグジュアリーブランドのキャンペーンは、通常、制作に4週間から8週間かかる。モデルの手配、ムードボードの作成、適切なフォトグラファーやロケーションの確保、そして写真撮影や編集といったステップがある。金のかかるプロセスであり、また最終的なイメージに違和感があったり、顧客の好感触を得られなかった場合、再度作り直さなければならなくなるのもよくあることだ。

「私たちのビジネスはまだ成長過程にあり、巨大なファッションメゾンのマーケティング予算には太刀打ちできない」とヴァン・デル・ウィック氏は言う。「人々の関心を引くエキサイティングで美しい世界を作りたいと思っているが、実際には費用面で不可能なことが多い。従来の写真撮影の手段でそれをやろうとしても、そのレベルの結果を得るのは非常に難しいが、AIを使えばかなり簡単になる」。

ファッションの写真撮影にも、多大なカーボンフットプリントがある。「ほんの少しでもエキゾチックなことをしたいと思ったら、移動にかかる二酸化炭素の排出量がある」とヴァン・デル・ウィック氏。「羊を登場させたいと考えたこともあったが、動物愛護の問題が出てくるため、実際に行うのを躊躇していた」。新しいキャンペーンではAIの羊のイメージが使われた。

ヴァン・デル・ウィック氏いわく、AIキャンペーンは、特にブランドの従来のキャンペーンと比較した場合、コストが最小限で済み、さらに少人数のチームの負担を軽減する。「あらゆる場所でマージンが非常に厳しく、マーケティングコストが大きく上昇しているという最近の状況で生き残るには、本当に無駄なく経営する必要がある」。キャンペーンが法的に遵守されていることを確実にするため、シープ・インクではAIの訓練に自社のファーストパーティデータのみを使用したという。

ヴァン・デル・ウィック氏は、販売プロセス、在庫需要予測、顧客サービスなど、ビジネスのほかの分野でもAIを活用している。「カスタマーエクスペリエンスチームのメンバーのひとりは、B-Corpのプロセスも実行している」と同氏は述べた。「AIを使えば、もっと多くの時間をB-Corpの側面に集中させることができるだろう」。

AI技術を活用し、これまで実現できなかったものを作る

一方、リボルブ(Revolve)では、AIによる画像生成がマーケティングのクリエイティビティに関する新たな可能性を切り開いている。eテイラーである同社は、先月パームスプリングスの複数の場所で展開した最新のビルボードキャンペーン「ベストトリップ(Best Trip)」の制作と実行に、AIファッションウィーク(AI Fashion Week)を主催するAIクリエイティブエージェンシーのメゾン・メタ(Maison.Meta)を選択した。クリエイティブチームは画像データを活用し、インフルエンサー、明るい色、フェスティバルとのつながりなど、リボルブの特徴を組み込んだプロンプトを作成した。

「リボルブはテクノロジー企業としてスタートしたこともあり、AIは当社の革新の歴史と次の進化の段階を反映していると感じている」と、同社の創業者でCEOのマイケル・メンテ氏は言う。「今回のキャンペーンの目的は、コスト削減ではなく、従来の制作では実現できなかったものを制作するためにAI技術を活用し、キャンペーンを作り出すことだった」。現時点では、リボルブはステーブル・ディフュージョンがさまざまなソースからかき集めた画像データの使用に頼っている。

「AIが何らかの形で当社のビジネスのあらゆる側面に触れる可能性があると信じており、あらゆるゾーンで最新の技術やツールを積極的に探求している」とメンテ氏は述べた。

リボルブでは、6年前に詐欺部門で初めてAIを使用しており、その後、会社全体で引き続き適用を展開している。上場企業であるリボルブはテクノロジーへの多大な投資を行っており、決算説明会でもその点について何度も言及している。全体として、投資家は以前からイノベーションを優先する企業に目を向けている。

[原文:Fashion Briefing: How generative AI is changing the industry]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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