YSL ボーテ、 EEGテクノロジー の導入でフレグランスのパーソナライズを可能に:脳波を測定し好みの香りを判定

DIGIDAY

ロレアルグループ(L’Oréal Group)のテックインキュベーターは、顧客が自分の要望に基づいて最適なフレグランスを見つけられるよう支援するために神経科学企業のエモーティブ(Emotiv)と提携した。

ロレアルはエモーティブとともに、消費者が好みの香りをパーソナライズして正確に選択できるようにする新たなヘッドセットデバイスのローンチに取り組んでいる。エモーティブのヘッドセットは2022年末より、詳細は明らかにされていないがまずは数カ国のイブ・サンローラン(YSL)旗艦店で展開し、2023年にかけて拡大していく予定だ。

脳波を測定し好みの香りを判定するテクノロジー

ロレアルのテックインキュベーターのトップを率いるギーヴ・バルーチ氏によると、同社のテックインキュベーターは、メイクアップ、スキンケア、ヘアケアに関するデバイスをリリースしているが、そのなかでもフレグランスはとくにむずかしいという。フレグランスを買う際に嗅覚がすぐに疲弊してしまうため、本当の意味で香りを嗅ぐことができなくなるのだ。たまに香水売り場でコーヒー豆の香りを嗅いでもらうことがあるのは、コース料理の合間に出されるシャーベットのように、嗅覚をリフレッシュさせるためだ。

「これはテクノロジーと人類の出会いだ」とバルーチ氏は言う。「正しいフレグランスを見つけるのはむずかしいプロセスだが、このテクノロジーで(顧客がそうできるよう)手助けしたいと思う」。

YSLの店舗を訪れた顧客は、マルチセンサーEEGヘッドセットを装着してフレグランスコンサルティングを受けることになる。このヘッドセットはニューロンの反応を測定し、それをフレグランスの好みと合致させる。EEGとは脳波記録のことで、頭皮上の脳波の形状における電気的活動を非侵襲的に計測するものだ。ヘッドセットには、脳波を解釈する機械学習アルゴリズムが使用されていて、ヘッドセットを装着している間に顧客は独自の香りのファミリーからフレグランスの匂いを嗅ぐと、ヘッドセットが現実世界の状況における顧客の行動、好み、ストレス、注意レベルを正確に感知してモニターする。近年、EEGテクノロジーは消費者により身近になっており、瞑想や睡眠、ゲームなどに応用されている。

ロレアルとエモーティブは、このフレグランス体験を実現するために「ウッディー」や「フローラル」といったアコードと呼ばれる14種類の異なる香りのグループを開発した。これらのアコードは、イブ・サンローラン・ボーテ(YSL Beauty)の約45種類あるフレグランスポートフォリオに対応している。まず顧客は、どんなテクスチャーや素材、フレグランスの種類が好きかといった定性的な質問に関する8つのアンケートに回答する。その結果を元に4~6種類のアコードが提案され、顧客はヘッドセットを装着してその香りを嗅ぐことになる。EEGヘッドセットは、デジタルパッドを通して消費者に感情のニューロマップを表示するが、そこでは脳波活動の減少や増加が表示され、幸せな気持ちやおだやかな気分といった感情に脳波がどのように対応しているのかが示される。その後、顧客の感情ニューロマップに基づいたおすすめのフレグランスが最大4つまで提示され、選択のパラドックスを解消するのに役立つという仕組みだ。

消費者は香りに心理的ベネフィットを求めている

ロレアルのテックインキュベーターにとって、フレグランスは新たな挑戦だった。レコメンデーションを行うには感情的かつ定性的な体験を定量的なアルゴリズムに変換する必要があった。インキュベーターはエモーティブとともに15カ月間このテクノロジーの開発に取り組んだ、とバルーチ氏は言う。フレグランスのアコードが設計の初期段階にはなかったことも課題だった。当初、このガジェットのフレグランスのレコメンデーションがテストグループのあいだで意にそぐわないものとなったため、チームは社内の調香師やフレグランスのクリエイターと相談し、アルゴリズムのレコメンデーションを改善するにはアコードが重要であるという結論に至ったのだ。

またこの店頭での体験により、イブ・サンローラン・ボーテはフレグランスの品揃えを変更しなくても、パーソナライゼーションを提供することが可能となった。ロレアルの調査によれば、77%以上の消費者が、フレグランスが心理的ベネフィットをもたらすことを望んでいる。またブラインドテストでは、人々が幸福感やリラックスなど、さまざまな感情を香りの好みと結びつけていることもわかった。そして12歳から34歳の消費者の半数以上が、気分によってフレグランスを選ぶと回答している。ムードブースターやストレス緩和剤としての香りの提供を主張する、機能性フレグランスと呼ばれる香水のサブカテゴリーは2019年頃に初めて登場している。

フレグランスに関するイノベーションには大きな可能性がある

「フレグランスの選択肢は何千もあり、この膨大な数の香りのなかから消費者が自分に合ったものを上手に選び出すのはむずかしいということはわかっている」とイブ・サンローラン・ボーテのインターナショナルゼネラルマネージャー、ステファン・ベジー氏は述べた。「この没入型システムによって、95%の人にその人のニーズや希望に合わせた正しいフレグランスを提供することができた。これは、このテクノロジーがない場合と比べると非常に高い数字だ。このカテゴリーにおける大きな一歩である。どの香りが人々を幸せな気持ちにしたり、元気にさせたり、あるいはまた別の気分をもたらすのかがわかれば、さらにフレグランスをカスタマイズできるようになる。その可能性は無限大だ」。

これは、イブ・サンローラン・ボーテが採用したロレアルのテックインキュベータデバイスとしてはふたつめとなる。ひとつめはペルソ(Perso)と呼ばれる家庭用のカスタマイズ可能な口紅ディスペンサーだ。注目すべきは、エモーティブのヘッドセットは店頭に置かれることを想定しており、購入はできないという点だ。また、一般的なビューティテックデバイスとは異なり、顧客が新たな日常の習慣を身につける必要はない。

「フレグランスに関するイノベーションには、特にウェルネスというトレンドにおいて非常に大きな可能性がある。フレグランスは感情のプロセスだ。人が自信を持ち、どのような気持ちになるかということに関するものだ。外見についてだけの話ではない」とバルーチ氏は言う。「世の中には実にさまざまな選択肢があふれており、そうした状況でどれが自分にぴったり合うものなのかを知る必要がある。それを実現できる唯一の方法は、本当に機能するテクノロジーを使うことなのだ」。

[原文:YSL Beauty to introduce in-store tech to help customers find their perfect fragrance]

EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida、編集:黒田千聖)

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