リテールメディア はプレイヤーが乱立し熾烈な競争に:測定と標準化の課題にも直面

DIGIDAY

リテールメディアは、企業による投資が活発化したことで著しい成長を遂げてきた。しかしその一方で、データの標準化、競争、パートナーシップといった側面では、新旧さまざまな課題が浮上している。

英国のWARCが2022年末に発表したレポート「The Marketer’s Toolkit 2023」によると、リテールメディアは市場規模で広告媒体中4位につけており、2023年の世界全体の支出は1219億ドル(約15兆8500億円)と、前年比で10.1%伸びると推定される。

米国の調査会社イー・マーケター(eMarketer)の予測では、デジタルリテールメディア広告費は2023年、前年比で25.8%増加して513億6000万ドル(約6兆6800億円)、2024年には611億5000万ドル(約7兆9500億円)に達する見込みだという。ただし、同分野ですべての利害関係者が成功するかというと、それは疑わしい。業界はプレーヤーが乱立し、競争がさらに激化しそうな勢いだ。

広がる効果測定への懸念

「リテールメディアの台頭はいろいろな意味で、1990年代後半におけるデジタル化の波を思い起こさせる」と、コマースメディアのクリテオ(Criteo)で最高収益責任者を務めるブライアン・グリーソン氏は指摘する。クリテオは2023年1月、独立系セルサイド広告プラットフォームのマグナイト(Magnite)との提携を通じ、リテールメディアのオーディエンスへの訴求範囲をCTV広告にも広げる取り組みを始めた。

「多くの企業が、パートナー企業を通じて自社の広告在庫を販売するにあたり、収益配分モデルを採用する。テクノロジー、効果測定、販売などの分野で数多くのパートナーが出てきたが、最終的に残ったのはごくわずかだ」とグリーソン氏は説明する。

新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大によりeコマースの伸びが加速し、ECサイトが爆発的に増えた。サードパーティCookieをめぐるプライバシー保護規制強化の影響で、「メディア化した小売」の成長に拍車がかかり、RMN(リテールメディアネットワーク)への投資が続いている。しかし、全米広告主協会(Association of National Advertisers、以下ANA)が2023年1月に発表したリテールメディアレポートによると、広告主のマーケターたちは、RMNに対し「複雑な気持ち」と「懸念」を抱いているという。

とくに、広告効果の測定については業界全体に懸念が広がっているようだ。ANAの調査に参加した加盟企業138社(うち80社がRMNを利用中)が、RMNにおける自社キャンペーンのアクティベーションについて、KPI(重要業績評価指標)を達成するための最適化が十分でないと答えた。それでも、回答した企業の73%が、今後はRMNへの投資を「ある程度」または「かなり」増大させるとしている。ANAのレポートで述べられているように、「RMNはすでに定着している」といっていいだろう。

プラットフォームの乱立と競争激化

小売業者も、非小売業者も、自前のリテールメディアプラットフォームを立ち上げる動きがあるなかで、プラットフォームの乱立が進むのは避けられない。ウーバー(Uber)やドアダッシュ(DoorDash)でさえ、自社サイトのトラフィックデータと購入データを保有しており、CVSヘルス(CVS Health Corporation)やターゲット(Target)など小売大手も、自社ECサイトを広告プラットフォーム化している。

CTVでも似たような現象が起きていると、ロテーム(Lotame)でソリューションコンサルティング担当バイスプレジデント兼CTV営業部長を務めるハンター・テリー氏はいう。「ストリーミングサービス事業者はそれぞれ、RMNのような自前のプラットフォームを構築している。理由は単純で、ネットワーク上には必要なデータが集まってくるからだ。顧客データがあれば、パッケージ化して販売できる」。

ANAの調査によると、大半の広告主は、自社のマーケティングプログラム全体で平均5から9のRMNを利用しており、結果として「プラットフォームが標準化されていない」状態が生じている。調査に参加したマーケターの57%が、各RMNが提供するデータ、レポート、サービスについて、「質と一貫性が不十分」と回答した。そのためプラットフォーム間での成果の比較が難しく、RMNを運用していくうえで大きな課題になっているという。

WPP傘下のエージェンシーであるCMIメディアグループ(CMI Media Group)のeコマース投資戦略ディレクターを務めるジェイコブ・ハリソン氏は、マーケットプレイスにおける競争の激化が急速に進むと予測する。リテールメディアプラットフォームは今後、TVコマーシャルのQRコードや音声アシスタント機能から拡張現実(AR)にいたるまで、「従来とはまったく異なる新しい環境」での競争を強いられるという。

「プラットフォーム間の競争では、3つの要素が求められる。利用効率のよさ、商品の入手しやすさ、配送の迅速さだ」とハリソン氏は説明する。忘れかけていた昔ながらの商売の基本を思わせるが、小売大手はこれらの要件を満たすべく、よりよい方法を探りつづけている」。

クリテオのグリーソン氏も、市場の細分化を予想している。リテールメディアを「アドオン」サービスとして提供するアドテク企業が増えるため、市場はますます多くのプレーヤーがひしめく乱立状態になる。この状況をさらに複雑にするのが、小売業者によってそれぞれリテールメディアの成熟度が異なるという事実だ。ひとつのメディアでうまくいった方法がほかのメディアでは十分に機能しない場合もある。

広告効果測定基準の改善とプライバシー保護規制の強化

WARCが『The Marketer’s Toolkit 2023』で述べているように、リテールメディアをめぐる競争を左右するツールとして、アナリティクスが浮上すると思われる。「コマースの第三の波」といわれるリテールメディアでは、買い物客のデータをいかに解析して「アクション可能なインサイト」に落とし込むかが鍵となるからだ。一方、測定と標準化の問題は、RMNだけの悩みではない。CTVでも標準的な測定指標が確立されておらず、RMN同様の課題に直面している。

「デジタルコマースの世界では、スピードが勝負だ」と、WARCデジタルコマース(WARC Digital Commerce)でコンテンツ部門を率いるグレゴリー・グルジンスキー氏はいう。「ファーストパーティデータへのアクセスの容易さは、RMNがもたらす最大の価値だといえる」。

ただ、標準化不足は、広告主とエージェンシーにとってRMN投資への正当な評価を難しくする一因となる。前述のANAの調査では、「測定におけるRMNの機能を、マーケティングミックス内のほかのメディアと比べてどう評価するか」という問いに対し、47%が「かなり低い」、20%が「ほぼ同等である」と答えたという。ANAは、リテールメディア自体がまだ新しいカテゴリーの手法であるため、その効果を判断するにはさらなる調査が必要だと指摘し、広告主に対しては、メディア・レイティング・カウンシル(Media Rating Council)の認定監査など、業界標準に則ったメディアと広告の効果測定を推奨している。

ANAの調査では、利用中のRMNの包括的な測定について、広告主の半数近くが社内で、38%が外部のエージェンシーの協力を得て実施しており、11%が包括的な測定をおこなっていないと回答した。また、回答企業全体の29%がサードパーティのスタッフを採用していた。これはつまり、データ関連業務が複数の企業で分担されていることを示す。

「ターゲティング機能は損なわれている」

GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)をはじめとするプライバシー保護規制の強化によりターゲティングがますます制限され、「マーケターは自社製品のオーディエンスを求めて、アッパーファネルでのマーケティング活動に注力せざるを得なくなる」と、CMIメディアグループのハリソン氏は指摘する。同氏のアドバイスは、サーチ広告からディスプレイ広告へメディア支出の軸足を移し、リターゲティングをより重視することだという。

「リテールメディアのマーケティング側の機能は、ブランドが的確なターゲティングをおこなう能力を阻害している」と、ハリソン氏は米DIGIDAYに語った。

「10年前なら、リテールプラットフォームのバックエンドから抽出したユーザー関連データをもとに、たとえばジェーンという女性宛てのメッセージを、本人のオンライン購入最新履歴と次回に向けたおすすめ商品情報とともに届けることができた。ところがいまや、ジェーンがどんな消費者なのか、どんな商品を購入したのか我々は知りようがなく、ショッピング履歴にもとづいて次の購買行動に直接訴求する能力もない」。

アナリティクスと広告運用のスキルが重要に

リテールメディアの成長をおびやかす要因はたしかにある。しかし、メディアエージェンシーにとっては明るい材料もないわけではない。グルジンスキー氏は、リテールメディア市場の発展にともない、アナリティクスや広告運用の分野でエージェンシーが恩恵を受けるとみている。ブランドのなかでも消費者の行動データをインサイトに変換し、広告戦略立案に活かせる企業は、デジタルコマースで優位に立てる。そこで、戦略の実行に必要な専門知識をもつエージェンシーを採用するという流れになるからだ。

「ブランド各社にとってリテールメディア事業促進への早道は、メディアとアナリティクスの専門家集団を雇うことだ」とグルジンスキー氏はいう。「社内に確固たるアナリティクス担当チームを有する企業も、戦力増強目的でエージェンシーを活用してもいいだろう」。

[原文:Why retail media’s growth spurt could be stunted by unaddressed data and competition challenges

Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

Source

タイトルとURLをコピーしました