CMOの役割、またしても変化し、困難さを増す:「もっと自力での対応を」

DIGIDAY

ただでさえ無理な仕事が、さらに難しくなっている。

楽天TVの最高マーケティング責任者(CMO)のオキ・ユウコ 氏に課せられているのは、サブスクリプションと広告という、楽天TVの二本立てのビジネスモデルをなんとか回していくこと。もちろん、業界では規模が小さいほうに入る同社としてはおなじみの課題だが、現在はかつてないほど厳しい状況だ。

一方では、人々が再び家から出て外の活動へと戻っていくに従い、会員数の伸びは鈍化している。そしてもう一方では、配信サービスの広告費獲得競争も激化している。広告表示をなくすために加入するサービスの1人当たりの数が、飽和状態に近づいているからだ。

「このポジションを引き受けたのは、それがソフトマーケティングだけではなく、ビジネスの営業面にも関わるものだったから」と2022年初頭に楽天に移ったオキ氏は述べる。「いまはCMOが財務的な貢献を意識することが求められている時代だ」。

今年のキーワードは「逆風」

この点は、最近の決算発表期で多く語られた言葉に、この上なく明確に表れている。

1年前、CEOたちの頭のなかを占めていたのはパンデミックだった。アナリストに対する業績や予測の説明では「COVID-19」という単語が幾度となく繰り返された。

2022年に繰り返されている言葉は「逆風」だ。新型コロナウイルス感染症は数ある逆風のひとつにすぎない。ほかにもマクロ経済的な問題があったり、ますます断片化の進むメディア環境にビジネスを無理やり合わせていかなければならない状況があったりする。このため、これまで以上にCMOの仕事が増えるのだ。しかも、かつてないほどにビジネスのさまざまな部分を横断しながら仕事を進めなければならない。

動画プレイヤーのブライトコーブ(Brightcove)でCMOを務めるジェニファー・スミス氏は「かつては販売部門が行っていたことをCMOに求めることが多くなった」と話す。「さらには製品・販売・カスタマー対応部門を横断して情報を集め、購買習慣や過去のトレンド、将来予測を出すことが期待される。私もかなりの時間を、来四半期がどうなるのかを予測するための過去の検討に使っている」。

CMOの役割の変化は今回が初めてではない。それどころか数年ごとに変わるように見える。実際、コカ・コーラ(Coca-Cola)がCMOに代わってCGO(最事業高成長責任者)を据え、そもそもCMOが必要なのかという議論が起きたのは、つい2017年のことだ。2年後、コカ・コーラはCMOを復活させる。役職名はどうあれ、世界に影を投げかけ不安を巻き起こす出来事が次々と際限なく出てくるように思える昨今の状況は、製品やサービスを社会にどう組み込んでいけばよいのかを本質的に理解している人物を企業が必要としていることの裏付けとなっている。

東欧情勢でさらに注目が

最近の東欧情勢で、こうしたCMOの役割の変化にさらに焦点が当たることになった。

ロシアのウクライナ侵攻は、一連の地政学的、経済的な事象を連鎖反応的に引き起こした。当然、この状況の展開を、CMOたちは不安を持って見守っている。犠牲者の数を予測するには時期尚早だが、短期的にどのような影響が出るのかは明らかだ。経済制裁がインフレを悪化させる一方で、サプライチェーンの混乱で景気は減速するだろう。

当然ながら、CMOたちは広告を続けるべきかを検討している。

一部では、不適切な記事と関連付けられないように、この状況が続くあいだはニュースや政治関係のコンテンツをカテゴリーごと除外する動きがある。他方では、広告に必要な調整を判断するために、今回の危機に関連してどのようなコンテンツで表示されているのか、露出報告を要求する動きもある。

「ターゲティングに対してニュアンスを持ったアプローチができるようなテクノロジーは存在するため、広告主がニュース関連のコンテンツを完全に敬遠し、キーワードによるブロックという力技に頼る必要はない」とコンテキスト広告を専門とするアドテク企業、GumGum(ガムガム)のEMEA地域セールス担当バイスプレジデントのピーター・ウォレス氏は話す。「広告主のあいだでも、この認識は広がりつつある。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以後、ブロックリストの使い過ぎによる問題が見られるようになってからは特に広まっている」。

広告費支出のトーンダウン

現在の状況では、広告費支出のトーンダウンも納得できる。当面はこの状態が続くようだ。

米国FRB(連邦準備制度理事会)、欧州中央銀行、イングランド銀行が軒並み経済支援の引き下げに向かうなか、数多くの国が、近年最大の金融引き締めサイクルに突入しつつある。

世界でもっとも大きな影響力を持つこれらの金融機関の金融政策変更によって、手元にある金額が少なくなるだけでなく、インフレによる値上がりも出てくるだろう。たとえば、ロレアル(L’Oreal)では上昇する生産コストを相殺するためにマーケティング費用を削減すべきか、シニアマーケターのあいだですでに検討が始まっているという。これは1年前にはそれほど目立つ問題ではなかった。全体的な広告費を見ると、それがよくわかる。

当時、30秒のテレビ広告を1000人に届けるための平均的な費用(CPT)は、英国の場合、ここ7年で最高の金額に達していた。WARCと英国広告協会がまとめたBARBのデータによると、広告主にとって利益の多い16歳から34歳の層にリーチするには、平均して50ポンド(約7500円)以上のCPTが必要だった。

出典:BARB/WARC/英国広告協会-RPI(インプレッション当たり収益)に基づく実質値

だが、CMOにとってのインフレはここでは終わらなかった。オンライン広告も、かなり上がったのだ。実際、WARCによれば、検索、ソーシャルメディア、リテールメディアの広告費は2021年第4四半期に2桁上昇している。

「もっと自力での対応を」

英国のTVマーケティング機関であるシンクボックス(Thinkbox)のディレクター、マット・ヒル氏は、2022年3月第1週に開催されたイベントで価格高騰が「とても感情的な」要素であると話した。とはいうものの、それはメディアが各社のビジネスにとってどのような価値を持つのかをマーケターに教えてくれるものではない、と付け加えた。

その価値がどれほどのものかを割り出すのは、口で言うほどたやすいことではない。

このことは数字に表れている。アドバイザリー企業のメディアセンス(MediaSense)と業界団体である英国広告主協会(ISBA)が世界100人のシニアマーケターを対象に行った調査によると、CMOの10人中4人以上(46%)が、メディア横断的な効果測定が実現することはないだろうと考え、さらに多く(49%)が、主な制約としてオンライン広告業界の利己主義を挙げている。

簡単にいうと、手に入るデータが少なくなっているということだが、それは入手したデータをCMOがよりよく分析することがかつてないほど重要になっているということを意味する。だが、ほとんどのCMOにとって、その実現はかつてないほど遠くにあるように思える。

このことは、消費者のプライバシー保護に対する圧力の高まりにオンラインプラットフォーム各社がどう対応したかに明らかに見て取れる。マーケターの一般的な認識はこうだ。プラットフォームはほかより高い実績を求めながら、それを示す測定値は不完全にしておきたい。そうすれば、広告費を囲い込んで予算を確保し、別のパブリッシャーにすぐに移ってしまわれることを防げる。第三者に効果を測定され、広告費を別のパブリッシャーにスムーズに移されるなんてことはあってほしくないのだ。

メディアセンスの戦略担当マネージングパートナー、ライアン・カンギサー氏は「5年、10年前は、CMOはこうした問題を戦略的に考える必要がなかった。エージェンシーが売るテクノロジー、データ、コンテンツを買えば事足りていた」と語る。「いまは、もっと自力での対応が求められている」。

CMOとエージェンシーの関係

託された範囲が拡大したことで、CMOとエージェンシーの関係にも変化が見られている。

バーガーキング(Burger King)からナイキ(Nike)まで、現在のエージェンシーレビューでは、リテール、データ、テクノロジー、さらにはメタバースまでのさまざまな分野を、専門知識の利用がしやすいモデルにまとめることに重点が置かれる。マーケターたちの言葉を信用するのであれば、この傾向はたしかに何年も前からあったものだ。だが、こうしたモデルを扱うためのCMO側のチーム再編は、これまで以上に遠くにあるように見える。

「クライアントが社内に専門知識を求めているのは、内製化のトレンドによるものだけではなく、協力会社をよりよく監督し、指揮したいため」とカンギサー氏は話す。「CMOたちが理解しようとしているのは、その社内組織がどのようなものであるべきなのか、だ」。

[原文:‘More self-sufficient’: The changing (yet again) and increasingly challenging role of the CMO

SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)

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