3年後はAPACで1兆ドル市場にーー「楽しい」を購買に繋げるエンタテインメントコマースとは?:TikTok for Business Senior Brand Strategist ハーマン・チャン氏に聞く

DIGIDAY

手頃な価格、高い利便性とともに、消費者がオンラインコマースに求めるものは、「楽しさ」のようだ。

オンラインでショッピングをするのが常識となった今、購買を促進する新しい手法として「エンタテインメントコマース」が注目されている。ただ、ここで言うエンタテインメントとは、いわゆるお笑いや映画、演劇などではない。「エンタテインメントコマースの場合の『エンタテインメント』とは、『消費者が楽しめて、その結果、購買につながる行動を生み出すもの』と考えてもらえればいいと思う」。こう語るのは、TikTok for Businessでシニアブランドストラテジストを務めるハーマン・チャン(Harman Chan)氏だ。

エンタテインメント系動画を中心にコンテンツ、ユーザーともに多様化が進み、グローバルで月間10億人以上のアクティブユーザーを抱える、広告分野においても世界のトップリーダーであるTikTok。同社はこのほど、戦略コンサルティング会社のボストンコンサルティング(BCG)グループに委託し、成長著しいAPAC(アジア太平洋地域)のオンラインコマース市場における次なる成長領域を探るためのリサーチと分析を実施した。

日本、韓国、インドネシア、タイ、ベトナム、オーストラリアを含むAPAC全体の市場を調査し、テクノロジーによってもたらされた膨大な選択肢が「消費者の発見」「信頼性」「コミュニティ主導のレコメンデーション」に対する欲求を形成し、オンラインコマースの次の時代である「エンタテインメントコマース」を生み出していることを明らかにしている。その結果見えてきたのが、「エンタテインメント」がもたらすビジネスチャンス。3年後には、APACにおいてエンタテインメントコマースは現在の2倍の1兆ドル規模に拡大するということだ。

モノを売りにくい時代にあって、オンラインコマース市場の地図を塗り替える可能性をも秘めたエンタテインメントコマースは、今後重要なキーワードになりうる。しかし日本では、まだほとんどのマーケターが「エンタテインメントコマース」にはあまり馴染みがないのが実情だろう。そこで、そもそもエンタテインメントコマースとは何なのか、また急成長が予想されるこの市場にキャッチアップするためには何をするべきなのか。ハーマン・チャン氏に話を聞いた。

◆ ◆ ◆

−−まずエンタテインメントコマースとは何か、教えてほしい。

硬い表現になってしまうが、「コンテンツとカルチャーとコマースを組み合わせ、非常に没入感の高い購買体験を生み出すもの」ということになる。

正確な意味合いでは異なるが、たとえば、よく切れる包丁の実演販売を想像するとわかりやすいかもしれない。ただ普通に食材を切るのではなく、さまざまな演出を凝らすことで楽しさが感じられ、その結果、特に必要だと思っていなかった包丁を買ってしまう消費者も少なくないだろう。この場合はオフラインだが、オンライン上でこのような「楽しさ」を感じてもらい購買につなげようというのが、エンタテインメントコマースだ。

−−「楽しいという感情」が購買につながるということか。

消費者が購入する動機には、利便性や具体的なメリットに対する「機能的ニーズ」と、贅沢な気分になりたい、刺激を得たいなど、感情に対する「感情的ニーズ」の2つがあると言われている。

BCGの分析では、実際の購買行動は、6割が機能的ニーズ、4割が感情的ニーズによると考えられているが、感情的ニーズの特徴は、ブランドスイッチが起きやすいということだ。消費者が新しいモノやサービスを購入したり、今まで使っていたものを変えるときには、感情的ニーズの要素が大きいと言われている。


購買欲求にも大きな影響を与える感情的ニーズ(*図クリックで拡大)

−−その感情的ニーズに対応するのが「エンタテインメントコマース」になると思うが、今この手法が注目される理由は?

オンラインコマースをめぐる変化が、その要因だと思う。

まず、商品購入にあたっての消費者の選択肢が爆発的に増えた結果、購入意欲は以前ほど強くなくなった。商品の数、購入先は山ほどあるので、時間も場所も、さらに欠品も気にすることなく購入できる。いつでも何でも買えるというこのような状況では、常に購入意欲が高いわけではないから、消費者にとって勝手に大量に流れてくる広告は必要ないし、敬遠したくなる。むしろ、大量の情報に接する間に消費者も誇大表現やヤラセなど広告の裏に気づくようになり、広告を見ると逆に購入意欲を削られるという消費者もいるほどだ。

このため、純粋な広告よりも、好きなクリエイターやインフルエンサーの動画で見た商品を欲しいと感じるなど、コンテンツ経由で潜在的なニーズが引き起こされるケースが増えている。つまり、「楽しさ」というエンタテインメントの要素こそが、消費者とブランドを結びつけるものになってきているということだ。消費者がブランドを好きになる理由は、機能的な側面だけではない。「カッコいい」「親しみやすい」など、コンテンツを通じて消費者はブランドをあたかも1個の人格のようにとらえることができ、その結果、ブランドと感情的な結びつきが強くなる。

このようにエンタテインメントコマースは、消費者にブランドに対する気づきを与えてくれるものでもあると言えるだろう。

ハーマン・チャン(Harman Chan)/Senior Brand Strategist, Global Business Marketing Brand Strategy, TikTok for Business Japan

−−エンタテインメントコマースは特にアッパーファネルに有効な手法になるのか?

たしかに認知・興味の段階での寄与は大きいと言えるが、ファネル上では少し違う効果があると思う。

ここでポイントになるのが、コミュニティの存在だ。面白いコンテンツはエンゲージメントが高く、ユーザー同士の会話が活発に行われているうちにコミュニティが自然発生することが多いのだが、エンタテインメントコマースで重要な役割を果たすのが、このコミュニティだ。

たとえば、コンテンツのなかで紹介された化粧品について「これを使ってました。とてもいいです」というコメントがされると「これ欲しい! どこで買えますか?」というレスがつき、それに対して別のユーザーが「このリップは○○というブランドの△番ですよ」という会話が続くなかでコミュニティが形成され、そこに属するユーザーがECサイトに飛んで購入するという現象が発生する。このように、エンタテインメントコマースはローワーファネルでも有効といえるだろう。

−−なるほど。では特にエンタテインメントコマースが効くカテゴリーというと?

TikTokの事例で言えば、ビューティー、飲食、ファッション、日用品、エンタメ商材など、接触から購買までのカスタマージャーニーが短いものは、特に効果が見えやすい。

さすがにTikTokを見てそのままクルマを買いに来た、というケースはあまりないだろう。ただし、高額商品に対して、エンタテインメントコマースが興味喚起に作用することはあると思う。たとえばクルマの場合、ドライブ動画を見てライフスタイルに共感したり、インテリアを見てカッコいいという気持ちになれば、クルマの購入を検討するときにそのブランドが候補に入ってくる可能性はおおいにある。

−−ところでBCGのレポートではインドネシアやタイなどではエンタテインメントコマースが急激に伸びているということだが、日本ではあまりその勢いが感じられないように思う。

たしかに、インドネシアやタイなどの国と比較すると、韓国、オーストラリア、日本は成長のスピードがあまり早くない。だがこの違いは、市場の成熟度によるものだと思う。新興市場はユーザーの平均年齢が低いため新しい取り組みに対して反応が早いのに比べ、成熟市場では慎重な人が多い。


エンタテインメントコマース最大の可能性を秘めている日本と韓国(*図クリックで拡大)

その慎重さの部分について言うと、消費者がエンタテインメントコマースをあまり好まないのか、あるいはマーケターがエンタテインメントコマースを進める準備ができていないのか、どちらの要素が大きいかといえば、後者だろう。消費者側の準備はできていると思う。我々は日々、デジタルプラットフォームやSNSと購買についての定性調査を行っているが「TikTokで面白い動画を見て、その中に出てきたものを買ってしまった」という声は多く聞く。多数の消費者はすでに、エンタテインメントコマースに対して反応しているのだ。

そう考えると、マーケターが及び腰になっているとも言えるが、過去の経験や実績などに基づいた守りのマーケティングを堅持するというのは、日本にかぎらず、成熟市場の特徴だろうと思う。一方で、成功体験の蓄積が多くない国や地域では、これがいいと思った施策にすぐに反応する傾向がある。そしてその結果が、成功につながっていることも多いのだ。

−−そんな日本に、エンタテインメントコマースは根付くだろうか?

浸透するスピードは新興市場と比べたら遅いかもしれないが、オンラインコマース市場で広告が抱えている課題は今回のBCGの調査対象の6カ国に共通している。それを考えれば、日本でも十分に根付いていくはずだ。

すでに我々のクライアントの中にも取り組みを進めているブランドとして、Qoo10の事例がある。

TikTok上では、一般ユーザーが商品紹介をする際、喋り方やギャグの差し込み方、エフェクトの使い方など、ある程度決まった「型」があるのだが、Qoo10はあえてその型に乗り、プロらしくない、まるで一般ユーザーが作ったかのような動画広告を展開した。巨大なブランドが自分たちの側に降りてきたように思えるのだろう。実はこのような施策は、そのブランドが身近に感じられるということで、TikTokユーザーには非常に評判がいい。そこに、ユーザーが自発的に交流しコミュニティが生まれるという「TikTok」ならではの強みが発揮される。

たとえば、Qoo10で恒例の大型セールイベント「メガ割」の告知を行った際には、広告を配信した直後からオーガニックの投稿が急増し、投稿された動画にも数百件単位でコメントがついた。どういった商品を買うかをお客様同士で語り合う「#メガ割会議」というハッシュタグが生まれたり、クーポンの使い方などをコメント欄でお客様同士が教え合うという動きがセール前から見られ、購入後には商品開封動画を公開するユーザーが増えた。

こうした自発的なコミュニティ形成によって、認知の拡大はもちろん、商品購買の面でも数値を伸ばすことができたのだ。

−−そのような成功例を目指し、マーケターがエンタテインメントコマースに取り組もうと思ったときに重視するべきことは何だろうか。

「エンタテインメントファースト、コマースセカンド」が大原則だ。コミュニケーションのなかでエンタテインメント要素を担保し、その上でコマースを成立させるための整備をしていくということだ。では、エンタテインメントの要素とは何かというと、以下の5点がある。


エンタテインメントコマースは「エンタテインメントファースト、コマースセカンド」を重視する(*図クリックで拡大)

1つめは、商品のストーリーを語るなかで、気づきを与えること。楽しい、面白いだけではなく、ユーザーが何かを気づいた、学んだという実感がエンタテインメントでもとても重要になる。

2つめは、ビデオファーストということ。消費者の集中力が途切れない短尺動画で、有名人やクリエイターを起用したり、サウンド面でも印象に残るようにする。要は、快適な視聴体験を提供することだ。

3つめは、意思決定を無理強いしないこと。どうしてもコミュニケーションする際に企業メッセージが強くなってしまいがちだが、ユーザーはどのようなものに喜び、関心を持つのかに注意を払うことが重要だ。

4つめが、リアルさや信頼性を重視すること。TikTokの場合でいうと、作り込まれすぎたものはリアリティが感じられず敬遠される傾向がある。ユーザーが身近に感じることができるものこそ、信頼されるエンタテインメントになりうる。

そして5つめは、トレンドをレコメンドする。今何が流行っているか、次に何が流行りそうかに興味を持つ人が多い。トレンドの要素を動画に入れることで、好奇心を刺激することができる。

このように、エンタテインメントファーストの要素を担保した上で、コマースセカンドを考える。ユーザーにとって必要最低限の重要な商品情報をきちんと伝え、また、購買までの動線をわかりやすく作っておくということだ。このプロセスにストレスがあったら、そこで購買がストップしてしまう。

−−最後に、エンタテインメントコマースに取り組もうという日本のマーケターにメッセージを。

まずは、TikTokを使ってみてほしい。正直、エンタテインメントコマースはTikTokだけのものではない。ほかのプラットフォーム上でも共通して展開されている。しかし、TikTokとエンタテインメントコマースの相性は特にいいものだと思う。プラットフォームの利用目的を調査すると、TikTokの場合、シンプルに楽しみたいという目的で来るユーザーがほとんどだ(出典元:2021年12月 TikTokユーザー追跡調査[委託先:マクロミル])。さらにレコメンドシステムによって、ユーザーは、自分が予想していなかったコンテンツに出会うことが多いが、それが潜在的なニーズの発掘につながる可能性もある。

その上で、ユーザーがTikTok上で何を求めているかを肌感覚で理解してほしい。先に紹介したQoo10の場合も、担当者がTikTokで盛り上がるコンテンツとはどのようなものかを熟知していたことが、成功につながった。

エンタテインメントコマースは、まだ早いフェーズにあり、これから長く続くトレンドだと思う。もしエンタテインメントコマースが定着して、どのブランドも同じようなことを始めたら、おそらく消費者はエンタテインメントコマースにも麻痺してしまうだろう。いまなら先行者利益を得られるはず。いち早くエンタテインメントコマースの波に乗って、ぜひ我々と一緒にブランドを成長させていってほしい。

Sponsored by TikTok for Business Japan

Written by DIGIDAY Brand STUDIO(滝口雅志)
Photo by 渡部幸和

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