D2Cブランドが成長過程で直面する課題:大手小売店との契約は成功を保証するものではない

DIGIDAY

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D2Cを開始した新興企業が、大型小売店での販売に乗り出すケースはますます増えている。しかし、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)で商品を取り扱ってもらうだけで、成功が約束されるわけではない。

スキンケアブランドのアプト(Apto)の創設者であるマルタ・クロス氏は、「業界の友人たちは、覚悟が必要だと言っていたが、それでも実際に大手小売業者に取り扱ってもらうとなると圧倒される」と、は筆者に語った。

初期段階の新興企業の創設者たちは、卸売パートナーシップでの成功を保証するには、たとえばバイヤーや小売ブローカーと協力する、各小売業者の内部言語と注文サイクルについて学ぶなど、多くの可動部分があると語る。さらに、多くの新興企業は、小売の立ち上げをデジタルマーケティングで補完するためのプレイブックを作成している。

全体としてもっとも重要なのは、競合他社の商品が参入した場合でも、自社の商品が店舗の棚で目立つようにすることだ。

新しい小売の立ち上げ事例から教訓を得る

2019年に創設されたスキンケアブランドのアプトは現在、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)に加えて、ほかの小売業者チェーンともパートナーシップを結んでいる。同ブランドはこれまで、主にイプシー(Ipsy)のようなオンラインマーケットプレイスやサブスクリプションサービスと連携してきた。

大手小売業者との取引は習熟に多くの時間を要し、アプトは昨年ウォルマートで最初の自社商品を立ち上げるときに「物流関連の失敗」を犯した。「これは単純なラベルつけの間違いだったが、一部の店舗で在庫切れ、別の店舗で過剰在庫を引き起こし、業績に影響を及ぼした」と、クロス氏は述べている。そのあとで「当社はこのような多くの損失を引き起こす間違いを回避するため、自社倉庫ですべてのパレットを十分にチェックするようにした」と同氏は述べる。

何百、何千という店舗に在庫を供給するため、アプトの事例のようなごく小さなミスでも大きな損失を引き起こすことがある。D2Cのドッグフードブランドのジンクス(Jinx)は、ほかのイニシアチブとともに、卸売配送をサポートするため2800万ドル(約38億1000万円)のシリーズAラウンドを調達した。

このブランドは3月にウォルマートで販売を開始したが、その準備に9か月を要したと、創設者のテリー・ロコビッチ氏は語る。同氏は、自力で立ち上げを行った新興企業にとって、ウォルマートのような小売業者からの大量の発注は、最初の売上が立つまでに多額の資金が必要となることが多く、また、注文サイクル後の請求書の処理するにも、数か月かかるという。

ウォルマートとのパートナーシップが決まると、「ただちに、小売ブローカーのチームダイレクト(TeamDirect)を雇用し、物流から立ち上げまですべての支援を受けた」とロコビッチ氏は述べている。「また、サプライチェーンを拡大し、市場への参入戦略を準備するため、追加のパートナーも特定した」。最後に、同社は「商品ショーケース全体のデザイン、製造、箱詰め、パレット搭載、発送の作業も行い、店舗のオペレーターは、運送業者から荷物を引き取って棚に移す以外の作業を行う必要がないようにした」。

3月にウォルマートで販売を開始した後、「発売から約4週間後にマーケティング活動を展開し始めた」と同氏は述べている。その作業は、デジタルマーケティングとプレスでの発表を組み合わせたものであった。これは、同ブランドの最初のフェーズである店舗との統合を確実に行ってから、ウォルマートに置かれたジンクスの商品に客足を誘導するために行われたものだ。

ジンクスは、ウォルマートの社内広告リソースも活用している。具体的には、ウォルマートのコネクトプラットフォームによる広告や、ウォルマートのライブショッピングプログラムへの参加などだ。

物流を確立してから適切なマーケティングを順に開始する

ジンクスの戦略と同様、「店舗で成功を収めるためには、適切な顧客をターゲットにすること重要だ」と、アプトのクロス氏は語る。同社はターゲットに顧客を誘導するのではなく、「すでにターゲットで買い物をしている人々に焦点を当てたい」と同氏は述べている。

「当社は、ターゲットの会員プログラムであるターゲットサークル(Target Circle)を通じて複数のキャンペーンを行ったが、これらのプロモーションは当社にとって非常に効果的だった」とクロス氏は述べる。ターゲットサークルのキャンペーンは、多くの場合にブランドのブローカーによって推進され、アプトのセット品割引から、ターゲットサークルのメンバー向けのほかの期間限定割引まで、さまざまなものがある。同社は1月から、季節ごとのターゲットサークルの販売を試みてきた。

ほかの新しい例として、ターゲットで買い物をする母親を対象とした有料キャンペーンとソーシャルキャンペーンがある。地域を絞り込んだ有料広告に焦点を当て、さまざまなインフルエンサーや、スケアリーマミー(ScaryMommy)のような、母親であることによりつながっている独自の女性コミュニティとの提携が行われてきた。

ブランドが大手小売業者で販売を開始するとき、ブランドの認知を広めるためにやるべき作業は多くある。洗濯洗剤メーカーのへクスパフォーマンス(Hex Performance)は今年、卸売販売を重視することを決め、ディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)やコストコ(Costco)などの小売業者にはじめて参入した。同社は5月、全国500カ所以上の店舗で、商品のフルライン販売を開始した。

へクスパフォーマンスのマーケティング責任者を務めるクリスティーン・ルアンゴ氏は、新しいSKUがターゲットで販売されるようになれば、へクスパフォーマンスは、ブランド認知のためのメッセージを、ターゲットについて言及したものに変えると語っている。

同氏は、「この販売開始は、当社の広告活動のはじまりにすぎない。商品が店舗に並んで販売されるようになったため、我々はソーシャルメディア、インフルエンサーマーケティング、イベント、サンプル配布、プログラムによる広告、有料検索などの戦術を重視していく」と語る。同社はこれらの予算を増やし続け、ターゲットの販売を最適化するために何が有効かをテストしていく計画だ。

同氏は次のように述べている。「当社の商品はまだ全国のターゲットで販売されているわけではないため、これらのマーケティングチャネルを活用する最大の利点は、当社がターゲットで販売している場所に広告を重ねることができることだ。これにより、出資を真に最適化できた」。

ルアンゴ氏は、同ブランドが2022年末まで、ターゲットとのさまざまな取引を決定したと述べている。ターゲットのサーキュラー配置、ターゲットサークルのメンバー向けの特別な販売と提供に加え、へクス独自の店頭での割引もある。同社は今後、ターゲットのデジタルマーケティングおよびインフルエンサーマーケティングキャンペーンにも参加することを計画している。

いつ小売業者のサポートを求めるべきか

アプトのクロス氏は、リソースをいつ、どのように使用すべきかを知ることが重要だと語る。「これは非常に複雑なシステムであり、多くの場合は今後1年間の戦略を用意していることを期待される」。

2021年にターゲットのブランドアクセラレータプログラムに参加したことが、重要なフォーラムになったと、同氏は語っている。同氏はここで、アプトを担当するターゲットのバイヤーにコンタクトをとる前に、ほかの仲間にスラック(Slack)チャネルで質問を投げかけるのだ。

「ブローカーの多くはターゲットの元従業員なので、会社に連絡を取るのに最適なタイミングについて警告してくれる」と同氏は述べている。「そこで私は、バイヤーと話し合う前に問題を解決しようとする。バイヤーは通常、ほかにも多くのブランドを扱っているからだ」。現実的には、一部の大手ブランドが優先されると、同氏は語る。「そのため、トレンドによって、または垂直統合であれ、バイヤーに価値を提供することが、我々の仕事なのだ」。

発売後の評価指標を測定することは、商品が売れ続けるようにするための、もうひとつの重要な要素だ。

へクスは昨年の夏、最初に抗菌性繊維保護剤(Antibacterial Fabric Protector)という1つのSKUをターゲットで発売した。1年間にわたって売れ行きをテストしたあとで、ターゲットは5月にヘクスパフォーマンスのSKUを拡大し、同ブランドの香料入りと無香料の両方の洗剤を扱うことにした。これで商品ライン全体を取り扱うことになったため、ターゲットは同社に、各SKUの具体的な売上目標を指定した。

「成功はたしかにどれだけリーチによって測定される」とルアンゴ氏は述べる。しかし、リピート繰り返し購入によっても測られるのだという。「消費者がブランドのことを耳にして試してみるのと、そのブランドや商品を繰り返し購入するようになるのは別の話だ」。

販売のための強固な基盤を固めることと、既存および新規の顧客を店舗に引き寄せることは、大手小売業者とのパートナーシップにおける2つの重要な柱となる。

クロス氏は次のように述べている。「誰も手を握って導いてはくれない。しかし、店舗で売れなくなることは避けたいというのは、間違いなく創設者の心情だ」。

[原文:DTC Briefing: How brands are navigating big-box distribution]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via JINX

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