札幌五輪マラソンに冷ややかな声 – NEWSポストセブン

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五輪のマラソンや競歩が行われる北海道札幌市(大通公園周辺/時事通信フォト)

 新型コロナの感染者急増に加え、開会式スタッフの辞任、解任というトラブル続きで開幕した東京五輪。8月には東京から800km以上離れた札幌を舞台に、五輪の花形種目であるマラソンのほか競歩も実施される。しかし、盛り上がりはいまひとつ。さらに熱中症やコロナ感染拡大の重大リスクも懸念されている。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。

【写真】マラソンコースを視察する橋本聖子氏

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 札幌・大通公園の西10丁目にある芝生広場に開幕直前の7月19日、五輪シンボルのモニュメントが登場した。五輪ムードを高めようと市が875万円かけて制作したものだ。競技開催地の自治体を飾り、大会を盛り上げるシティドレッシングの一環だという。

開幕直前に政治家が続々と札幌入り

 政治家も続々と北海道を訪れた。加藤勝信官房長官は7月17日、開業1周年(7月12日)を迎えたアイヌ文化の発信拠点「ウポポイ」を視察後、「札幌でのマラソン、競歩の際にアイヌ舞踊を行い、国内外に広く発信することにより、アイヌ文化とウポポイの普及啓発を図る」と語った。大会盛り上げの演出か。

 7月19日午後、急遽、札幌を訪問したのは丸川珠代オリンピック担当大臣だ。マラソンと競歩会場の視察のためということだが、マラソンにはIOCのバッハ会長が視察する予定で、そのための事前視察だった。

 市や政府は札幌の競技を盛り上げようと必死だが、その一方で、7月17日、札幌市内で約100人(主催者発表)が五輪反対を訴えるデモを行い、シュプレヒコールなしに「五輪よりも生活」などと訴えた。また、その前日には北海道大学大学院生らが「東京五輪マラソン・競歩の札幌開催に関する反対署名」5214筆を秋元克広市長あてに提出するといった動きもあった。

「盛り上がるわけがない」

 コロナ感染が再拡大する中での競技実施に、北の大地の住民たちは歓迎一色とはほど遠いようだ。札幌市民はどう受け止めているのだろうか。

「今は札幌の夏は非常に暑く、リスクがある中でわざわざ札幌に来てマラソンや競歩をやるなんて冗談としか思えませんね。周囲のスポーツ好きの一部の人たちはサッカーの予選のチケットを競って入手していましたが、急遽無観客となってがっかりしているようです。

 コロナ感染が拡大しているときにマラソンなんて迷惑だという人もいますが、私の周りに関しては大半が無関心ですね。マラソンやサッカーというよりも、開催意義を見出せない五輪そのものに関心がなくなってしまったようです」(札幌市内の大学に勤務する60代の教員)

 ネット上などで市民らの声をピックアップしてみると、冷ややかなものが多い。

「市民も楽しみにしていた札幌マラソンは2年連続で中止が決まったのに、オリンピックのマラソンだけ強行されるなんて納得がいかない」

「マラソンの開催がIOCの一方的な決定で札幌に変更されたとき、メディアは札幌のコースをボロカスに言っていた。そのうえコロナ拡大状況下での強行開催でしょ。今からでもやめてほしい」

「市民が沿道での応援を自粛しても、道外からの観光客はどうだろうか。心配だ」

「ラグビーワールドカップのときはドーム近隣の店は暴動の予防策としてシャッターを下ろしていましたが、今回のサッカー予選は無観客だったからひっそり。盛り上がるわけないですよ」

不自由を強いられる市民たち

 市内ではマラソン、競歩に向けて厳しい交通規制が敷かれる。駅前通りの大通公園3丁目と4丁目の間は、なんと13日間通行止めになるという。この規制には悲鳴が上がっている。

「夏休みシーズンの書き入れ時に商業地で何日も交通規制されては商売になりません」

「配送トラックの荷物運搬どうするのか。コンビニ、スーパー、デパートみんな困ってしまう。郵便や宅急便も遅れそう。交通規制だけでもすごい迷惑」

 さらに、SNS上には日よけテントが撤去された果物店の画像がアップされていた。投稿主は「景観が悪いと強制撤去されたそうです。2時間のために50年を。ひどい」と書き込んでいた。この投稿はかなりの反響を呼んでいるようだ。

 札幌でのマラソン、競歩は、一般市民らの沿道応援を締め出し、市民生活に大きな不自由を押し付けての開催となる。

21年ぶりに猛暑日を記録

 大会組織員会、北海道、札幌市はマラソン・競歩について、沿道での「観戦自粛」を呼びかけている。そのほか、スタート、フィニッシュ地点の大通公園周辺のほか、マラソンコース途中の道庁赤れんが庁舎の前庭を立ち入り禁止区域にするなどの対策を発表している。

 マラソンの会場がIOCの判断で東京から札幌に一方的に変更されたのは、熱中症対策のためだった。東京よりも涼しい札幌なら大丈夫だろうという判断だったのだろう。

 ところが、今年の札幌は猛烈に暑い。7月19日は最高気温35.0℃に達し、21年ぶりに猛暑日となった。この日、市内では午後5時までに9人が熱中症で搬送されたという。本番当日はどうなるのだろうか。

 ちなみにマラソンのスタート時刻は朝7時である。参考までに7月19日のスタートからゴールまでの時間帯の気温は次の通りだ。

・7時/26.2℃、8時/27.9℃、9時/29.9℃、10時/30.9℃(気象庁のデータ)

五輪史上最大の猛暑に

 あまりの暑さで棄権者が4割を超えた2019年の陸上の世界選手権ドーハ大会の女子マラソンはスタート時間が深夜0時だったにもかかわらず、スタート時の気温は32.7℃だった。さすがに、札幌ではそこまでの悪条件にはならないだろうが、今年の暑さを考えると不安だ。

 競歩・マラソンの開催は8月5日~8月8日だが、例年の最高気温はどうなっているだろうか。

【2019年(最高気温)】8月5日/32.0℃、6日32.4℃、7日/30.4℃、8日/25.0℃
【2020年(最高気温)】8月5日/30.2℃、6日/27.3℃、7日/27.2℃、8日/23.9℃(気象庁データ)

 暑さに加え、両年ともこの間の平均湿度は軒並み70%を超え、90%の日もあったほどだ。このように札幌の8月上旬は意外と蒸し暑いのである。米国のCNNは7月19日、「東京五輪、五輪史上最大級の猛暑に警戒」と報じ、札幌の暑さにも言及していた。

 連日30℃を超える「酷暑五輪」には、選手も不満を隠さない。ロシアのテニス選手ダニル・メドベージェフ選手は「今までで最悪の暑さだ」として試合開始時間の変更を提案し、世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)も「彼に100%同意する」と発言したと報じられた。

 42kmや50kmの長丁場を戦うマラソンや競歩では、選手だけでなく、沿道を訪れてしまう観客や警備スタッフらの熱中症の懸念が高まるばかりだ。

まん延防止の再要請も受け入れられず

 コロナ感染拡大も大きなリスクである。北海道は7月17日以降、新規感染者数が再び100人超の日が続いている。7月26日には札幌市だけの感染者数が約1か月半ぶりに100人を超え、緊急事態宣言解除後で最多となるなど、増加傾向が顕著になっている。

 鈴木直道・北海道知事は札幌での感染再拡大に対し「まん延防止等重点措置」の再適用を国に要請している。夏の観光シーズンに突入したことで、道外からの観光客が増え、感染拡大懸念は高まる一方だ。ところが政府は「今の時点で直ちに必要だとは見えない」(西村康稔経済再生担当相/7月20日)とつれない対応だ。

 組織委員会は大通公園など人が集まりやすいスポットへの立ち入り禁止など人流対策を発表しているが、いざマラソンや競歩が始まったら、コースの沿道に人が集まるのは目に見えている。

「5月に行われた五輪テスト大会(ハーフマラソン)でも観戦自粛を呼びかけていましたが、沿道にはそれなりに人が集まっていました。場所によっては密になっているところもありました。

 7月24日に行われた自転車ロードレースでも都内のスタート会場周辺の沿道はスマホを手にした観客が群がっていましたし、観戦自粛といったところで本番になれば、やはり相当数の観戦者が集まってしまうでしょう。札幌ではマラソン目当ての観光客もかなりやって来るでしょうから、人流を止めるのは無理です」(五輪を取材するジャーナリスト)

 マラソンのレース当日は、沿道にスタッフ約2000人を配置して、観戦者が密集するのを防ぐ予定だが、スタッフの数だけでも十分に密になる規模だ。

懸念される沿道での反対活動や抗議行動

 さらに、もうひとつ懸念材料がある。五輪開催に反対する一部の人による競技実施中の反対活動や抗議行動である。マラソンにはバッハ会長が視察に訪れるというから、なおさら心配である。

 茨城県で行われた聖火リレーでは、沿道にいた50代女性がランナーに水鉄砲で液体を発射するという事件があった。マラソンや競歩は距離が長いだけに、完全に警備するのは至難の業だ。

 2030年冬季五輪誘致に向け、札幌市や北海道は今大会のマラソン・競歩、サッカー予選を成功裏に終えたいだろうが、コロナ感染拡大と熱中症という重大なリスクを抱えての競技実施となる。「安全・安心」な大会が看板倒れにならないといいのだが。

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