ディズニー、元テーマパーク責任者にメタバース戦略を託す : リアルとバーチャルの架け橋

DIGIDAY

ディズニー(Disney)はメタバース戦略を担う上級幹部として、企業経営に長けたマイク・ホワイト氏を指名した。ホワイト氏はディズニー・メディア・アンド・エンターテインメント・ディストリビューション(Disney Media and Entertainment Distribution:以下、DMED)のシニアバイスプレジデント(SVP)に就任する。

エンターテインメント界の巨人たるディズニーにとって、ホワイト氏のSVP指名はメタバース進出の重要な一歩を記すものではあるが、同社による仮想空間への進撃はこれが初めてではない。昨年11月、同社のボブ・チャペック最高経営責任者(CEO)は、「ディズニー・メタバース」の開発がすでに進行中であることを投資家に伝えている。ディズニーは豊富な知的財産と、これを中心に形成された活気あるオンラインコミュニティを保有している。ストーリー性に優れたコンテンツを没入型のバーチャル体験に拡張しようという試みは、当然の帰結といえるだろう。

米DIGIDAYに示したホワイト氏の指名を告知する社内文書のなかで、チャペック氏はこう語っている。「ディズニーのメタバースを特徴づける物語は、無論、我々のクリエイティブ部門から発信されるものだ。マイクの役割は、新しい世界観がもたらすユーザー体験について、そのビジョンと戦略を示すことだ」(ディズニーはこのニュースに関するコメントの求めに応じていない)。

なぜ、マイク・ホワイト氏なのか

ディズニーでの経歴を見る限り、ホワイト氏は同社のメタバース戦略を統括するのにうってつけの人物だ。ホワイト氏は、米ヤフー(Yahoo!)と教育関連企業のアポログループ(Apollo Group)を経て、2011年にディズニー・インタラクティブ(Disney Interactive)の最高技術責任者(CTO)に就任した。その後10年のあいだいに、ディズニー・パークス・エクスペリエンシーズ・アンド・プロダクツ(Disney Parks Experiences and Products)、ディズニー・コンシューマ・プロダクツ・アンド・インタラクティブ・メディア(Disney Consumer Products and Interactive Media)、およびディズニー・インタラクティブ(Disney Interactive)でテクノロジー部門の責任者を歴任し、出世階段を着々とのぼってきた。

ディズニー・パークスでは、アプリやコネクテッドエクスペリエンスの責任者として手腕を振るった。その後の職務では、データシステム、モバイル技術、専有のゲームエンジンの開発を指揮している。2019年までディズニーでホワイト氏といっしょに働いていたギャップ(Gap)のブキー・ファモサSVPはホワイト氏をこう評価する。「マイクはすばらしいリーダーだ。私の知る限り、最高のCTOだ。彼は真のビジョナリーであり、試合の流れを一気に変えるゲームチェンジャーだ。このたびのSVP指名は、ディズニーが下したもっとも賢い決断のひとつだと思う」。

メタバースをめぐるディズニーの最近の動きには、同社の仮想空間に対するビジョンを知る手がかりが隠されている。メタバースを構築しようとする企業は、人気の高いブランドや知的財産を仮想体験に変換するという課題に直面する。エピックゲームズ(Epic Games)やメタ(Meta)などのライバル企業は、メタバースを構築するいわば建材として、ゲーム環境やVR体験を活用している。一方、ディズニーは、1955年に最初のテーマパークを開園して以来、保有する知的財産(IP)を没入型の体験に変えてきた。新興技術をテーマパークに応用する経験を蓄えたホワイト氏の起用には、同氏の持つノウハウをメタバースで最大限に活用したいという強い意向がうかがえる。

考慮すべきは「単なる3Dにとどまらないメタバース」

「メタバースの開発には、単なる3D世界以上の思考が必要となる」。そう語るのは、デジタル体験をプロデュースするアクティブセオリー(Active Theory)でシニアストラテジストを務めるエディー・ベンソン氏だ。アクティブセオリーは米テレビアニメの『リック・アンド・モーティ(Rick and Morty)』や『ハリー・ポッター(Harry Potter)』シリーズなどの仮想空間化を手がけてきた。「ディズニーの実世界のテーマパークでNFT(非代替性トークン)チケットを使って何かをやれる。では、テーマパークで何かやると、それがメタバースに連携される。このように、単なる3Dにとどまらないメタバース空間を考えることはとても重要で、ディズニーもそういう視点は確実に持っていると思う」。

技術的な素養の有無にかかわらず、メタバースという漠然とした概念を理解することは、たとえ経験豊富な企業経営者であっても容易ではない。しかし、ホワイト氏はディズニーのファンのみならず、ディズニー作品とファンの関わり方を深く理解している。それはホワイト氏が今回の職責を任されるに足る十分な理由だとベンソン氏はいう。「どんなブランドアクティベーションをやるにも、ブランドとオーディエンスをよく知っていることが必要だ。テクノロジーの進歩はめざましい。ほぼ毎週のように、新しいものが出てくる。だからこそ、我々のようなテクノロジーの専門家と連携する必要がある。ディズニーは、技術責任者を外部から採用してディズニーのすべてを学ばせるのだろうか? それとも、ディズニー内部の人材を起用して技術者と連携させるのだろうか?」

当面、ホワイト氏は、ディズニーのメタバース戦略を指揮する一方で、DMEDの消費者体験とプラットフォーム事業の責任者という従来の役割も引き続き担当する。ゲーム、エンターテインメント、ソーシャルメディアなど、さまざまな企業がメタバースに参入するなか、ディズニーをその最前線に立たせるという難しい課題をホワイト氏は託された。しかし、長年、企業の上級職を歴任してきたホワイト氏であれば、そんな挑戦も受けて立つのみだろう。「マイクにはディズニーの複数の事業部門で製品チームや技術チームを率い、変革を実現してきた実績がある」と、同氏の起用を発表する社内文書でチャペック氏は述べている。「とくに、物理的な世界とデジタルの世界の架け橋とくれば、その手腕のたしかさはいまさら言及するまでもない」。

[原文:The bridge-builder: Why Disney tapped a former theme park executive to lead its metaverse strategy

ALEXANDER LEE(翻訳:英じゅんこ、編集:小玉明依)

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