KDDI の 6秒TVCM は、広告業界になにをもたらすか?:KDDI 合澤智子氏 × TVI 東野晃大氏 × 読売テレビ 城達也氏

DIGIDAY

情報があふれる現代社会において、ネット上の動画広告は、短尺化が進んできた。その一方、TVCMでは15秒・30秒のフォーマットが、主流となっている。

だが、そのカウンターとして近年、「6秒TVCM」という新しいフォーマットが開発された。一部、先進的な広告主のあいだでは、すでに導入も進んでいる。そうした、企業の一社が、KDDI株式会社(以下、KDDI)だ。同社のauでは、CMシリーズ「三太郎」にて、この6秒TVCMを実施し、「リーチ最大化」という目的を達成できたという。

「デジタルでのショート動画が一般的になり、超情報化社会と言われる現状にあって、テレビ視聴者の情報の判断速度もどんどん速くなっている」と、KDDIのメディアプランニングやクリエイティブ全般を統括しているメディア・クリエイティブ企画室室長、合澤智子氏は語る。「激しい競争を繰り広げるモバイル業界にあって、いかにお客さまに自社サービスのメリットを認知させるかは大きな課題だ。そのため、コミュニケーションの手段として、TVCMの役割は非常に重要になっている」。

このような認識のもと、KDDIは2021年12月から6秒TVCMを制作。ローカル枠でオンエアし、その効果検証を試みた。KDDIの合澤氏、CM効果を分析したTVISION INSIGHTS株式会社(以下、TVI)の東野晃大氏、そして枠を提供した讀賣テレビ放送株式会社の城達也氏の鼎談から、この取り組みが広告業界にもたらすインパクトを探る。

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――6秒TVCM、テレビで拝見すると、インパクト大きいですよね。まず、今回、実施に至った経緯から教えて下さい。

KDDI 合澤智子氏(以下、合澤):お客さまとコミュニケーションしていくうえで、TVCMは大きな効果のある媒体だと思います。そしてその役割は「私たちが伝えたいワンメッセージをお客さまに届ける」ことで、通常、その効果は「視聴率」や「リーチ」という数値で測られています。ですが、それだとコミュニケーションの広がりは評価できるものの、どこまで深く届いているかという「質」まではわかりません。そこで、その「質」を評価するために、数年前から、TVIと「視聴質」調査を進めています。

そのなかであらためて、「どのようなCMであればリーチと視聴質を最大化できるか」ということを考えました。そこから、「通常の15秒や30秒ではない短尺フォーマットのCMなら、高い注視率でメッセージが届くのではないか」という仮説を立てたのです。そこで、6秒フォーマットの短尺CMを制作し、地上波でオンエアするというチャレンジに至ったわけです。

KDDI株式会社の合澤智子氏

TVI 東野晃大氏(以下、東野):ちなみに「視聴質」とは、実際にCMが視聴されていたかどうかを計測する指数です。これは、現状の視聴率調査では、分析できないものです。弊社では数年間にわたり、KDDIが手掛けたCMの視聴質を分析しており、その結果を主にメディアプランニングに反映させ、TVCMの効率改善をサポートしています。

――なるほど。では、なぜ短尺CMなら効果があると考えたのでしょう?

合澤:私はもともとデジタル分野の出身なんです。デジタルメディアでは、YouTubeのバンパー広告など、CMの短尺フォーマット化が進み、TikTokのようなショート動画に特化したメディアも台頭しています。そこで、デジタルメディアでよく使われる6秒の動画広告フォーマットを組み合わせることで、テレビでもリーチの広がりと注視率が高まるのではないかと考えました。

読売テレビ 城達也氏(以下、城):短尺のバンパー広告というのは、2016年ころから、デジタルメディアで活用されています。弊社で調べてみたところ、多くの企業が6秒のCM素材をすでに保有されているんですね。ですが、それはデジタルメディアでしか、活用されていなかった。そうであれば、地上波にもその6秒のCM素材を流せる仕組みがあれば、クライアントの選択肢を増やすことができます。そこで、2018年ころから、6秒TVCMを実施するための取り組みを進めていました。

讀賣テレビ放送株式会社の城達也氏

東野:通常の15秒や30秒のCMとは異なり、6秒TVCMの場合、何本も固めて流すのか、あるいは間隔を開けて流すのかなど、いろいろな流し方が考えられ、それによって期待できる効果が違ってきます。たとえば何本か固めて流した場合には、同じ視聴者に届いてしまい、リーチが広がらない可能性がある。その反対に間隔を空ければ、時間の経過で視聴者が入れ替わったりすることで、リーチの広がりを期待できるかもしれない。そのような話をさせていただきながら、もっとも効果のある方法を詰めていきました。

――6秒というと、通常の尺の半分、あるいは5分の1という長さです。この尺においてクリエイティブは、どのような点がポイントになりましたか?

合澤KDDIのCMは、伝えたいことをダイレクトに訴求するというより、auの三太郎や高杉くんシリーズ、UQ mobileのUQUEENのように、楽しんで見ていただけるストーリー型になっていることが多いんです。それは、一定の尺があるからできることですが、では6秒という尺で「短くなったから、言いたいことだけをつまんでCMをつくりました」となったら、視聴者にとっては単なる「広告」でしかありません。見ていただいても、面白いとは思わないでしょう。やはり6秒という短尺でも、見たい、面白いと思っていただきながら、ちゃんとメッセージを伝えることができる。その部分をどう両立させるか、本当に考え抜きましたね。

結果、今回は「応援割」のCMだったので、auのCMでおなじみの三太郎のキャラクターひとりずつに、視聴者への応援メッセージをもらうことにしました。6秒という短い尺なので、やはりインパクトがないと見てもらえない。なので、三太郎にはしっかりと正面を向いてもらって、アップで顔が映るようにするといった工夫もしました。15秒、30秒CMの場合でも同じですが、視聴者に「ちょっと見てみよう」と思ってもらえる仕掛けをどうやって入れるかということは、常に考えています。

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「三太郎」シリーズの6秒TVCM

:合澤さんがおっしゃるように、瞬時に視聴者の目にとまるようなインパクトを与えることと、何のCMだったのかわかる要素をしっかり入れなければいけないのがこの6秒TVCMの難しいところだと思います。今回のKDDIのCMでは、そこがすごく工夫されていて、絶妙に両者のバランスが取れています。すごく画期的ないいCMだな、と感じました。

――たしかに、画期的です。では、クリエイティブ以外でポイントとなったのは、どこでしょう?

:今回でいうと、本来30秒で1つの枠となっているCM枠を、2本の6秒TVCMと弊社の宣伝素材3秒を合わせた15秒×2に分け、それぞれ別のCM山に設定します。15秒のなかには6秒TVCMが2本ありますので、その2本の6秒TVCMを、CM山の最初に1本、最後に1本とスプリットで放映しました。つまり、6秒TVCMを、連続することなく4本オンエアしたことになります。これは今までのCMの流し方からしたら画期的だと思います(笑)。ただ、この設定は手作業でするので、なかなか大変ではあるのですが(笑)。

4本の6秒TVCMを連続することなく放映した

東野:今回の読売テレビの方法は、データ分析の観点からも効果的だと思います。良くも悪くも、地上波の視聴者には「ながら見」の状態と、専念して見ている状態という緩急がありますよね。このような場合、スプリットしていることによって、視聴者が専念している波にうまく当たれば、より多くの視聴者に見てもらえる可能性が高くなると思います。

――だからリーチを見込めるのですね。それでは6秒TVCMを実施してみて、成果という点ではいかがでしょう?

合澤:まず数値的な点で言うと、実際にリーチ量や質が伸びるだろうという仮説は正しかったことがわかりました。その点で、成果があったと感じています。さらに予想外だったのは、今回の6秒TVCMがSNSなどで話題になったことです。読売テレビの放送エリアでの実施だったので、全国展開はしていないのですが、「短いCMが流れてびっくりした」「短くてパワーがある」とポジティブな意見を多くいただきました。視聴者の方には、地上波での6秒TVCMはまだあまりなじみがなく、しかもそこにauの三太郎が出ているということで、インパクトがあったのではないかと思います。あらためて、新しいCMフォーマット開発というチャレンジを進めることの重要性を感じました。

:今回の取り組みは、放送枠は複数のレギュラー番組のローカルCM枠、そして実施期間は単月という、弊社としても初めての内容だったので、正直、成果が読めないところがありました。ですが、結果を見て、リーチ×フリークエンシーの伸びには貢献できたのかなと、ホッとしています(笑)。一般視聴者からも、6秒TVCMを見たという声が届いたり、別のクライアントから問い合わせがあったりと、予想以上に、大きな反響をいただいていますね。

東野:先ほど合澤さんから、見たくなる要素と伝えたいメッセージを両立させたクリエイティブを考えたというお話がありましたが、実際に効果としても、6秒しっかりフルで見てくれた視聴者の割合が、ほかの15秒、30秒のCMと比べると、すごく秀でていました。CMの目的に応じてそれぞれの尺を使い分けることで、得られるメリットを大きくできるのではないかという印象を受けました。

TVISION INSIGHTS株式会社の東野晃大氏

――6秒TVCMは、その特性を理解して実施することで、しっかりした成果につながりそうですね。では最後に、その可能性について、ご意見をいただけますか?

東野:いまはCMというと地上波に目が向けられがちですが、視聴者は、地上波もYouTubeも区分けなく、1台のテレビで見ている状況が増えているように思います。そういったとき、「同じ1本の6秒CM素材であったとしても、地上波で流れたときと、YouTubeとでは見られ方が違う」という仮説もありうると思うんですね。単純な見られ方、その後の態度変容への繋がりといったところも含めて、検証してみたいですね。

:先にお話しましたが、すでに、多くの企業が6秒のCM素材をお持ちです。それをデジタルだけでなく地上波でも利用することで、広告の選択肢を増やすことができます。今後はこの仕組みを、実施報告などとパッケージにして提供できるようにして、クライアントにとってのCMの可能性を広げていければと考えています。

合澤:お客さまのメディアの使い方が本当に多様化していて、流通する情報量は非常に多く、また情報のスピードもどんどん早くなっています。そのなかで、どのようなメッセージをどのように伝えるのが一番いいのか。世の中の動きをデータでしっかり可視化しながら、これからも最適なメディアを使って、メッセージを届けていきたいと考えています。そしてメディアの選択肢のひとつとして、6秒TVCMの存在感が増していくのではないかなと感じています。

ただ、誤解しないでいただきたいのが、6秒TVCMがいままでの15秒、30秒といった尺のCMに取って代わるものではないということです。15秒、30秒という尺でなければできないこともあります。6秒TVCMには、効率的にメッセージを届ける役目を担わせるといった使い方で、CMの相乗効果をあげることができるのではないかと思います。

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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(滝口雅志)
Photo by 合田和弘

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