クリエイター の成功を裏で支えるチームについて考える:「ブランド契約やライセンス契約、人事管理をすべてひとりでやるのは、無理がある」

DIGIDAY

クリエイターがコンテンツを制作するのは、そこに熱い思いがあるからだ。とはいうものの、本気度が高い人ほどそれを専業として儲かるビジネスにしたいと考える。そこで、ビジネス化するに当たってどのような人材をどのタイミングで雇うべきなのか、適切な人材をどう探せばいいのか、という問題が出てくる。

クリエイターエコノミーはまだ登場したばかりの新しい産業分野で、こうしたチームを構築するための定石的なものはない。

米DIGIDAYでは、クリエイターたちがどのようにこの点に取り組んできたのかを探るため、4人のリクルーターとプロクリエイターに話を聞いた。

理想のクリエイターチームとは

クリエイターの裏方チームについては、クリエイティブ側とビジネス側という2つの側面から考えるべきだ。

クリエイティブ側

ミスタービースト(MrBeast)などのインフルエンサーと仕事をしたこともあり、2022年はYouTubeクリエイター向けの求人サイト「YT Jobs」を立ち上げ、自身もクリエイターであるパディ・ガロウェイ氏は、クリエイターが最初に雇うべき人材としてエディターを挙げる。

「エディターがいればかなり時間を節約でき、もっと高い価値を生み出すタスクに専念できる」とガロウェイ氏はいう。「理想的には、クリエイターは撮影と最終決断を下すことだけに専念すべきだ。通常は、その状態に至るための第一歩はやはりエディターになる」。

次は、クリエイターとエディターその他のチームメンバーという点を線で結ぶ存在としてのクリエイティブディレクターだ。ガロウェイ氏は「動画のビジョンやアイデアを構築するための仲介人」と説明する。

収益が10万ドル(約1300万円)を超える一握りの幸運なクリエイターたちに対しては、ガロウェイ氏はフリーランスのコンサルタントを推奨する。クリエイター本人とは別の観点からすべてのコンテンツとコンセプトを見てもらい、制作される動画がクリエイターのビジョンとブランドに沿った最高品質のものであることを保証できるようにするのだ。

「もう一つとても良いのが、サムネイル責任者。クリエイターのチャンネルのサムネイルに使用する上質の画像を確保できる。ビジネスが拡大するにつれて、その配下にさまざまなデザイナーを配置することもできる」とガロウェイ氏は付け加えた。

ビジネス側

動画の制作と編集を優先させることは重要ではあるが、クリエイターにないことが多いのが財務面、法務面でのサポートだ。クリエイターは、自分のチャンネルやプラットフォームを若い頃に趣味として始めることが多い。そのため、フリーランスとして活動しているにもかかわらず、ブランドと契約した際の請求書発行や税務処理は、後から思い出したように付け足すもの、という位置付けになりがちだ。

出資パートナーとしてデジタルクリエイターを支援するプラットフォームであるゴールデンセット・コレクティブ(Goldenset Collective)の共同創業者ダレン・ラクトマン氏は「多くのクリエイターが、請求書を発行しないと支払いを受けられないこと、正しい手続きをすべて踏まないとブランドは支払いを渋るかもしれないことを理解していない」と話す。

YouTubeクリエイターであり、クリエイター分野の採用プラットフォームであるロスター(roster)の創業者でCEOを務めるシェリー・ウォン氏は、クリエイターの世界で新たに台頭しつつあるポジションを指摘する。最高執行責任者(COO)だ。

「ある程度まで自力でがんばってきたところで、それ以上に拡大するには誰かの助けが必要だという地点に到達する」とウォン氏はLinkedInに投稿した。「ブランド契約やイベント、ライセンス契約、人事管理、知的財産権に関するタスクなどをすべて一人でやってのけるのには、やはり無理がある」。

クリエイターはどのタイミングで人を雇うべきなのか

クリエイターがチーム拡大に着手すべきタイミングは特に決まってはいないが、通常は早い段階で始めるものだ。たとえばガロウェイ氏は、チャンネル購読者数が10万人に達していなくてもすでにチームに常勤のエディターがいるインフルエンサーによく出会うそうだ。

通常、決定的なタイミングは、クリエイターがコンテンツ制作を副業とすることから卒業し、長期的なビジネスを構築したいと考え始めたときにやってくる。あとは単にチームを雇うだけの資金があるかというだけの問題だ。

「稼いだ金額で自分のライフスタイルを維持できるレベルに達しているのか。自分の支出を賄うことができて、生活費に余裕があるのであれば、次の段階に進むべきときに来ている」とガロウェイ氏は話す。

クリエイターはその前の時点で限界に達することが多い。つまり、ビジネス面での問題に時間を取られ、新しいコンテンツの企画や計画、撮影の時間が一切なくなってしまうのだ。またはビジネス上の難しい決断を迫られながら、自分で決める自信がないという事態に直面する。燃え尽きに向かってほぼまっしぐらに突き進み、助けを求めるしかない状況だ。

「動画制作の優先順位を下げれば、自分のビジネス全体が崩壊しかねない」と管理職専門人材あっせんとコンサルティングを行うコンテンツ・インク(Content Ink)の創業者でプレジデントのジョン・マケラス氏は語る。「どのクリエイターも、どこかの段階でこの問題に直面することになる」。

クリエイターに決断するだけの状況認識はあるのか

助けが必要なことを認識できるビジネス感覚を持ったクリエイターもいるが、多くのクリエイターは自宅で事業を立ち上げており、本格的なビジネス経験はない。それが悪いというのではない。ただ、それは彼らが必ずしも自分の仕事をビジネス的な観点から見ることができてはいないということを意味する。

ガロウェイ氏は、クリエイターとして自分自身も同様の課題に直面した経験から、クリエイターはビジネス拡大のタイミングを認識することが不得手だいう。

「ユーチューバーになった人が、起業家気質ではない場合は多い」とガロウェイ氏は語る。「現実的には、多くのクリエイターは動画制作を得意としている人たちだ。ビジネス書を読み、ビジネスの仕組みや借入金などのもろもろのことを理解しているわけではないこともある」。

これとは別に、権限委譲の問題もよく見られる。クリエイターが友人や仲間など結束の固い集団の中でチームを作っている場合、意思決定権はクリエイター自身だけにあることが多い。その権限の一部だけでも人に明け渡すことはかなり勇気の要ることだ。

「賢いクリエイターたちは、創造的な側面に集中するにはビジネス面でのコントロールをある程度明け渡す必要があることを学ぶ」とマケラス氏は話す。「そのハードルを超えることができなければ、崩壊につながるかもしれないし、停滞してしまうかもしれない。だが、間違った理由で間違った人を採用してしまうと、耐えられない状況に自分を置いてしまうことになる」。

適切な候補者を見つけるには

求人となればまずは多くの応募者を集めることが勝負の決め手になる他の業界とは異なり、クリエイターの場合はある一定レベルに達すると、ナイト(Night)やグリーム・フューチャーズ(Gleam Futures)のような人材マネジメント会社の営業から接触を受ける可能性が高い。

「クリエイターのフォロワー数が約10万人に達すると、ゴールデンセットの営業対象となり、こちらからアプローチすることになる」とラクトマン氏は話す。

だが、この場合に最も難しいのは、こうしたオファーが誠実で信頼できる企業や個人からのものであるかを見極めることだ。ラクトマン氏によると、たとえばロサンゼルスなどでは、手っ取り早く儲けることだけを狙い、クリエイターにとって何が最善なのかを必ずしも考えていない人が少なからずいるそうだ。

「いつもクリエイターには気を付けるように助言している」とラクトマン氏は話す。「まだ業界がとても若いので、誰が本物なのか、誰に実績があるのかがわかるようなきちんとした歴史がない」。

だからこそ、クリエイターは自分のネットワーク仲間の口コミ推薦に頼るしかないということになる。

「経験豊富なクリエイターチーム人材」はどこに?

一方で、実際に人材が存在するのか、という問題もある。

ガロウェイ氏がYT Jobsで見てきたところによると、大量の求人があっても、応募者の能力が必ずしも求められるレベルにマッチするとは限らない。YouTubeなどのプラットフォームはパンデミック中に勢いを増し、それはクリエイターが人材を採用する際のニーズや期待、チームの大きさ、ビジネスやチャンネルに対する考え方にも影響を与えている。

つまり、クリエイター側では何年もの経験を持った人材を雇いたいと思っているということだ。特に少数精鋭を目指している場合はなおさらだ。その一方で、YouTubeの仕事を3、4年手掛け、成功した大規模なチャンネルを育て上げた経験を持つ応募者はかなり少ない。

「問題は、YouTubeで仕事する機会を得たいという経験の浅い層がたくさんいるということだ」とガロウェイ氏はいう。「だが、ユーチューバーの側では、未経験者に賭けてみるのは、教えることが多く扱いも難しいので避けたいところだ。3、4年の経験を持った人であれば、立ち上がりがずっと簡単になる」。

コスト面の問題もある。他のフリーランス業界と同様、クリエイターエコノミーにおいても、クリエイターがどのレベルにあっても、必要な人材に対する報酬設定に関しては基準も指針もない。たとえば、YT Jobsのとあるリモート勤務のフルタイム動画エディターの求人は年俸2万4000ドル(約312万円)であるのに対し、別のオンサイトのフルタイム動画エディターの求人は年俸6万ドルから7万5000ドル(約780万円から約975万円)となっている。

「自分が雇う場合は、サムネイルは1件当たり200ドルから300ドル(約2万6000円から約3万9000円)、編集は1件当たり500ドルから600ドル(約6万5000円から約7万8000円)に設定するだろう」とガロウェイ氏は話す。「だがビッグネームな人たちに依頼しているので、はるかに安く人材を得ているクリエイターはたくさんいるだろう」。

[原文:It takes a village: A look at the hidden teams behind successful creators

Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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