いま支持される インフルエンサー に必要な要素は「専門的知識と透明性」:C Channel株式会社 監査役 石井龍夫氏/同社 代表取締役社長 森川亮氏【Glossy + TALKS レポート Vol.4】

DIGIDAY

日々おびただしい量の情報に囲まれている今は、企業が発信する広告を見聞きしただけで、商品購入を決めることはまずない。ましてや、デジタルネイティブと呼ばれるZ世代になればなおさらで、若ければ若いほどその傾向は強くなっているという。

では、彼ら・彼女たちは誰のどんな情報を購買の決め手にしているのか。それは、同じ消費者の立場から発信されるインフルエンサーによる口コミである。そのインフルエンサーも千差万別。フォロワー数が100万人を超える「メガインフルエンサー」から1万人以内の「ナノインフルエンサー」まで、幅広く存在する。

インフルエンサーの活用は、これからのマーケティングに欠かせない要素となっているが、企業やブランドから見た理想のインフルエンサー、そしてカスタマー側からはどのような人が求められているのか。

元・花王デジタルマーケティングセンター長で、顧客体験設計やインフルエンサービジネスに長年携わり、現在は株式会社C Channel監査役を務める石井龍夫氏。そして、「C Channel」や「mamatas」などの自社メディアを展開し、インフルエンサー事業も手がける同社 代表取締役社長の森川亮氏に、Z世代の消費行動からライブコマースがさかんな中国事情まで、最新のインフルエンサーマーケティングの動向について語っていただいた。

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ーー口コミやインフルエンサーの影響力はどう変わった?

石井龍夫(以下、石井) 口コミが購買における重要な要素であることは、花王にいた30年くらい前から認識していたが、リアルからデジタルに変わったことで、誰の発言がどう伝わっていくかが可視化され、影響を及ぼす範囲と度合いが大きく変化した。

我々の時代、情報は取りに行くものだったけれど、今は勝手に降ってくる。取捨選択が大変なので、Z世代はある意味〈検索疲れ〉を起こしている状態ともいえる。探すのが面倒なので自分で選ぶ努力を放棄して、同じようなライフスタイルをしている人や憧れのインフルエンサーがいいと言うモノを選ぶ。一方では、企業の広告に対する信頼感が薄れていることもあり、結果的にインフルエンサーによる口コミを受け入れやすくなってきている。

ーーインフルエンサー広告やライブコマースがさかんな中国の現状は?

森川亮(以下、森川) 中国ではそもそもメディアの情報が信用されておらず、企業も日本よりルーズなところがあるので、組織ではなく〈本当に信用できる人は誰か〉が求められていた。またブランド数も日本の十倍ほど存在するので、ある分野に特化した専門家であるKOL(Key Opinion Leader)の情報が重視されてきたわけだが、加えてKOLはモノも売るので、卸に近い側面もある。

KOLに求められるのは、まず発信する情報が正しいかどうか。かつ他よりも安く仕入れられるか。この2つの機能からKOLは高い支持を集め、テレビのようなパワーを持ってきた。KOLによって商品を知り、最後はKOC(Key Opinion Consumer)による本音の口コミを確かめてから購入する、という流れ。

ーー中国のKOLやKOCが主に利用しているプラットフォームは?

森川 今いちばん話題なのは、「TikTok(抖音)」と「RED(小紅書)」というアプリ。ご存じのとおりTikTokは動画で、REDはいわば中国版インスタグラム。どちらもECショップができて、なかには年間100億円以上稼いでる人もいるが、昨今、中国政府の意向でスターを育てない、平等主義の流れになってきた。

石井 一部の人が儲かる形を政府は認めないという方針。インフルエンサーだけでなく、アリババのようなプラットフォーマーにも世の中に寄付することを求め、利益を全体に還元する方向に進んでいる。

ーー日本ではそこまで突出した企業やインフルエンサーがいない。

森川 日本の場合はもともとEC化率が低く、メーカーが流通や卸に気をつかうから、値引きに厳しい。日本のインフルエンサーは中国のように安く売ることができないので、商品開発やOEMの販売を手がけている。それに日本では派手にやって目立つと叩かれるし、嫉妬も生まれやすいという文化的背景もある。

石井 あと経済環境も大きい。世の中が元気なときは将来に希望が持てるので思いきった挑戦もできるが、日本ではここ20年くらいで身近なところにゴールを設けるようになり、自分の手が届く範囲のものを追いかけるようになったことも影響しているのではないか。

ーー いま支持されるインフルエンサーは?

石井 専門性があって、人となりが信頼できるかどうかが重要なポイント。そして紹介する商品やサービスを本当に気に入っているかという、嘘のない部分が求められる。お金をもらって投稿しているであろう有名人の発信よりも、等身大のインフルエンサーによる正直な発言に共感するので、最近はインスタグラムのフォロワー数が1万人未満の「ナノインフルエンサー」の口コミが注目されている。

森川 我々の調査によると「#PRがついていたら信用しない」という声が多数を占めた。企業は自分たちのブランドや商品を本気で好きになってくれる、ファンになってくれるインフルエンサーを求めているし、インフルエンサーからすれば得意分野の最新情報を入手したい。両者をマッチングする場として、C Channelでは報酬を支払って投稿依頼をするのではなく、インフルエンサー自らの意思で紹介したいと手を挙げてもらう仕組みの「Lemon Square(レモンスクエア)」というプラットフォームを展開している。

ーーこれからはファンマーケティングが主流になっていく?

石井 そのとおり。商品だけでなく、社会やお客さまに向き合う姿勢にも共感して、ファンになってもらうこと。Z世代は自分で選ばず、信頼できるインフルエンサーの情報を元に消費行動を起こすことはお話ししたが、他にも広告などで新たな情報を目にしたら、まずSNSで口コミを調べ、あれば信用するが、なければ信用しないという認識の仕方をする特徴もある。このことからも、いかにSNSの口コミが大事かがわかる。

森川 今後のマーケティングにとって「口コミを整える」ことは重要で、そのためにも信頼できるインフルエンサーはますます欠かせない存在になっていく。企業のSNSアカウントもプレスリリースを出すだけではダメ。自社アカウントにインフルエンサーの投稿も載せてお客さまと直接つながるなど、SNSで積極的にコミュニケーションをとっていくことから、ファンマーケティングは始まる。

(公開インタビューイベントは2022年1月14日に実施)

■石井龍夫(いしい・たつお)
元花王デジタルマーケティングセンター長 、C Channel株式会社 監査役。1980年花王に入社、販売部門経験の後、事業部門でブランドマーケティング業務に14年携わり花王の主要ブランドのブランドマネージャーを歴任。2003年以降、web作成部長、デジタルコミュニケーションセンター長、デジタルマーケティングセンター長として、花王のデジタルマーケティング活動を統括。現在は、C Channel株式会社の監査役、株式会社イーライフのエグゼクティブアドバイザー、アドビのエグゼクティブフェローを務める一方、日本マーケティング協会のマーケティングマイスターや広告電通賞ブランドエクスペリエンス部門の審査委員長、日本アドバタイザーズ協会のデジタルメディア委員、早稲田大学大学院経営管理研究科非常勤講師、マーケティング国際研究所の招聘研究員でもある。

■森川亮(もりかわ・あきら)
C Channel株式会社 代表取締役社長。1989年に筑波大学卒業後、日本テレビ放送網株式会社に入社。1999年青山学院大学大学院国際政治経済学科でMBAを取得。2000年ソニー株式会社に入社。その後、2003年ハンゲームジャパン(現 LINE株式会社)に移籍。2007年同社代表取締役社長に就任。2011年に「LINE」をスタートさせた。 2013年4月にはゲーム事業を分離し、社名をLINE株式会社に変更。同時に同社代表取締役社長に就任。2015年3月末代表取締役社長を退任。同年4月C Channel代表取締役社長に就任。2020年5月C Channelは東京証券取引所TOKYO PRO Marketに上場。

Written by 山本千尋

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