多様性、公平性、包括性(DE&I)の取り組みの進展に関しては、エージェンシー全体で活発な話し合いがなされ、かなりの活動があった。それで十分かどうかについて議論がなされるのは当然だが、ノースカロライナ州での最近の一例は、新しいビジネスを成功させる道となりえることを実証している。
ノースカロライナ州ダーラム郡および中心都市のダーラム市が主催する地域観光推進活動「ディスカバーダーラム(Discover Durham)」は、春に実施したキャンペーンを拡大しての再開催を検討している。同時に、ダーラムの多様性をスタッフにより理解してもらい活動に反映させようと考えている、とディスカバーダーラムのクリエイティブディレクターであるジョナサン・リー氏はいう。
最新の国勢調査報告によると、ダーラム市およびその周辺郡に住むの人口の約37%がアフリカ系アメリカ人だ。
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「多様性は多様性を呼ぶ」
ディスカバーダーラム発足の設計説明書(RFP)のなかで、ある地元エージェンシーのプログラムが際立っていたとリー氏は述べる。隣接する都市、ローリーにあるフルサービスのエージェンシー、ウォークウェスト(Walk West)は、DE&Iに関するすべての問題についてクライアントを教育および訓練することを目的とした、ザ・ダイバーシティ・ムーブメント(The Diversity Movement)と呼ばれる分派活動を実行。ディスカバーダーラムのチームスタッフの目をくぎ付けにした。
「それこそ、私たちが組織として目指すところだった。そして、誠実で技能があり、DE&I社会でやるべきことを把握していて、かつ、ダーラムで実際に起きていることへの理解と共感を持ってくれるパートナーと協力したいと考えている我々にとって示唆的だった」とリー氏は話す。
しかし、ウォークウェストもまた、その内部構成について人種だけでなく、年齢、性別、経験における多様性を反映するよう努めている。「多様性は多様性を呼ぶ」と、ウォークウェストのシニアバイスプレジデントのアバ・バウアーズ氏は述べている。「それを実践し、学ぶ必要がある。どうやって実践するのか? 私たちはまず自社のスタッフからはじめる。技能範囲だけに限らず、年齢、学歴、社会的地位を考慮する必要がある。そして、これらすべてをひとつにまとめると(マーケティングエージェンシーではあまり一般的ではないが)、革新的でユニークな仕事と展望をクライアントに提供できる」。
学習の部分は、ザ・ダイバーシティ・ムーブメントがウォークウェストとともに行ってきたことに該当する。ウォークウェストのチェアマンで元CEOのドナルド・トンプソン氏は現在、ザ・ダイバーシティ・ムーブメントのCEOを務める。彼はアフリカ系アメリカ人の起業家だ。バウアーズ氏によると、ウォークウェスト社員はランクの上下に関わらず、TDM方式(複数のチャネルの情報をひとつの機構・プログラムで共有したり発信したりする方式)でトレーニングと教育を受けている。「その機会を利用して、自分にあるものと他人にあるものを評価し、尊重する」と、バウアーズ氏。「そうすることで、大げさに聞こえるかもしれないが、10倍の価値が生まれる」。
「DE&Iは当然の要件」
キャンペーンは9月の第1週に開始され、秋が終わるまで続く。夜間や週末にダーラム地域に観光客を呼び寄せることが主目的だ。ウォークウェストは、通常の旅行関連のソーシャルプラットフォームや検索プラットフォームにとどまらず、顧客の体験をピンタレスト(Pinterest)に組み込むなど、さまざまな取り組みを試していると、ウォークウェストのメディアおよびデータ作業を監督するマーケティング担当バイスプレジデントのマイク・マンガニエロ氏は語る。彼はまた、グルメスポットだけでなく、(1988年のアメリカ映画『さよならゲーム[原題:Bull Durham]』のモデルになった)マイナーリーグ球団ダーラム・ブルズのクラブや球場などのユニークな名所も取り上げようとしていると話す。
「オーセンティックで、大胆かつ多様でなければならない」とマンガニエロ氏はいう。「彼らに会ったときに、これは採算を上げるためだけに発注された1回限りの仕事ではなく、もはや私たちは彼らのマーケティング部門なのだとはっきりした」。
「創業についてさまざまな知見を持つ組織と提携できるに至っただけでなく、実際に彼らのトレーニングやパートナーシップに関して継続的で具体的な仕事を共有できることは、私たちにとって非常に魅力的だし、心強い」と、ディスカバーダーラムのリー氏は話す。
「エージェンシーが自社の内部および外部のDE&Iの取り組みの長所を生かしてビジネスを成功させる事例が増えている」と、4Aのタレント・エクイティ・インクルージョン部門のエグゼクティブバイスプレジデントであるサイモン・フェンウィック氏は語る。彼によれば、DE&Iの要件を当然のように取り入れる組織設計が増えているという。「それはクライアント候補とエージェンシーのあいだで価値観がそろっているかどうかを決定するうえで、重要な要素だ」。
そして、フェンウィック氏はこう付け加えた。「ウォークウェストの成功に加えて、WPPのマインドシェア部門は、たとえば同部門が取り組む「良い成長(Good Growth)」事業の新方針にDE&Iの要件を取り入れ、顧客のマーケターと目的を一致できたことにより、ユニリーバ事業を維持している」。
[原文:Why the DE&I efforts of one agency became the deciding factor in it winning new business]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)