マイクロソフト のアクティビジョン・ブリザード買収は、ゲーム業界にプラスとなるか

DIGIDAY

4月、英国の競争・市場庁(Competition and Markets Authority:以下、CMA)がマイクロソフト(Microsoft)によるアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)の買収計画に待ったをかけたのに対し、欧州連合(EU)の欧州委員会(European Commission:以下、EC)は5月中旬、この買収を承認した。

そして現在、世界の注目は米連邦取引委員会(Federal Trade Commission:以下、FTC)に向けられている。この買収が最終的に成立するかどうか、FTCが先延ばしにしてきた決定が下されるのが間近に迫っているが、これは実際のところ、決定が「いつ」されるかではなく、「決定されるかどうか」という問題だ。

CMAとEUの異なる裁定は、マイクロソフトとアクティビジョン・ブリザードの買収が将来的に取り得る2つの道を示しており、FTCの決定が、買収の可能性をどちらのレンズを通して見るかに帰結する可能性を示している。この買収がゲーム業界に与える影響にFTCが注目すれば、ほぼ間違いなく承認されるだろう。だが、もしFTCがこれを、クラウドコンピューティングの未来を支配するためのマイクロソフトの策略と見なすなら、この買収は危うくなる可能性がある。

「マイクロソフトによるクラウドゲーミングの支配」という懸念は行き過ぎ?

現時点では、どちらにも転ぶ可能性は大いにある。しかし、ECとFTCは緊密に連携しており、このような大きな裁定で意見が分かれることはほとんどないため、この度のニュースはアクティビジョン・ブリザードの幹部にとって心強い兆候となった。

アクティビジョン・ブリザードの最高経営責任者(CEO)であるボビー・コティック氏は、米DIGIDAYに寄せた声明のなかで次のように述べている。「ECは、ゲームについて包括的に理解するため、極めて徹底した慎重なプロセスを実施した。その結果、急速に成長する業界における強固な競争を確保するため、厳格な救済措置を求めたものの、マイクロソフトとの合併を承認してくれた」。

4月末にCMAがマイクロソフトとアクティビジョンの合併を承認しなかった際、英国の規制当局は「マイクロソフトのクラウドゲーム市場でのシェア」を判断の理由にあげた。合併によりマイクロソフトがこの成長分野を独占してしまう恐れがあるというのだ。しかし、ECとゲーム業界双方の関係者は、マイクロソフトによるクラウドゲーミングの支配に対する懸念は行き過ぎだと考えている。

ゲームに特化したベンチャーファンドであるコンボイ・ベンチャーズ(Konvoy Ventures)でマネージングパートナーを務めるジョシュ・チャップマン氏は、2021年の世界のゲーム市場における両社の合計売上が11.6%を占めるのに対し、ソニーは10.1%であると指摘したうえで、「クラウドゲームに対する彼らの不満は、主にクラウドゲームとは何かを完全に誤解していることに起因する。彼らの市場評価は、これ以上ないほど的外れだった」と述べている。

クラウドの問題か、ゲームの問題か

FTCがクラウドゲーミングをより積極的に捉え、今後10年で大規模化すると専門家が予測するクラウドコンピューティングで、マイクロソフトが優位な地位を占めるための方法と解釈すれば、マイクロソフトとアクティビジョン・ブリザードにとって、課題が生じる可能性がある。

カリフォルニア大学バークレー校情報学部大学院の教授で、5月上旬にクラウドコンピューティングに関するFTCパネルに参加したスティーブン・ウェーバー氏は、「ここで、リナ・カーン氏(FTC委員長)の哲学が本当に重要になる」と述べた。「もし彼女が、ゲームをクラウド上の最先端アプリケーションとみなして、これをクラウドサービスに関する問題にしたいのなら、私自身もそう考えがちだが、マイクロソフトは困ったことになると思う」。

いまのFTCは間違いなく、以前よりも活動的だ。メタ(Meta)によるVRフィットネスアプリ「スーパーナチュラル(Supernatural)」の買収を阻止しようとしたことは、現在では比較的脅威のないように見える取引を阻止するために、未来を予測することを厭わない証拠だ。

「カーン氏は異なる見解を持っており、それは単に哲学的なものだけでなく、メタによるバーチャルリアリティの取引で彼女がとった行動がそれを示している」とウェーバー氏は言う。「目に見える新興市場、さらに、まだそこに存在しない新興市場での競争の機会を閉じることを防ぐために行動するつもりだ。メタがバーチャルリアリティで支配的な地位にあると主張するのは非常に難しいだろう。その市場はほとんど存在しないのだから」。

買収の承認はゲーム業界にも追い風?

クラウドコンピューティング市場はともかく、マイクロソフトはこの取引がFTCに認められれば、ゲーム業界の観点からもそれ以外の観点からも、多大な利益を得られる。

2022年、マイクロソフトがゲーム内広告部門を立ち上げたと報じられたが、アクティビジョン・ブリザードの膨大なプレミアムゲームのライブラリは、この試みにとって非常に有効なインベントリー(在庫)になるだろう。

ゲームがメタバースの先駆者になり得ることが明らかになるにつれ、アクティビジョン・ブリザードの豊富なゲーム資産は、この分野で大きくリードしているエピック・ゲームズ(Epic Games)に、マイクロソフトが追いつくのに役立つかもしれない。

そして、マイクロソフトの新しいリーダーシップは、2021年にセクハラや従業員への不平等待遇の報道で揺れたアクティビジョン・ブリザードに対する投資家の信頼も回復させることができるだろう。

「これは世界のゲームにとって素晴らしい展開であり、クラウドゲーミングの未来にとって素晴らしい展開だと思う」とチャップマン氏は言う。「これは業界にとってプラスの面しかないのだ」。

[原文:What the divergent EU and U.K. rulings say about the future of the Microsoft–Activision Blizzard merger

Alexander Lee(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)

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