開催ありきの音楽フェスに疑問 – 渡邉裕二

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コロナ禍の中で音楽フェスティバルに逆風が吹き荒れている。

引き金になったのは、先月29日に愛知県常滑市にある中部国際空港島のAichi Sky Expoで開催された野外音楽フェス「NAMIMONOGATARI 2021」だった。

この音楽フェス、愛知県のガイドラインでは上限5000人となっていた収容人数に対して約8000人を入場させた挙句、ソーシャルディスタンスを守らない参加者(入場者)が密集して盛り上がり、会場内では「自粛要請」が出されていた酒類の販売までも行っていたことが発覚したのである。

緊急事態宣言下で「ほぼ確信的でやっていた」(地元住民)ことに批判が殺到。事態を重く見た愛知県大村秀章知事は「強く要請していたにも関わらず、(県の指示を)守られていなかったことは極めて問題。遺憾だ」と、開催した主催者などに猛抗議した。名古屋のイベント関係者は、

「愛知県では感染者が連日1000人を超え、フェスの開催直前に緊急事態宣言が発令されました。チケットも売れており、開催自体は仕方なかった部分もあったのかもしれませんが、開催中の会場内を見る限り、無理矢理開催してしまったような部分があったことは否めませんでしたね。

コロナ対策もずさんでしたが、それ以上に問題なのは、この時期に会場内で酒類を販売したことです。フェスを盛り上げるために売ったとしか思えず、大村知事の怒りに対しても言い訳ばかり。結局は音楽フェス全体に悪い印象を与えてしまいました。

もっとも主催者ばかりではなく、アーティストも単に自分たちの演奏を盛り上げればいいと思っていただけでしょうし、参加したファンも開催中にマスクを外したり、酒を飲んだりと、決められたルールを守れなかったわけですから責任の一端はあります。ただ今回、開催された音楽フェスはラッパーなどヒップホップ系のものだったのですが、最終的にアーティストや音楽に対しても悪いイメージを植え付けてしまったと思いますね。ある意味では自業自得な部分もあります」。

と、呆れ顔でいうが、実際、出演したラッパーのZeebraは、自身のツイッターで「ヒップホップシーンを牽引する立場として責任を感じてます」と謝罪に追い込まれた。さらに、

「音楽4団体(コンサートプロモーターズ協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会)までもが声明を出す羽目になりました。経産省も(『コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金』として)当初、予定していた3000万円の補助金を取り消し、主催した事業者(Office Keef)もどうやら会社の解散に追い込まれているようです。いずれにしても2005年から開催してきたこの音楽フェスも、今回でピリオドということになります」。

他のフェスに悪影響 行政から延期要請も

スーパーソニック公式サイト

この音楽フェスによる失態の煽りをモロに食らったのが、今月18、19日に千葉・幕張のZOZOマリンスタジアムで予定されている野外音楽フェス「スーパーソニック」だ。

今回の愛知での騒動を受けて千葉県の熊谷俊人知事は主催者に対し、入場者数の削減や、会場との直行直帰を入場者へ求めるよう要請。千葉市も神谷俊一市長が「開催の延期か入場者の削減」を要望した。

同音楽フェスには、perfumeやNiziU、きゃりーぱみゅぱみゅ、アラン・ウォーカーらが出演を予定している。フェスに携わってきた関係者は、

「昨年9月に開催する予定でしたが、海外アーティストの入場規制などあり、開催への見通しが立たなくなったこともあって1年間延期。今年は何としてでも開催したいと考えていました。

もちろん感染拡大に関しては常に状況を注視しながら対策を行ない、各種のガイドラインに沿って開催を目指してきたのですが、愛知での音楽フェスで一転してしまいました。この時期、このタイミングですからね、正直言って『ふざけるな』の一言ですよ」 と嘆く。

同じ日程で開催を予定していた大阪での公演は「アーティストの移動が困難」との理由から中止を決めたが、幕張での開催は「海外からのアーティストもいるため、さすがに中止は難しい」こともあって、現状の対策として「安全な距離を保てるよう立ち見予定だったアリーナにも座席を設置した上での開催を考えています」(前出のフェス関係者)。

しかし、神谷市長は収容人数が多いことから「感染リスクが高まる」と危惧、実施する場合には入場客の上限を1日5000人以下と主催者に通達した。だが、前出のフェス関係者によれば、販売済みのチケットは予約分を含めたら1日につき1万3000枚にまで達しており、急遽「チケットの払い戻しも受け付けている」としているものの「どう絞ったとしても、1日の入場者を1万人以下にすることは難しい」という。

しかもここにきて、

「愛知での音楽フェスに参加していた男性消防士ら15人が新型コロナに感染したことが分かり、県ではクラスターに認定しました。フェスの参加者に対しては無料のPCR検査を呼びかけており、8000人の入場者の中で、すでに1000人以上が受けているといいます。もっとも県外からの参加者も多かったようなので、最悪の場合、感染者は全国に広がっている可能性もあります」(音楽関係者)。

5月には大型フェスを後援した千葉県の方向転換

共同通信社

事態は刻々と推移しているだけに「スーパーソニック」も、もはや他人事ではない。前出の音楽関係者は「主催者は夜も眠れない日々が続いているはずです」とした上で、千葉県と千葉市の今回の対応策についても疑問を投げかける。

「今年5月のゴールデンウイークに千葉市の蘇我で開催された1万人規模の野外音楽フェス『JAPAN JAM』は当時、一都三県の知事が共同で『県をまたいでの移動を自粛してほしい』と呼びかけていたにもかかわらず強行開催されました。

県民や市民の間からは批判の声が相次ぎ、地元のFMラジオ局も主催を降りたりしたものの、市は後援を継続。開催後は知事も市長も、フェスに関しては完全にスルーしてきました。その時に市や県が『JAPAN JAM』の開催を認めた理由の一つはチケットをすでに発売してしまっていることでした。

確かに、当時は『まん延防止等重点措置』の発令だったので、今回の緊急事態宣言とは事情が全く違いますが、愛知での音楽フェスによる不祥事が発覚するまで開催を問題視せずにきたわけですからね。

それが開催直前になって突然に中止へと方向転換するのは、混乱を引き起こすことになりますし、無責任です。県や市の危機管理という部分では大いに疑問が残りますよ。

しかも今回のスーパーソニックに対しては経産省から6000万円の補助金が出ることが決まっています。主催者も当然、その補助金を当てにしているでしょう。要は、県や市の要請に従わなくても補助金は支払われるわけです。もっとも感染者が出たりなんかしたら『(補助金は)もらうな』という声も出て来そうですが…」(音楽関係者)。

もちろん、「スーパーソニック」については主催者だけではなく、参加アーティストにも「開催して欲しい」という願いがあるようだ。

ROCK IN JAPANとFUJI ROCKの違いはなんだったのか

共同通信社

いずれにしても、主催者やアーティストと、そうではない一般国民との間には大きな温度差がある。

例えば8月7〜9日、14、15日に茨城県「国営ひたち海浜公園」で開催を予定していた野外音楽フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL2021」はどうだったのか?

この音楽フェスは、茨城県医師会の代表者から「新型コロナウイルス感染防止に関する要請書」が主催者側に手渡されたことがキッカケとなって開催目前に中止された。つまりコロナ禍の中で医師会に逆らってまで音楽フェスを強行することは出来なかったのである。

この中止に対して、同音楽フェスへの出演を予定していたアーティストの間からは疑問の声が続出した。

まず「ONE OK ROCK」のTakaは自身のインスタグラムで「そろそろみんな怒るよ」と心情を吐露。「King Gnu」の井口理も「今この国にあるのは曖昧なルールと同調圧力」と訴え、「RADWIMPS」の野田洋次郎に至っては、音楽フェスが中止になる一方で東京五輪の開催が許されたことを持ち出し「有観客、無観客に関わらず、五輪開催による感染者数の増加はすでにたくさんの専門家の意見でも明らかな中、開催は既定路線として進みました」と批判と疑問を投げかけた上で「『ふざけんな』という気持ち」と憤りを露わにしていた。

その一方で、新潟県湯沢町で予定通り開催されたのが「FUJI ROCK FESTIVAL21」。感染拡大が取り沙汰される中で延べ35449人が参加して8月20日から3日間に亘って繰り広げられた。

「『FUJI ROCK』と『ROCK IN JAPAN』との違いは、一言で言えば地元住民の熱意と要望の違いでしょう。片方は地元医師会から協力が得られなかったことが中止の要因となりましたが、『FUJI ROCK』の場合は、湯沢町が開催にこだわったそうです。要は町おこしの音楽フェスですからね。『中止なんかされたら町が潰れてしまう』となったようです。

各地から一人でも多くの人に来てほしいと県や町がバックアップし、環境省までが後援していましたからね。新潟県は感染者が低く抑えられていたことも要因の一つでしょうが…」(週刊誌記者)。

参加を予定していたアーティストの中には小泉今日子や大友良英のように感染の拡大を危惧して出演を辞退した人もいた。その一方で忌野清志郎さんの率いた覆面バンド「ザ・タイマーズ」をオマージュした「エセタイマーズ」は、忌野さんの「タイマーズのテーマ」を替え歌にして「こんなデタラメな政府とさよならしたいよ」と叫び、さらにASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文は、メロディーに乗せて「ガースーもう辞めてくれ」と菅義偉総理の批判まで繰り広げていた。

「音楽で自分たちのメッセージを送ることは重要ですが、コロナ禍で強行開催した音楽フェスの中でアピールするものではないですよね。勘違いしているというか感覚がズレていると思われても仕方のない行為だと思います。

コロナ対策は徹底していたといいますが、会場内では酒を持ち込んで飲んでいる姿もあったようですからね。自治体からのバックアップを受け、しかも主催者には経産省からは最大1億5000万円の補助金が出る。早い話が結果オーライでしょ」(前出の週刊誌記者)

「国民の健康と安全」が叫ばれる中、自分たちの思い通りにならなければ「東京五輪」の開催を言い訳にする…。結局のところ主催者の本音は「やったもの勝ち」ということなのだろう。

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