まん防延長は政権による政治決定 – やまもといちろう

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 備忘録的に書くのもどこまで許されるのかという話なのですが、ご承知の通りまんぼう(まん延防止等重点措置)が延長されました。

基本的対処方針に基づく対応
https://corona.go.jp/emergency/

 オミクロン株は大変伝播力が高く、一方で重症化率が低いと予想されることから、一部の人たちが「風邪のようなもの」と過剰な対策に対して反対の姿勢を示しております。これに対して、岸田文雄政権においては早くからオミクロン株の流行に対して警戒感を強め、今回も感染者数の多さやオミクロン株に対応した入院ベッド数の埋まり具合などを換算して「まんぼう延長」という決定を早々に出しました。

 「オミクロン株は風邪のようなものか」と言われれば、重症化率がそれほど高くないけれどもこれだけの感染者数が増えてしまえば当然重症者は増えてしまいますので、医療機関に対して大きな負担となることは間違いありません。なので、医療崩壊を防ぐために国民の無原則な移動や接触機会を減らすためにまんぼう延長を実施と言われると、ああ、まあ、うんという感じになります。

 他方、同様に「オミクロン株はインフルエンザ程度なので、5類にすべき」という議論もあります。明確に言えるのは、オミクロンはインフルエンザ程度ではないということです。単純に、みんなが外出をまあまあ控え、夜の会合も減らして手洗いうがいにマスクを励行するだけでインフルエンザさんはピクリとも流行できません。しかしながら、これだけの対策を打ってもオミクロン株は普通に増えるという点で、インフルエンザ程度とは程遠いぐらい感染力が強いマズい感染症であることは明らかです。

 5類にするしないについても医療系団体ではかなりの議論はありますが、これも単純な話「オミクロンの重症化率の低さだけを見て判断するわけにはいかない」というコンセンサスになるんじゃないかと思います。たまたまオミクロン株はデルタ株など従前の流行株に比べて感染力は強いけど重症化率は低い株だったので、コロナ後遺症がないかぎりまあ大丈夫だろうという考え方になるのですが、今後、新たな変異が出て、毒性が強いよとか、別の症状を引き起こしたり後遺症を残しやすい株が流行してしまうと、5類に引き下げたあとで追加で制度変更が必要になります。おそらくは、コロナ対策の出口戦略を考えるうえでも、それなりに制度的な扱いは事後の変異状況によって大きく左右されることはあるだろうと思っています。

 ただ、これらの医療系団体の議論の積み重ねとは別に、今回の「まんぼう延長」は岸田政権内部の政治決定によるところが大きいように感じます。実効性が高い対策をしっかりとって国民の健康を守るにあたって、今回のオミクロン株はまんぼうによってどれだけ防げると考えられるのか、実際のところ良く分からないというのが正直なところだからです。

 とりわけ、いまのオミクロン株の流行度合いよりも今後のコロナ変異株の流行への対策を念頭において措置を取ろうというとき、いままんぼうをやって国内流行を抑え込むことよりも、早々に3回目のワクチンを国民に広く打たせたり、5歳以上の子どもへの接種を大いに促進したほうが効果的であることは有識者分科会でもCOVID-19有識者会議でも結論を付けています。つまり、オミクロン株を軽視しないけど長い目で見て有効な対策を打つべきという話です。

 で、実際ワクチン3回目のブースター接種が遅れ、特に子どもに対するワクチン接種があまりスピードアップしないことで、結果的に、オミクロン株による自粛のダメージのほうが大きくなりそうだという状況になってしまっています。入国制限も濃厚接触者も扱いの最適化をどうするかという議論が遅れ、結果として、不必要に充分すぎる対策をオミクロン株のために打ち、他方、オミクロン株「後」の対策についてはワクチン含めてあまり進んでいないということになるわけです。

 特に、経済面から見ても、対策の内容の再調整がうまくいっていない印象です。確かに飲食店が感染症の媒介になるのだから夜間営業を自粛させれば感染の接触機会が減るので感染症対策の中核に据えられるのは分かります。

 一方で、従前のコロナ株への対策と異なり、ワクチンの接種で一定の感染防御効果と重症化抑制が効いている前提とするならば、ダメージになるのは飲食だけでなく食材・素材の流通や、これらに品物を卸す農家、漁師、畜産家など川上産業の皆さんです。また、営業自粛で問題となるのは飲食店への勤務で生計を立てる非常勤・非正規のパート、アルバイトなどの仕事に従事する人たちです。

 このあたりの手当も以前であれば緊急対策なのだからとある程度雑におカネをばら撒いても国民の納得は得られたと思うんですが、さすがにもう足掛け2年コロナ経済で国民も慣れてきているところでこのやり方のままでいるのはさすがにどうなんだよと言いたくなる面もあります。

 政府と専門家会議との間でのやり取りを見ていても、緊急対策だったころのやり取りとそれほど大きく議論の内容は変わらず、リスク評価も格段に進歩しているはずなのに岸田政権の政治的判断で適切に情報が使われた形跡もないので、おそらくは、為政者の考え、想いで、きっとこれがいいだろうという目分量でまんぼう延長の方向性も決まってしまったのではないかと危惧します。そこに科学はなさそうだ、というのが非常に残念なことであって、協力している医療系団体や有識者の議論がどこまで判断の材料となり、きちんとした裏付けとなってまんぼう延長になったのかは事後的に相応にしっかり検証するべきなんじゃないのかなあと思っています。

 で、気の早い話ですがオミクロン株の次もどうも発生する前提で各国では情報交換の座組みが進み始めています。今後は、季節性インフルエンザのように変異株予想がある程度の確度で分かるようになっていくでしょうし、5年なり10年なりかけて、コロナウイルスの変異を人間社会側が予測して乗りこなすところまでいけるようになれば最高です。

 そういうことも踏まえて、政府・行政の電子化や、保健所や地方衛生研究所など感染症対策の仕組み、国民への情報周知や政策徹底の手法について、きちんと考えていけるような政策議論が積み重ねられるといいなあと願っています。

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