Appleが「仮想iPhone」を販売するCorelliumと和解、「Appleはあまりにも多くの訴訟を抱えすぎた」との指摘も

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iOS・Androidを搭載したモバイルデバイスをブラウザ上で動かせるツールを販売するセキュリティ企業・Corelliumは、Appleから「iOSの正確なコピーを販売している」として訴訟を起こされていました。2021年8月16日には連邦裁判所で裁判が行われる予定でしたが、8月10日にAppleとCorelliumが和解に達し、訴訟が取り下げられたと報じられています。

Apple drops lawsuit against Corellium in confidential settlement – The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2021/08/10/apple-drops-corellium-lawsuit/

Apple settles lawsuit against Corellium as iOS platform dictatorship looks more precarious • The Register
https://www.theregister.com/2021/08/11/apple_corellium_lawsuit/

Apple settles lawsuit against security startup Corellium – The Verge
https://www.theverge.com/2021/8/11/22620014/apple-corellium-security-virtual-iphone-dmca-lawsuit-settled

Corelliumが販売するのはブラウザを介して仮想iPhoneを動かし、実機がなくてもiOSについて深く調べることができるツールです。このツールはセキュリティ研究者がiOSの潜在的なバグを見つけるのに役立つとして、Corelliumは「当社の製品はiOSの正確なコピーであり、脆弱性のテストに最適です」とうたっていました。

ところがAppleはCorelliumの製品が著作権を侵害しているとして、2019年8月15日にCorelliumを相手取って訴訟を起こしました。「Corelliumは発見した脆弱性を販売して利益を得ることを顧客に推奨しています」「健全なセキュリティ研究を妨げるつもりはありませんが、CorelliumのビジネスはApple製品に対する著作権侵害です」と、Appleは主張しています。

AppleがiOSの「完璧なコピー」を販売する会社に対して訴訟を起こす – GIGAZINE


Appleはその後、「Corelliumの製品は著作権者であるAppleの許可を得ずにセキュリティ対策を回避して作成されている」として、Corelliumはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に違反しているとの主張を付け加えました。一方でCorelliumは、仮想iPhoneがセキュリティ研究とアプリ開発をサードパーティーに開放するものであり、AppleはiPhoneをはじめとする自社製品のセキュリティ研究を独占しようとしていると反論していました。

2020年12月にはフロリダ州南部地区地方裁判所が「Corelliumの製品はフェアユースとして適格であり、著作権侵害には当たらない」と判決を下し、著作権侵害についてはAppleが敗訴しました。一方、DMCAについては判決が下されなかったため、AppleとCorelliumの法廷闘争は継続され、2021年8月16日から再び裁判が行われる予定でした。

ところが裁判を翌週に控えた8月10日、突如としてAppleとCorelliumの間で和解が成立し、Appleが訴訟を取り下げました。依然としてCorelliumは仮想iPhoneを販売しているとのことですが、和解の条件については不明です。ワシントン・ポストの問い合わせに対して、Corelliumの共同創設者であるクリストファー・ウェイド氏はコメントを拒否し、Appleからもコメントは得られなかったとのこと。


Ruby on Railsの開発者であるデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン氏は、Appleが和解を選択した背景には「あまりにも多くの訴訟を抱えている」ことがあったと見ています。AppleはCorelliumとの訴訟だけでなく、フォートナイトの開発元であるEpic Gamesとの訴訟や、App StoreやiTunesのコンテンツ購入に関する集団訴訟など、常に複数の訴訟を抱えています。

もちろん、Appleの途方もない財力をもってすれば複数の訴訟を抱えていても資金が尽きる心配はなく、訴訟の相手を買収して解決してしまうことすら可能です。実際に裁判所に提出された文書からは、AppleはCorelliumに対する訴訟を起こす前の2018年に、Corelliumの買収を試みていたこともわかっています。

しかしハンソン氏は、「Appleは全ての訴訟相手と一度に戦うための財政的な資本を持っています。しかし、彼らはそうするための『政治的、あるいは評判の資本』を持っていません」と指摘。多方面での訴訟を抱えることはAppleのイメージを損ない、ただでさえ独占禁止法による規制対象となっている状況がさらに悪化する可能性があります。Appleはこの点に気付いたために慎重さを発揮し、Corelliumとの訴訟を和解に持ち込んだのではないかとハンソン氏は考えているとのこと。

ハンソン氏はAppleが政治や司法の影響を考慮して方針転換したことについて、長期的に見ると有益なのではないかとの見解を示しています。たとえばMicrosoftは1990年代後半~2000年代にかけて、「市場における独占的立場を悪用して競合他社の競争力を損ない、消費者の利益を侵害した」として政治や司法の厳しい追及にさらされました。この際にビル・ゲイツ氏を含む上層部が「このままではMicrosoftがつぶされるかもしれない」と危機感を抱いた結果、Microsoftはより慎重に企業経営を行うようになり、記事作成時点でもMicrosoftは繁栄しています。

「あなたの企業が死ぬ可能性を思い出すことは、ビジネスにとってよいことです。あなたは常に世界中と戦うことはできません。この深い洞察を得た後、Appleはよりよくなるでしょう」と、ハンソン氏は述べました。

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