クジラの死亡が相次ぐ太平洋で一体何が起こっているのか?

GIGAZINE


by Wendy Miller

2万kmという超長距離を回遊するクジラ「コククジラ」の死体が目撃される例が、2018年12月頃から相次いでいます。この理由について、環境問題を専門とする記者のスザンヌ・ラスト氏が解説しています。

Gray whale deaths: How humans and climate change hurt oceans – Los Angeles Times
https://www.latimes.com/projects/gray-whale-deaths-how-humans-climate-change-hurt-oceans/

主に太平洋沿岸部に生息しているコククジラのうち東太平洋に住む個体群は、北極圏からアメリカ・カリフォルニア州沿岸を通り、メキシコの暖かい海域までを往復しています。しかし2018年以降、カリフォルニア州沿岸およびメキシコ湾付近でコククジラの異常な死が報告され始めたことから、ラスト氏は「コククジラの回遊ルートに致命的な変化が訪れたようだ」と述べ、この問題を取り上げています。

2018年12月、メキシコのラグーンのオホ・デ・リュブレで若いメスのコククジラが死んでいるのが発見されました。さらに2019年1月、同じラグーンで3頭のコククジラの死体が発見されます。この月にアメリカ西海岸からメキシコまでの海域で合計12頭が死体となって見つかり、2019年3月には42頭、2019年5月までに合計149頭の死体が確認されたとのこと。

by NOAA Fisheries West Coast

この付近の海域には毎年春にコククジラが出産や子育てのためにやってくるとのことですが、専門家は「これまでに死体は見たことがない」と話します。事態を受け、2019年5月30日にはアメリカ海洋大気庁が「異常な死亡事例」として、問題の調査を行っていると発表しました。

2019年春、専門家はコククジラについて「到着が遅れている」と報告していました。コククジラがカリフォルニア州付近へ到着するのが通常より約2週間遅かったほか、個体のうち4分の1が痩せているように見え、母子のペアが非常に少なかったとのこと。このような兆候は2000年に発生したコククジラの大量死の際も見られたことから、専門家は異常な事例について警鐘を鳴らしていました。

アメリカ海洋大気庁の機関で獣医師として働くデボラ・フォーキア氏によると、コククジラの死亡数は2020年に172頭、2021年で既に92頭と報告されているとのこと。コククジラの死因にはさまざまな要因が考えられます。特にコククジラを含むクジラ全般は騒音に弱く、これが死因の1つとして考えられているとラスト氏は述べます。

コククジラは新しい食料源を求めてか、より内陸に近い海中に出現する傾向にあります。しかし、都市部に近づくことで船のエンジン音などクジラのコミュニケーションが阻害され、最悪の場合は難聴や免疫システムの低下が引き起こされる可能性があるとのこと。

by NOAA Fisheries West Coast

また、コククジラの回遊ルートの北端、北極圏でも変化がみられています。北極海ではコククジラの主要なエサであった甲殻類の数が海水温上昇により減少し、コククジラは餌場を変えつつあります。新しい餌場で得られる食料の栄養価が回遊に十分なほど高いかどうか、いまだ明らかになっていません。

2000年に発生したコククジラの大量死の際、科学者らは「例年よりも寒いため海氷が多く、コククジラが餌場までたどり着けなかった可能性がある。コククジラの個体数が増えすぎた結果、環境収容力に達したのではないか」と推測していました。しかし、近年の異常死は気候条件としては正反対であり、専門家は気候変動が与える影響について調査を進めています。一方で、フォーキア氏は「コククジラに影響を与える要因はさまざまで、直接的な死因を特定するのは困難です」と話します。専門家らは「原因の特定には科学が必要不可欠だ」として調査を進めています。


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