なぜラッコは寒い海中でも体温を保てるのか?

GIGAZINE


恒温動物である哺乳類は外気温が変化しても体温を一定に保つことができますが、空気中より体温が奪われやすい水中に生息する哺乳類にとって、体温を一定に保つことは困難です。中でもラッコは、水生哺乳類の中でも特に体が小さくて熱が逃げやすいにもかかわらず、オホーツク海や北アメリカ沿岸などの寒い海域に生息しています。「ラッコはどうやって寒い海中で体温を保っているのか?」という疑問について、テキサスA&M大学の研究者らが解説しています。

Sea otters demonstrate that there is more to muscle than just movement – it can also bring the heat
https://theconversation.com/sea-otters-demonstrate-that-there-is-more-to-muscle-than-just-movement-it-can-also-bring-the-heat-165804

水は空気よりも速く体温を奪うため、多くの水生哺乳類は断熱のために分厚い脂肪の層を持っていますが、体の小さいラッコには分厚い脂肪がありません。その代わりに、ラッコは1平方インチ(約6.45平方センチメートル)当たり100万本という驚異的な密度の体毛からなる毛皮を持っており、この毛皮に取り込んだ空気の層が断熱材の役割を果たしているとのこと。

この毛皮をメンテナンスするのはかなり大変であり、ラッコが1日に行う活動のうち10%は毛皮の中の空気を維持するための手入れに使われているそうです。なお、ラッコが丁寧に毛繕いをする様子は以下のムービーで見ることができます。

Grooming Otter – YouTube
[embedded content]

しかし、いくら密度の高い毛皮が熱の放出を防いでくれるとはいえ、それだけでラッコが寒い海中で生き残れるわけではありません。ラッコは体温を維持するために体の代謝機能を利用しており、同じくらいの大きさの陸生哺乳類と比較して代謝率は約3倍も高いとのこと。代謝がいいということはエネルギー効率が悪いという意味であり、人間が1日に必要な食物は体重の2%ほどである一方、ラッコは1日に体重の20%以上に当たる食物を摂取しなければなりません。ラッコの食物摂取量を体重70kgの人間に当てはめると、1日に14kg以上の食物が必要となる計算です。

動物が摂取した食物はそのままの形で使うことはできず、まずは消化器官によって脂肪や砂糖などの栄養素に分解されてから血液で運ばれ、体のさまざまな組織の細胞によって吸収されます。そして、細胞内にあるミトコンドリアという小器官が、取り込んだ栄養素を「生体のエネルギー通貨」とも言われるアデノシン三リン酸(ATP)に変換して、このATPをエネルギーにして細胞は仕事を行います。

ミトコンドリアにおいて栄養素がATPに変換されるプロセスでは、ある程度の栄養素がATPに変換されずに熱エネルギーとして発散されており、多くの脊椎動物はわざとATP変換効率を下げて熱を生み出しているとのこと。体内の全ての組織では代謝と共に熱が作られていますが、中でも哺乳類の体重のおよそ30%を占める筋肉は、特に多くのエネルギーを消費して熱を生み出しています。運動すると体が熱くなるのも、筋肉の代謝によって栄養素が熱に変換されているためです。


テキサスA&M大学やアラスカ・サウスイースト大学、モントレーベイ水族館などのチームが行ったラッコの代謝機能に関する研究では、赤ちゃんから大人までさまざまな年齢と大きさのラッコから採取した筋肉サンプルを、酸素消費量が測定できる小さな小部屋に配置し、筋肉組織がどれほどのエネルギーを使用したのかを監視しました。

代謝プロセスを刺激するさまざまな方法を用いて、ミトコンドリアがATP産生に使ったエネルギー量と熱に変換されたエネルギー量を測定したところ、ラッコの筋肉は「とても非効率的」であることが判明。つまり、多くのエネルギーがATPに変換されることなく熱として発散しており、これが寒い海中でラッコが体温を保つために重要な役割を果たしていたというわけです。また、驚くべきことに自分では泳ぐことができない赤ちゃんの筋肉でも、大人と同様の代謝能力を持っていることもわかりました。


研究チームは、「私たちの研究は、筋肉が明らかに単なる動き以上の重要な役割を持っていることを示しています。筋肉は体重の大部分を占めているので、筋肉代謝のわずかな増加でさえ使用するエネルギー量を劇的に増加させることができます」と述べています。

もし、今後の研究で「安全かつ可逆的に安静時の骨格筋代謝量を増加させる方法」が開発されれば、医師は肥満を抑えるために患者が燃焼するカロリー量を増やすことも可能です。反対に「骨格筋代謝量を減少させる方法」が開発されれば、長時間の宇宙旅行などで必要となる食料や資源の量を削減することもできると研究チームは主張しました。


この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ごく一部の魚だけが体温を保つ能力を獲得した理由とは? – GIGAZINE

恐竜には「温かい血」が流れていた可能性が卵の化石から示唆される – GIGAZINE

人間社会で「温度によって生まれてくる子どもの性別が変わる」場合に何が起こり得るのか? – GIGAZINE

クジラやイルカは溺れずにどうやって眠るのか? – GIGAZINE

魚やその他の海洋動物が溺れることはあるのか? – GIGAZINE

クマの「冬眠しても筋肉を維持できるメカニズム」が人間の筋萎縮を防ぐカギとなる可能性 – GIGAZINE

・関連コンテンツ

2022年01月22日 12時00分00秒 in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.

Source

タイトルとURLをコピーしました