「コロナ禍中のCM制作、その苦労を理解していない」:広告主と代理店幹部に頭を悩ます、あるクルーの告白

DIGIDAY

コロナ禍のあいだもコマーシャルの制作は続けられたが、撮影現場のスタッフたちにとって、それは楽な作業ではなかった。あるフリーランスの撮影クルーは、あらゆる困難を排して制作を進める難しさを「まるで劇中劇のようだ」と表現している。広告主やエージェンシーの幹部たちが再び撮影現場に足を運びはじめたいま、彼らに安全な現場復帰を説く役目は、もっぱらクルーたちに委ねられている。

匿名を条件に本音を語ってもらう「告白」シリーズ。本稿では、撮影現場に戻ってくるブランドやエージェンシー幹部に安全対策を徹底させる難しさや、彼らに理解してもらいたいことについて、この撮影クルーに語ってもらった。

なお、読みやすさを考慮して、内容には若干の編集を加えている。

——現在の制作現場の様子は?

オンライン化はさらに進んでいる。それは良いことだ。また、新型コロナウイルスの感染防止対策も徹底されている。実は最近、非組合員のクルーとSAG(米国俳優組合)所属のタレントが参加する撮影を終えたばかりだ。全員が検査を受けて、ゾーニングとルールをしっかり守っていた。しかし非組合員による制作現場では、「ワクチン接種を受けていれば、もう検査は必要ない。閉鎖空間で作業する場合はマスクを着用するが、屋外なら気にする必要はない」というところもあるし、少なくともCMの撮影現場はどこも非常に混雑している。

——この1年あまり、エージェンシーの幹部がCMの撮影現場に出入りすることはあったか?

前述の案件では、エージェンシーの幹部たちも撮影現場に来ていた。個人的には、彼らを現場で見かけるのはこの1年ほどなかったので、暗いトンネルの向こうに光が見えてきたようにも思うが、デルタ株の懸念もある。ワクチンを接種していても、屋内の作業ではマスクを着用するようにいわれる。我々はまだコロナ危機を脱したわけではない。ただ、CMの制作量は確実に増加しているのは確かだ。

——ブランドやエージェンシーの幹部の現場復帰についてどう思うか?

今回の仕事で一番苦慮したのは、遠方から撮影現場に来るというのに、前もって検査を受けることに気が回らない人々への対応だった。誰もがコンピュータ上での作業に慣れきっている。現場に来るなら、実際に腰を上げて、飛行機を予約し、出発前に検査を受け、撮影前にもう一度検査を受けなければならないのに、そこまで気が回っていないのだ。撮影クルーをはじめ、制作チームはパンデミック中でもこうしたことに気を配る必要があった。しかし、クライアントやエージェンシーは違う。だから心構えができていない。

——なんとも歯がゆいことだ。

まったくだ。「検査を受けてきた」といっても、それがPCR検査ではないこともある。ほかの人たち同様、「決められた検査を決められた通りに受けてください」とはっきりいわなければならない。抗原検査ではだめなのだと。

——エージェンシーやブランド側の人間が、必要な備えもなく撮影現場に戻ってくるのはなぜだと思うか?

双方に思い込みがあるのだと思う。こちらはこちらで「彼らは万事心得ているはずだ」と思い込む。一方彼らは、撮影前の検査をなど必要ないと思い込む。制作現場では往々にして起こることかもしれない。彼らには、何から何まで詳しく説明するしかない。しかし、いったん撮影に入れば、物事は急ピッチで動く。締め切り間近であればなおさらだ。クライアントに「現場入りに備えて検査を受けてくれ」と念押ししている時間などないのだが、クライアントのなかには、状況を理解していない人たちもいる。なにしろ、彼らはしばらく撮影現場に来ていない。人によっては、1年半も現場から足が遠のいている。これは仕方のないことかもしれないが、私としては、この状況が少しずつでも解消されるのを願っている。

——撮影現場に復帰する際に、知っておいてほしいことや、配慮してほしいことはあるか?

事の重大さを意識してほしい。私たちは皆、決まりを守ろうとしている。スタッフの誰にも感染してほしくない。現場では皆、手洗いを怠らず、ソーシャルディスタンスを守っている。自動車のシートを徹底的に消毒するスタッフもいる。トイレは必ずひとりで使うし、ゾーニングやリストバンド、役者用のアクリル板も用意しなければならない。そんななか、クライアントのなかには撮影現場でマスクを着けない人もいる。彼らはCMひとつを作るのに、現場の人間がどれだけ苦労をしているか、知るよしもない。

[原文:‘You haven’t seen the great pains’: Confessions of a commercial crew member on the headache of execs returning to set

KRISTINA MONLLOS(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)

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