「インハウス体制に必要なのは柔軟性。その時々で最適解を出し続けること」:アタラ 中川雄大氏 ✕ オーリーズ 足立誠愛氏

DIGIDAY

Google 広告やFacebook広告に代表される運用型広告のインハウス化が、ここ数年、広がりを見せている。だが、予想だにしない内的・外的要因によって、試み自体が頓挫してしまう広告主も少なくない。

では、その明暗を分けるポイントは何か? それは「変化を前提とした体制づくり」を行っているかどうかだ。というのも、そもそもインハウス化は、自社のビジネス価値を最大化するための手段であり、取り組みには期間や労力を要する。また、はじめることの難しさに加えて、それ以上に維持することの難しさもある。先々起こり得る市場の変化や、担当者の異動・退職の可能性にも配慮した体制が求められるのだ。

こうした主張を以前から展開しているのが、デジタルマーケティングのインハウス化支援を行うアタラだ。同社でストラテジックビジネスリードを務める中川雄大氏は「10年近く業界を見てきたが、インハウス体制の継続的な実現には、支援会社の柔軟なサポートが不可欠」と語る。

また、2019年に同社と資本業務提携を結んだ、広告運用に強みを持つエージェンシー、オーリーズの取締役副社長、足立誠愛氏も次のように述べる。「インハウス化のゴールは単なる業務の内製化ではない。広告主が主体的に広告運用に関わりながら、変化に適応していくための組織能力を持つことだ」。

アタラとオーリーズが2021年12月に共同提供を開始した「伴走型インハウス支援サービス」は、まさにこうした課題観のもと生まれた。同サービスの強みは、網羅性と柔軟性。広告主が置かれているさまざまな状況に応じて、最適な打ち手を提供できるという。

その新サービスの強みとインハウス化成功の秘訣を、両氏に聞いた。

インハウスブームの背景

DIGIDAY(以下、DD) ここ数年広がりを見せているデジタルマーケティングのインハウス化ですが、どのような背景があるのでしょうか。

中川雄大氏(以下、中川) 背景を語るうえで欠かせないのが、運用型広告の出現とウォールドガーデンの台頭だと思っています。まずは、それらのプラットフォームの開発思想から説明させてください。

足立誠愛氏(以下、足立) 重要なポイントですね。その2点はインハウス体制の広がりに大きな影響を与えています。

中川 おっしゃる通りです。というのも、多くの運用型広告はセルフサーブ、つまり「広告主が自分たちの手で運用するもの」、あるいは「広告主が将来的に自分たちの手で運用できるようにするもの」という開発思想で設計されています。これはGoogleやFacebookに限らず、その他の運用型広告も大半がセルフサーブ型でサービスが提供されています。

中川雄大/アタラ合同会社ストラテジックビジネスリード/チーフコンサルタント。
IT企業数社でハード/ソフトウェアのエンタープライズセールスを経験した後、Facebook Japanのアカウントマネージャーを務め、キャリアの前半はさまざまな業種・規模の広告主を担当し、後半は広告代理店を支援するパートナープログラムの専任に。現在はストラテジックビジネスリードとしてパートナービジネスの統括と、アタラ全事業の事業戦略、商品・サービス内容の策定に携わる。チーフコンサルタントとしての活動も継続しており、運用型広告全般のアカウントマネジメントや広告代理店へのトレーニング、広告主へのインハウス体制の構築支援、デジタルマーケティング全体の戦略立案など幅広いコンサルテーションを提供している。

DD なるほど。だとすると、多くの広告主が運用型広告を活用する昨今、デジタルマーケティングのインハウス化が広がりを見せるのは、ある意味必然ともいえそうです。

中川 はい。実際、モバイルシフトが叫ばれ、運用型広告の存在が高まった2016年から2017年ころには、米国を中心に、インハウス化の大きな波が業界に押し寄せました。
(出典:https://www.iab.com/wp-content/uploads/2018/05/IAB_Programmatic-In-Housing-Whitepaper_v5.pdf

足立 当時大きな存在感を示していたのは、グローバルではGoogleとFacebook。最近ではこれにAmazonが加わり、2021年時点で、中国を除く市場において、この3社で世界のデジタル広告費の8割以上を占めていると報告されています。さまざまなプレイヤーがシェアの獲得を狙うも、彼らの存在感は強まるばかりです。
(出典:https://www.iab.com/news/digital-ad-revenues-grow-19-year-year-first-half-2016/

中川 はい。そしてこうした状況は、広告主に「専門性の強化」と「プロセスの圧縮(=効率化)」を促しました。

ここでいう専門性とは、Google 広告や、Facebook(インスタグラムなどを含む)広告の成果改善を目的とした、両プラットフォームをハックするためのあらゆる施策を指します。

専門性を強化するということは、細部にまでこだわってアカウントを設計し、優先度を低く設定していた部分も突き詰めて運用することになりますので、タスクは累乗で増えていきます。その結果、広告効果が改善すれば、予算が増えてアカウントの規模も大きくなる。広告成果に満足できているあいだは良いのですが、より良い成果を求めたり、あるいは改善に限界が見えはじめたりすると、この肥大化した業務はしだいに「コスト」として認識されはじめます。

こうした状況でエージェンシーやクリエイティブ制作、開発といった各分野のパートナーを介していては、単純な合意形成にもより多くの時間がかかってしまいます。そこで、肥大化した広告運用プロセスを圧縮するために、インハウス化が業務効率化のソリューションとして注目されるようになったといえます。

ところが、いざインハウス化へ向けて移行がはじまると、計画段階では気が付けなかった死角が課題として顕在化してきます。たとえば、要件に合致する人材の採用や専門的な教育の提供、定着の難しさやキャリアの支援、繰り返し行われる広告製品のアップデートへの対応、各種ツールベンダーとの直接契約など、これまでエージェンシーが負担してきたものが、インハウス体制を継続するうえでの重大な課題として浮き彫りになったのです。これらの課題は、とても「コスト削減」という旗の下だけでは向き合いきれない難しさがあります。

インハウス化を阻む要因

DD そのときに浮き彫りとなった課題は、現在においても変わらないのでしょうか。

中川 そうですね。我々アタラもオーリーズさんも、多くの広告主を支援する中で、インハウス体制を「継続する難しさ」を、いまでも痛感しています。

足立 これからインハウス化に取り組む広告主には見えていなくて、私たちに見えていることがあるとすれば、それは「続けることの難しさ」だと思います。予想もしない出来事が、インハウス体制に変化の圧力をかけてきます。

たとえば、担当者の異動や休職・退職、インハウス化を推進していた重要人物の離職による方針転換、などがあります。また、外部要因も見逃せません。あるクライアントでは、自社が買収されたことを契機に大きく方針転換することになりました。インハウス化のために動き出してから、わずか2年後のことです。また、昨今のプライバシー保護のトレンドも体制変化の圧力になり得ます。

さまざまなケースを目にしてきましたが、これらは決して特殊なものではなく、どの企業でも発生し得るものです。中には、インハウス体制を完全に諦めざるを得ないケースもありましたが、その多くは、変化によって生じた特定の課題を解決できれば、形を変えてインハウス体制を継続することができました。しかし、それには我々のような支援会社による柔軟なサポートが不可欠です。

足立誠愛/株式会社オーリーズ取締役副社長。
在学時に株式会社ワークスアプリケーションズのインターンシップに参加し、最高ランクの評価を獲得。大学卒業後、同社に入社。ERPパッケージ「COMPANY」導入・保守運用部門のアカウントマネージャーとして、クライアントの情報投資効率の向上に邁進。2013年より株式会社オーリーズの取締役副社長に就任。「アジャイルマーケティング・エージェンシー」をビジョンに掲げ、マーケティングや組織にアジリティをもたらすことを目指して取り組んでいる。

中川 このような経験を経て、私たちはインハウスのゴールを「内製か、外部委託か」という二者択一の発想ではなく、「広告主が主体的に広告運用に関わりながら、環境変化に適応できる組織能力を持つこと」と捉えなおすことで、インハウス化の成功確率を高めることができるのではないか、と考えるようになりました。

こうした背景から、「持続可能なインハウス支援」というコンセプトで、柔軟性の高いインハウス体制の構築を支える後方・側面支援を、きちんとした形で実現できるように、先日新たなサービスの共同提供を開始しました。

網羅性・柔軟性の高さが強み

DD なるほど。では、その新サービスにはどのような強みがあるのでしょうか。

足立 ひと言でいうと、インハウス化に必要な業務に対するサポートの網羅性、柔軟性の高さです。インハウス体制の構築には、準備期、切替期、改善・維持期などさまざまなフェーズがありますが、それぞれ課題の性質が明確に異なります。我々はそれらを想定したサービス設計をしているので、状況に応じて必要な支援を提供することができます。

たとえば準備期だと、担当者の広告運用トレーニングや、一時的なリソース不足を補うための作業代行サポートなどのニーズがあります。一方、改善期では、運用内容に対する客観的な分析やアドバイス、データの整理や活用、広告効果計測の環境づくりといった、通常の運用業務以外のさまざまな課題をサポートするニーズがあります。

想定されるインハウス体制のグラデーション(クリックで拡大)

インハウス体制で重要なのは、状況に応じて広告主自らが柔軟に変化し続け、状況に応じて最適解を出し続けること。ですので我々は、フルスタックの支援のみならず、たとえば一時的なアカウントの運用代行など、部分的な支援も行っています。

中川 内製か外部委託か、という発想だと、その狭間に落ちてしまうような課題が少なくありません。ちょっとした躓きでインハウスを諦めたりしてしまわないように、また、その時々によって変わる理想状態にうまく適用できるようにサービスを設計しています。

このカスタマイズ性の高さも、新サービスの特徴のひとつです。クライアントの目的や課題に応じて必要な打ち手を選択し、自由に組み合わせることができるメニューをご用意しています。クライアントごとの課題が似ていたとしても、ケイパビリティはそれぞれ異なります。インハウス支援において、パッケージ化されたサービスで支援するのは無理があると考えています。

足立 加えて、スコープ定義の知見があることも強みです。支援会社の立場から見たインハウス化の難しさは、プロジェクトの成否がクライアントのリソースや環境に大きく依存するという点です。我々オーリーズとアタラさんは、数多くの支援経験を通じて、「この課題には、このアプローチを、これくらいの工数で提供すべき」、あるいは「これぐらいの工数を用意していただくべき」というのが分かっています。フェーズごとの課題の解像度が高いことが、私たちの強みだと考えています。

そこは、インハウス体制の構築を10年以上支援されてきたアタラさんやオーリーズだからこそ、なせる業といえます。

新サービスの概要図(クリックで拡大)

事業価値を最大化するためのインハウス化

DD わかりました。では最後に、インハウス化成功の鍵をひとつ挙げるとしたら何でしょうか。

足立 一番は、これまで申し上げてきたとおり「変化を前提にした体制づくり」を目指すことです。加えてもうひとつ挙げるとしたら、インハンス化の目的に「コスト削減以外の合理的な理由があるかどうか」があると思います。

実際、思うようにインハウス化が進まない広告主に共通するのが、短期的なコスト削減を第一目的にしているという点があります。ほとんどのインハウスプロジェクトは、コスト削減が目的のひとつに含まれます。もちろんそれは重要なことですが、それ「だけ」がインハウス化の目的だと、うまくいかない可能性が高いです。

その理由は、そのコストが「現在の状態」に対してのみ算出されがちだからです。広告プラットフォームは日進月歩で進化していますし、関連する業務も常に変化にさらされています。「現状維持は後退である」なんて言われたりもしますが、変化の激しい広告運用業務においても同じことがいえます。

中川 つまり、「いま今この瞬間の成果を出すための運用コスト」は算出できても、来年のコストは分かりません。広告主の内部情勢もさまざまな事情で変化するでしょうし、外部環境も刻一刻と変化しています。広告運用の業務は、はっきりとした見通しを立てられるほど単純な仕事ではないのです。

足立 逆に、うまくいっているところについて考えてみると、やはりコスト削減以外の合理的な理由があるように思います。

例を挙げると、「組織が高いグロースハック能力を有しているケース」があります。メディアバイイングとクリエイティブの迅速・柔軟な連携が、事業の競争力になっているようなケースですね。Webサービスが事業コアになっている企業や、D2C企業などに多いです。

自社に高いグロースハック能力がある場合、改善スピードの低下による損失が相対的に大きくなるので、自社で広告運用の作業コストを負担してでもインハウス化する動機が生まれます。煎じ詰めればすべてはROIに行きつきますが、このような、単純な「外注費と人件費の比較」では測れない部分に、インハウス化すべき理由があるかどうかが成功のポイントになるかと思います。

中川 そうですね。たとえばアタラでは、旅行代理店の日本旅行さまと10年間のお付き合いをさせていただいているのですが、我々が支援を開始した当初、クライアントの方針としてはコスト削減を前提にしながらも、「社内の人間が有する、旅行に関する豊富な知識や自社データを、広告のクリエイティブやターゲティングに活かしていく」というコンセプトでインハウス化を推進したことで、結果としてオンラインの販売額が+250%まで成長するという成果を上げました。

インハウス化を推進する過程では、コスト削減は関係者で合意形成を得るための重要な目的のひとつです。この視点は絶対に外せません。しかし、動機がそれだけになってしまうと、短期目線になり、インハウスの価値の曖昧さや、未来の不確実性を受け入れづらくなります。それが、インハウス体制の継続的な成功を妨げるリスクになります。

足立 そもそもインハウス化というのは、自分たちの事業の価値を最大化するための手段である。その本質に常に立ち返ることが大事なのだと、我々は痛感しています。

Sponsored by アタラ合同会社

Written by DIGIDAY Brand STUDIO(小野和哉)
Photo by 渡部幸和

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