Twitch がストリーマーやコミュニティを放棄しつつある理由:広告事業が主体のいま、両者は「お荷物」に

DIGIDAY

Twitchで何か異変が起きていることはもはや誰の目にも明らかだ。3月後半の2週間で、TwitchはCEO1人従業員400人を失った。ニュースの見出しを信じるならば、Twitchは「Twitchらしさ」を失い、「魂をかけた闘い」にも敗北しつつある。

この騒動のただ中で、かつてTwitch最大の貴重な資産といわれたストリーミングコミュニティの中核拠点としての役割も失われようとしている。コロナ禍で大きく成長したTwitchは、経営資源の多くを広告事業に投入する反面、コミュニティ構築の努力は手薄になった。ストリーマーたちは、Twitchの事業拡大に対する自分たちの発言力の低下を感じはじめている。

かつてTwitchコミュニティがあった場所に、いまは性質の異なるいくつものストリーマーコミュニティが散在している。Twitchの創設に関与した3人を含む、ストリーマー、タレントマネジャー、Twitchの元スタッフらはこう口をそろえる。クリエイターはこの機にコンテンツの配信チャネルを多角化(そして収益化)すればよいし、YouTubeやKick(キック)をはじめ、競合プラットフォームにとっても市場シェアを伸ばす好機到来だろう、と。

Twitchの広報は本記事の内容についてはコメントを差し控えたが、退任したエメット・シアー氏の在任中の功績を称えるダン・クランシー新CEOの言葉を紹介した。

成長痛

Twitch本社で起きた最近の騒動以前に、Twitchは1年にわたる成長痛を経験している。

Twitchはコロナ禍を背景に未曾有の成長を遂げ、その勢いに乗って2021年と2022年に事業規模を拡大した。しかし、その過程でおこなわれた会社の方針変更に、クリエイターたちは反対の声を上げている。たとえば、トップストリーマーの収益分配率に関しては、クリエイターに有利な70/30の分配率が50/50に引き下げられた。さらに、女性とマイノリティのストリーマーを標的とした大規模なボット攻撃が発生した際も、Twitchの対応は不十分だと非難された。

※Twitchはその後、安全対策とコンテンツモデレーションの手続きを全面的に見直した。その結果、こうしたヘイトレイドの頻度は低下したと多くのストリーマーが証言している。

一部のストリーマーにとって、特に収益分配率の変更は、Twitchがもはやクリエイターと協調するプラットフォームではなくなったことの証となった。

それでも、Twitchはもっとも多くのストリーマーが利用するプラットフォームであり、もっとも収益性の高いライブストリーミングプラットフォームでもある。しかし、今回の騒動を通じて、ストリーマーたちは「単にTwitchを利用しているだけ」という感情を強くした。逆に、もっと大きなものを共に作るという連帯感のようなものは希薄になった。

広告事業へのフォーカスがコミュニティとの距離に

創設当初、Twitchのスタッフはストリーマーとのライブチャットにたびたび参加していた。ほとんどのストリーマーに専任のアカウントマネジャーがついて、両者は密接に連携していた。昨今では、多くのストリーマー、特に中小のストリーマーはTwitchのスタッフと日常的にやりとりすることがなくなっている。

TwitchストリーマーのGappyVは匿名で取材に応じ、こう述べた。「ほとんどの人は、Twitchの経営陣の名前を挙げることすらできないだろう」。

ストリーマーたちはTwitchに対する連帯感が希薄になるにつれて、広告掲載への圧力をますます強く感じるようになったという。そして、自分たちが大切な人材ではなく、収益を生み出す機械の歯車のように感じるのだという。Twitchストリーマーのショーン・ボーレン氏はこう話す。「収益分配率が50/50に変更されたとき、すぐにこう思った。なるほど、広告は全員参加というわけだ」。

Twitchとて金を稼ぐ必要があり、広告はそのための有効な手段であることが分かっている。しかし現時点では、多くのストリーマーの目には広告事業への肩入れが利益至上主義への傾斜と映る。利益のためならコミュニティとの友好関係を犠牲にすることも厭わないと見えるのだ。

Twitchの広告重視がユーザーとの関係に問題を生じるのはおそらく不可避だろう。ソーシャルメディアであれエンターテインメントプラットフォームであれ、より効果的にマネタイズしようと思えば必ず起こることだ。NetflixTikTokもそれぞれの広告事業を推し進めるなかで、同様のプレッシャーを感じているに違いない。広告事業を拡大するなら、広告主とユーザーエクスペリエンスの両立は避けては通れない問題だ。事業拡大を推進するTwitchにとって、収益創出戦略において広告が重要な位置を占めるようになるのはもはや必然だった。

ユーザーの忠誠心はTwitchからストリーマーに

Twitchのスタッフとユーザーの距離が開くに伴い、Twitchコミュニティの性質も変容しつつある。かつては、ユーザーたちはTwitchコミュニティの一員であることを自覚していたし、その忠誠心は個々のストリーマーよりもむしろTwitchというプラットフォームに向けられた。

たとえば、マイクロソフトのストリーミングプラットフォーム「ミクサー(Mixer)」は、2019年にTwitchのトップストリーマーとして知られるニンジャおよびシュラウドと独占契約を結んだが、大量の視聴者をミクサーに呼び込むことはできなかった。彼らのオーディエンスがTwitchから離れることはなく、別のTwitchストリーマーに関心が移るだけだった。

2022年には、状況は一変していた。この年、Twitchのトップストリーマーのルドウィグ・アーグレンはYouTubeと独占契約を結んだ。かつて、シュラウドはミクサーへの移動によって視聴者を大きく減らしたが、アーグレンの視聴者減はシュラウドよりもはるかに少なかった。応援するストリーマーが別のプラットフォームに移動するなら、自分も喜んでついていくというオーディエンスが2019年よりも増えていることの証左かもしれない。

Twitchの創設の関与したひとりで、2022年9月までクリエイター開発の責任者を務めていたマーカス・グレアム氏はこう説明する。「Twitchのコミュニティはいまも健在だが、以前と大きく違うのは、個々のクリエイターが自分自身のコミュニティを形成するようになっていることだ。欠けているものがあるとすれば、それはコミュニティとTwitch自体のつながりだ」。

異なる種類の成長

ストリーマーの懸念とは裏腹に、Twitchはここ数年、間違いなく繁栄している。エメット・シアー前CEOの在任期間は12年におよんだ。同氏はTwitchのスタートアップ時代からその先頭に立ち、2014年のAmazonによる9億7000万ドルの買収に導いた。2015年現在、Twitchのアクティブユーザーはおよそ700万人だった。今日、その数は3000万人の大台に近づいている。

グレアム氏はこう話す。「ここまで来るのがどれほど大変か、誰も理解しようとしない。たとえば、(Twitchの前身である)ジャスティン(Justin.tv)は、事業拡大とインラフにかかるコストがゆえに幾度となく存亡の機に立たされた。そして、それはとても残念なことだ。技術的な観点からすれば、このネットワーク、それは現在のTwitchであり、Amazon IVS(インタラクティブ動画サービス)であるのだが、インターネットが過去10年間に経験したもののなかで、もっとも感動的な功績のひとつなのだから」。

しかし、多くのストリーマーによると、Twitchはこの技術的進歩に乗じて広告商品の開発に邁進し、クリエイターとの親密な対話からは身を引いてしまったという。

「Twitchクリップス(Twitch Clips)」などのツールに言及する関係者もいる。クリップスはライブ配信動画の一部を短く切り取ってTwitchに保存する機能だ。Twitchの従業員が米DIGIDAYに匿名で語ったところによると、ユーザーがその日のトップクリップをスクロールするのに多くの時間を費やしていることが分かり、Twitchは広告付きのライブ配信動画にこのトラフィックを誘導するため、新しいクリップの発見を積極的に難しくしたという。また、Twitchで動画を配信するほかのストリーマーたちも、「TikTokやYouTubeと異なり、Twitchは有機的な成長を促すツールを提供してくれない」と述べている。

こうした指摘について、Twitchはまたしてもコメントを拒否した。

キネティックグループ(The Kinetic Group)の創業者で、タレントマネジャーでもあるジャスティン・ミクラ氏はこう話す。「彼らはまったく投資をしていないわけではない。ただ、彼らが行った投資が幅広い機会に行き渡っていないということだ」。

意識的な方向転換

Twitchのコミュニティ切り離しは、コミュニティを作ることから、ライブ配信に必要な基本的なツールやサービスを運営することに、その軸足を移したことを示している。複数の元従業員の話では、もはやTwitchは、ライブ配信者のコミュニティでみんなが集まる「街の広場」的な存在であることを望んでいない。むしろ、AWSのようなインフラプラットフォームでよいと考えている。

Amazonに買収された2014年頃のこと、ゲーマーへの浸透を図るため、Twitchはゲームコミュニティからストリーマーやコミュニティのリーダーを引き抜いて「成長チーム」を編成した。

こうしたコミュニティのエキスパートには、たとえば任天堂のファン、あるいはスピードランナーズやカウンターストライクのプレイヤーなど、それぞれ特定グループの獲得が託された。コミュニティを作り、Twitchの活用、さらにいうならTwitchへの依存を推進するという明確な目的のために、彼らには自由に使える潤沢な予算が与えられた。

2014年から2019年までTwitchの成長チームに在籍したアリアン・ファティエ氏はこう話す。「ゲーマーとの人脈作りにかけては、彼らは最高の人材だった。ゲームのコミュニティでは、仕事の人脈は概して個人的な友人関係を通じて築かれる。コミュニティに通じた人々を雇用して、そのコミュニティと正しく対話すること、それが成長チームの基本的なコンセプトだった」。

成長チームと並行して、たとえば人気ストリーマーが参加するオンライントーナメントの「Twitchライバルズ(Twitch Rivals)」など、ユーザーやタレントをTwitchにつなぎ止めるためのオリジナルコンテンツへの投資もおこなった。

しかし、コミュニティの忠誠心は必ずしも収益を生まない。かつてTwitchの規模拡大に貢献したコミュニティ中心主義の事業部門が、広告事業に軸足を移すや、どちらかといえばお荷物のようになってしまった。

実際、2022年に続き、この3月20日に発表された人員削減計画でも、コミュニティの成長とオリジナルコンテンツを担当する事業部門がもっとも大きな打撃を受けた。成長チームはとうの昔に解散している。最後のスタッフがTwitchを離職したのは2021年のことだ。Twitchライバルズは存続こそしているのものの、その目的は広告在庫の確保とブランドパートナーシップであり、Twitchとコミュニティの絆(きずな)作りではもはやない。複数の元スタッフによると、Twitchのプロダクト開発のほとんどは、いまや広告事業を中心におこなわれているという。

「よくある組織再編だ」とファティエ氏は話す。「そして、コミュニティ関連の取り組みはもはや重要ではないようだ」。

そしてTwitchの現在位置

Twitchがコミュニティの拠点からライブ配信のユーティリティ企業へと方向転換したことに、ストリーマーや元スタッフは非難の声をあげるが、そのユーザー数はほぼ毎年増えつづけている。現時点で、Twitchはライブストリーミングの「ホーム」として確固たる地位を築いている。もちろん、ストリーマーたちにとって居心地の良いホームかどうかは別の話だが。

「我々は会社にとって絶対不可欠な仕事をしていたのか。会社に利益をもたらす部門だったのか。パートナーたちとの窓口的な役割だったのか。そう問われれば、必ずしもそうではない」。Twitchの創設に関与したひとりで、コンテンツマーケティングの責任者を務めていたベン・ゴールドハバー氏はそう振り返る。「我々はコミュニティとの関係を維持するためのチームだった。それが我々の仕事のすべてだったし、そのためのチームだった。そしてその仕事はもはや重要ではないと判断されたのだ」。

TwitchとTwitchのクリエイターにとって、パンドラの箱を閉じることはもはやできない。Twitchの初期のアイデンティティを定義した創業者たちも、創業に関与した人々も、皆Twitchを去った。そして、ストリーミングコミュニティに対する絆も手綱も失いながら、Twitchは単に大きすぎて潰せないだけなのかもしれない。

「後からなら何とでもいえるが、そういうカルチャーを育て、持ちつづけることは可能だと思う」とグレアム氏はいう。「とはいえ、その実現には並々ならぬ努力が必要だ」。

[原文:How Twitch lost its grip on, and way with, the streaming community

Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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