英国ファッション協会 が投資、支援を必要とする理由

DIGIDAY

ブレグジットと生活費の高騰により、英国のデザイナーにとって材料費や生産費、輸送費が値上がりしている。現在、ロンドン・ファッションウィークと英国におけるデザイン人材を支援する非営利団体、英国ファッション協会(British Fashion Council、BFC)が援助を呼びかけている。同団体はロンドン・ファッションウィーク期間中の一連の講演やプロモーションを通じて、ロンドンがもっともクリエイティブなファッションウィークの中心地であり続けるために、政府や国際的なファッションコミュニティからの支援と投資を求めていた。

ロンドン・ファッションウィークへの注目を高めるために

英国から輸出されるハイファッションブランドの大部分を占めているのは、バーバリー(Burberry)やステラ・マッカートニー(Stella McCartney)といったブランドだが、アルワリア(Ahluwalia)やネンシ・ドジョカ(Nensi Dojaka)などの地元の小規模なブランドへの関心が高まりつつある。「世界4大コレクションのうち、ロンドンがやや小規模なファッションウィークにとどまっているのは、国際的な英国ファッションやラグジュアリーブランドの輸出が多くないからだ。実際、我々の重要な輸出はバーバリだ」。そう語ったのは、ラグジュアリーファッションブランド、ロクサンダ(Roksanda)のエグゼクティブディレクター、ジェイミー・ギル氏だ。BFCの議長を勤める彼は、非営利のインキュベーションプラットフォームであるジ・アウトサイダーズ・パースペクティブ(The Outsiders Perspective)の創業者でもある。

「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、ヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)、ステラ・マッカートニーを重要な英国ブランドだと考えているが、これらのブランドはここロンドンではショーを開催していない」と彼は言う。マックイーン氏とマッカートニー氏は今シーズンはパリでショーを行っているが、ベッカム氏はまだ秋のショーを発表していない。「パリ、ミラノ、ニューヨークには国際的な大手ブランドが参加し、世界の業界からの注目が保証されている。ロンドン・ファッションウィークが人々の注目を集めて我々が抱える才能に焦点を当てるには、いまだに皆からの賛同を得なくてはならない」。

不況の中で安定した売上を目指すブランド

エネルギーや生活費の危機、さらにはブレグジットによるコスト上昇で、デザイナーは厳しい1年に直面している。「ブランドがここで繁栄するには、つねにできる限りのサポートが必要だ。不況の圧力で消費者の意欲は低下しているが、今後も英国を訪れてお金を落としたいと(海外の)消費者に思ってもらうにはどうしたらよいのかが問題だ」とギル氏は述べた。「この(経済)情勢の鈍化は、ブランドが商品を供給する上での物流の事務処理の現実に加えて、英国ファッションにとって真の課題となるだろう」。

ボラ・アクス(Bora Aksu)やKWKバイ・ケイ・クウォック(KWK by Kay Kwok)など、2月17日にロンドン・ファッションウィークでショーを行ったブランドは、コレクションのプレゼンテーションではアクセサリーに重点を置いた。この製品カテゴリーは、不況でもより安定した売上をもたらす傾向がある。ボラ・アクスはコスチュームヘアアクセサリー、KWKはジュエリーにスポットを当てていた。両ブランドともD2Cで販売を行う予定だ。バッグやチャーム、ヘアアクセサリーなどは、プレタポルテにくらべて、より幅広い層の顧客が入手できることが多い。

ブレグジットによる弊害

英国政府は2021年1月に英国での免税ショッピングに終止符を打ち、ブレグジット後も英国のデザイナーに対する財政支援も教育支援も行っていない。政府からの支援がない状態で、業界はクリエイティブなエネルギーを維持するのに苦労している。「英国に拠点を置くすべてのブランドにとって、物事がより困難になり、時間や金がさらにかかるようになった主な要因は、いまだにブレグジットだ」と述べたのは、自身の名を冠した創業5年目のブランドのデザイナー、パトリック・マクダウェル氏だ。「生活費危機とエネルギー危機は、ブランドとしての我々にも影響を及ぼしている。プリントや生地がより高価になったのもそのひとつだ」。今のところ、彼のブランドはまだ値上げをしていない。

パトリック・マクダウェル(Patrick McDowell)やアンシエラ(Anciela)のようにサステナビリティを重視するブランドでは、サプライチェーンと緊密に連携していたおかげで、ブレグジットのために増えてしまった複雑な手続きが引き起こしているいくつかの問題が軽減されている。ブレグジットで英国はシェンゲン圏ではなくなったため、国際的な課税の対象となる。そのため、欧州の顧客から材料を輸送し、欧州の顧客に販売する際、英国のブランドはいまでは多くの事務処理を行い、高い輸送費を請求して、顧客に国際税を払わなくてはならなくなった。「幸いなことに、私は地元で生産しており、サプライチェーンもシンプルなので、ブレグジットでそれほど大きな影響は受けなかった」とファッションブランドのアンシエラの創業者ジェニファー・ドロゲット氏は述べた。「だが、欧州の顧客に商品を送るのはかなり難しくなり、米国に発送するよりも時間がかかることがよくある。また、時には欧州から調達することもあるデッドストックの生地を使用しているので、いまでは調達がより面倒になっている」。

若手デザイナーを支援するイニシアチブ

英国ファッション協会(BFC)が最優先に考えているのは、政府からの資金援助と認知の必要性だ。「政府との対話は続いている。我々は政府からのより大きな投資と業界の認知が必要なのだ」とBFC会長デヴィッド・ペムセル氏は言う。「国際貿易や免税ショッピングをさらに支援する必要があるし、二酸化炭素排出量を減らすために、業界として我々が直面している課題に取り組まなくてはならない」。

2020年のUKFTの業界の統計および分析概要(UKFT’s Compendium of Industry Statistics and Analysis for 2020)によると、ファッションおよびテキスタイル産業は英国経済に約200億ポンド(約3.3兆円)の貢献をしている。

ロンドンで新たな才能を生み出す場として成功しているのが、BFCが資金を提供し、若手デザイナーの指導やパートナーシップ、プロモーションを支援するニュージェン(NewGen)である。このイニシアチブは今年30周年を迎え、それを祝してデザインミュージアム(Design Museum)にてアレキサンダー・マックイーンの特別展を開催する予定だ。入場料は、将来のニュージェンのデザイナーを支援するために使われる。このイニシアチブは、ロンドンがクリエイティブのハブとして、またサステナブルファッションのリーダーとして確固たる地位を築く上で重要な役割を担ってきたが、コストの上昇により財政的に厳しい状況に置かれている。

ニュージェンは発足以来、アレキサンダー・マックイーン、キム・ジョーンズ(Kim Jones)、JWアンダーソン(JW Anderson)、ジャイルズ(Giles)、アーデム (Erdem)、クリストファー・ケイン(Christopher Kane)、ロクサンダ、シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)、モリー・ゴダード(Molly Goddard)、リチャード・クイン(Richard Quinn)、ビアンカ・サンダース(Bianca Saunders)を支援してきた。ブランドは、創造的なメリット、英国のファッションエコシステムへの貢献、仕入れ先の質、インスティテュート・オブ・ポジティブファッション(Institute of Positive Fashion)の3つの柱である「環境、人々、コミュニティとクラフトマンシップ」の最低基準を満たす能力など、さまざまな基準にしたがって選ばれている。

次の30年に向けてレガシーを創出するために

「主にニュージェンのデザイナーのおかげで、ロンドン・ファッションウィークはクリエイティブな自由、イノベーション、そして我々の業界の未来を示す代名詞となっている。今年の参加者メンバーの多くは、サステナビリティ、多様性、コミュニティを自分たちのビジネスの中心に据えている」と、英国ファッション協会CEOのキャロライン・ラッシュ氏は述べた。「今年は、ニュージェンを祝うだけでなく、次の30年に向けてのレガシーを創り出す年でもある。ロンドンが、輝かしくクリエイティブなファッションビジネスをスタートさせ、責任を持って成長するための最高の場所であり続けるためにも、私たちは業界に向けて募金活動への参加と、指導プログラムをいっそう充実させるための支援を呼びかけている」。

「実のところ、ロンドンは経験の少ないブランド、あるいは才能や視点に欠けるファッションブランドを立ち上げる場所ではない」とギル氏は述べた。「我々は本当に国際的な方向に針路をとることができる才能、すなわち、強い視点があり、信頼できる知的なブランドを必要としている」。

だが、アンシエラのジェニファー・ドロゲット氏は、BFCはもっと多様なデザイナー、特に英国でのビジネスの成功を目指している国際的なデザイナーもサポートするよう、さらに努力すべきだと話す。「BFCが支援している人材は、BFCが大学在学中から育てて投資してきた人たちだ。アムステルダムから来た自分は、ここでそれを知った」と彼女は述べた。「ブランドのサポートに対するそのアプローチは、個人と会ってニーズを理解するという真のインクルーシビティからは、まだ非常にかけ離れているように感じる」。

[原文:LFW Briefing: BFC calls for investment and support from international fashion community]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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