サムスンのメタバース戦略、中核を担うのは Discord :「タイムズスクエアでの口コミとビルボードのようなものだ」

DIGIDAY

サムスン(Samsung)が、メタバースのマーケティング戦略を構築する際に、試しながら学ぶ「テスト・アンド・ラーン」的なアプローチを各種バーチャルプラットフォームで展開している。2022年6月第4週にニューヨークで開催されたNFT.NYCで、同社はデジタル体験や、ブランドNFTなどのバーチャルウェアラブルでWeb3ファンと関わる方法を拡大しつつあることを語った。こうした限定コンテンツは、今月から公開を始めたサムスンのDiscord(ディスコード)サーバーにユーザーを呼び込む計画の一環として提供されている。

Discordはゲーマーに人気のあるメッセージングプラットフォームだが、近年ではメインストリーム寄りでの活用も進んでいる。サムスンにとってもますます重要な存在となりつつあるところで、6月第3週のDiscordサーバー公開時には12時間で10万人以上の新規メンバーを獲得し、2週間後の現時点でのメンバー数は20万人超えに迫る。

「一種のパネルのようなもの」

サムスン・エレクトロニクス・アメリカ(Samsung Electronics America)のシニアバイスプレジデント兼最高マーケティング・コミュニケーション責任者を務めるミシェル・クロッサンマトス氏は、サムスンがこのプラットフォームを「タイムズスクエアでの口コミとビルボード」のように考えていると話す(同社のマーケティングチームでは当初約1万人のメンバー数を予想していたが、その数はTwitter、Facebook、インスタグラムなどでのマーケティングを通して、主に有機的に急速拡大していった)。

サムスンはDiscordで2つの部屋を用意し、それぞれ重要なオーディエンスに専用の対応ができるようにしている。1つはゲーマー用、もう1つはNFTやその他メタバース関連のトピックに関心を持つWeb3ファン用だ。このような戦略によって、サムスンはNFTの収集や新製品の発表を行う手段を手に入れつつ、同時に若いオーディエンスにもリーチできる。だがDiscordの利用は、新たな課題やユーザーからの質問につながり、そのための人や資源も必要になってくるとクロッサンマトス氏はいう。サムスンがDiscord戦略をソーシャルメディアへの取り組みの延長という位置付けにはせず、個別に担当チームを設けているのはこのためだ。

ファンを魅了し続けるには、新製品発表やNFTプレゼントなどの限定コンテンツが大量に必要だが、Discordコミュニティのオーディエンスの規模とエンゲージメントの高さを考えると、サムスンにとってDiscordは顧客とのコミュニケーションを探り、彼らが何を求めているのかを把握するためのフォーカスグループともなりうる。

「彼らの目の前にゲームを置けば感想を聞くことができるが、ゲームの統計情報を見せると単純な感想だけではなく本当に喜ばれることが伝わってくる 」とクロッサンマトス氏は話す。「プラットフォーム内でどのように彼らに接触していけばよいのかがまだよくわかっていない。だからDiscordを立ち上げ、彼らとオープンかつ自由に会話ができるようにした。Discordにはほぼ20万人のユーザーがいるが、これは一種のパネルのようなものだ。すぐにでもフォーカスグループを組める」。

ゲーミングコミュニケーションツールにとどまらない

Discordはブランドにとって、ゲーミングにとどまらないエンゲージメントのためのプラットフォームになりつつある。チポトレ(Chipotle)、スキットルズ(Skittles)、ジャック・イン・ザ・ボックス(Jack in the Box)といった外食・食品ブランドはどれも自身のDiscordサーバーを持つ。アディダス(Adidas)、セフォラ(Sephora)、New Era(ニューエラ)などのファッション・コスメブランドも同じだ。Twitter、インスタグラム、Facebookなどをスクロールで流し見している人の注意を引き付けようとするのとは異なり、ブランドのDiscordチャネルではコミュニティ登録者ともっと頻繁かつ直接的に関わる新しい方法をマーケターに提供しながら、ファン間の交流もできる。

Discordの元CMOで、ナイキ(Nike)やVSCOなどの企業のコミュニティ構築に携わってきたベテランマーケターのテサ・アラゴネス氏は、マーケターがメタバース戦略を全体的なブランド戦略の中にしっかりと位置付けていることが重要だと話す。そのブランドがメタバースにおいて製品、サービス、エンターテインメントのどれなのかを把握し、コンテンツや機能、パートナーシップを通してブランドにどのように命を吹き込んでいくのかを決めることが重要なのだという。

「コミュニティについては、人間味を戦略の中心にするべきだ」とアラゴネス氏は語る。「そうすることによって、どのプラットフォームにあっても、コミュニティに親しみを持ってもらいビジネスを拡大するための基盤を持つことができる。さらに最も重要な点として、その基盤が、メンバーにとってそのブランドを支持する理由となる」。

Discordの先へ

Discordは、サムスンが注力している数々の新しいプラットフォームのひとつに過ぎない。2022年初めから、サムスンはいくつかのバーチャルプラットフォームに進出している。1月にはディセントラランド(Decentraland)内にニューヨーク市の実店舗のレプリカを登場させた。最近では、ポップスターのチャーリーXCXのバーチャルコンサートをロブロックス(Roblox)のエクスペリエンス(体験)として提供している。

マーケターは、メタバースのプラットフォームがどれもよく似たものだと考えがちだが、実際はそうではない、と話すのはピュブリシスメディア(Publicis Media)のイノベーション部門責任者、キース・ソルジェイシック氏だ。同社はDiscord、ディセントラランド、ロブロックスにおけるサムスンのプレゼンス構築を手伝っている。「現在は知見に基づきながら直観で動いている。このチャネルはうまくいくのか、といった感じだ」と語るソルジェイシック氏は、プラットフォームがそれぞれに異なるため、ブランドは活動を展開するプラットフォームごとに意図を明確に持つ必要があると付け加える。

サムスンは人々がNFTコレクションを収集し披露するための新しい方法も提供する。2022年5月、サムスンのフレームテレビThe FrameでNFTを表示するプラットフォームが発表された。NFTマーケットプレイスのニフティ・ゲートウェイ(Nifty Gateway)との提携を通して実現する。サムスンは、スマートフォンから冷蔵庫まで、サムスンの他のさまざまなスクリーンでNFTを表示する方法についても探っているところだ。

クロッサンマトス氏は「当社にとってThe Frameが非常に重要なのは、それがNFTマーケットプレイスを集約する役割を果たすものだからだ」と話す。「当然、当社にはスマホの画面もあれば、冷蔵庫の画面もある。当社の製品でできることに大きく期待している。当社が今後追求していくものにはNFTが必要で、それは当社限定である必要がある。バッジでもいい。私が未来を予測するならば、それはロイヤルティプログラムにリンクされるものでなくてはならない」。

マルチメタバース的なアプローチ

クロッサンマトス氏によると、仮想世界の構築では、あまりに安定したものを創り上げるよりは、徐々に追加があって時間をかけて変わっていくもののほうがよいそうだ。サムスンが各種ゲームを制作し、さまざまなNFTやバッジを追加して、人がときどき戻ってくるように仕組んでいるのはそのためだ(クロッサンマトス氏は、若いオーディエンスにサステナビリティの取り組みについて単純に語るよりは、ゲームを通して説明したほうが効果的だとも語った)。

クロッサンマトス氏は「ブランド側が最も学ばなければならない点はそこだと強調したい」という。「ブランドは、最初は『いつでも新鮮でありたい』と願うものだが、それはメタバースではうまくいかないと思う。消費者は集中的なニュースの波に期待し、1、2カ月に1度は何か新しいものがほしいと思っている。コツはいかにイベントと同期させるかだ」。

サムスンの幹部は、同社がどれほどロブロックス(Roblox)やディセントラランド(Decentraland)、そのほかのプラットフォームに投資しているかを明かしていない。だが、あるスポークスパーソンはサムスンが「マルチメタバース的なアプローチにさらに投資していきたいと考えている」と話した。現在のところ、25万2000個のNFTバッジやウェアラブルが配布されている。ロブロックスのエクスペリエンスでは、訪問者数は初公開の週末だけで100万人に達し、全体では590万人に上る。また、約170万人が、ゲーム内で使用できるサムスンの折りたたみスマホGalaxy Z Flipのデジタル版プレゼントに申し込んでいる。

これまでのところ、反応はまちまちだ。2022年2月に新型Galaxyのバーチャル発売イベントが開催されたとき、技術的な問題に遭遇した人もいれば、イベントが「十分時間をかけずに不完全な状態」であると見る人もいた。こうしたレビューについて尋ねると、クロッサンマトス氏は、「最初に動いたほうがいい。完璧より実現を目指したほうがいい」ということをかなり前に学んだ、と語った。

「確かに、消費者からはいろいろフィードバックがあるが、彼らはどちらかといえば寛容だ」とクロッサンマトス氏は話す。「私たちがいろいろ試してみては学んでいることを承知していて、Discordで消費者の声に耳を傾け、それに合わせて適応していけばそれでいいと思ってくれる」。

求められるのは「細やか」なストーリーを語る力

ガートナー(Gartner)のアナリストで、新しいテクノロジーをマーケターがどのように利用するかに注目するアンドリュー・フランク氏は、新奇性で興味を喚起することはいつでもできると話す。だが長期的な興味を喚起するには「かなりの細やかさ」が必要で、企業側が語るストーリーの力と、消費者が企業やお互いと交流するニーズのバランスをうまくとることが課題となるそうだ。

「これは極めて重要な課題のひとつだ」とフランク氏は語った。「クラシックメディアがうまくいくのは、直線的なナラティブ(物語)に盛り込むことのできるものがバラエティ豊富であるからだ。直線的でないエクスペリエンスの場合は、ソーシャルメディアで見られる以上のものを見つけ出した例を知らない。そして、完全にコントロールされていない、または部分的にしかコントロールされていない環境で人々がかなり自由に反応できるようにしたときに起きる問題に立ち戻ることになる」。

[原文:Samsung turns to Discord to build out its metaverse strategy

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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