2012年、オーストラリア・メルボルンの公共交通事業者であるメトロ・トレインズ(Metro Trains)が、鉄道事故防止を訴えるキャンペーンソング「Dumb Ways to Die(ダム・ウェイズ・トゥ・ダイ/おバカな死にかた、の意)」を制作し、同曲からは関連モバイルゲームも派生した。
それから10年以上経ったいま、同曲はTikTokで大バズりを起こしている――そして、同曲の現所有者、モバイルゲームスタジオのプレイサイド(PlaySide)はその大いなる恩恵に浴している。
「Dumb Ways to Die」は元々、多種多様な、いずれも尋常ではない死を図らずも迎えるキャラクターたちを擁する、病的に可愛いミュージックビデオとして生まれた。翌2013年、メトロ・トレインズは同キャンペーンの人気を受けて、「Dumb Ways to Die」のiOS版ゲームを発表した。プレイサイドは2018年以来、「Dumb Ways to Draw (ダム・ウェイズ・トゥ・ドロー)」や「Dumb Ways to Dash(ダム・ウェイズ・トゥ・ダッシュ)」といった、その続編にあたるゲームの開発に手を貸しており、2021年、後者は同ゲームシリーズの権利を獲得した。
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「Dumb Ways to Die」の再バズりは誕生以来、何度か起きているのだが、今回のものは過去最高の大波を形成しつつある。あるTikTokユーザーが1月後半、この曲名だけを使った動画テンプレートを制作したところ、Googleトレンド(Google Trends)によれば、キーワード「Dumb Ways to Die」のオンライン検索数が10倍増を記録した。ココ・ガウフやオリビア・ダンといったインフルエンサーおよびセレブも、すぐさまその流行に乗った。
この予想外のバズりを、プレイサイドはどう活用しているのか? 米DIGIDAYは同社GMダニー・アームストロング氏に質問をぶつけた。氏の回答とDIGIDAYの解説は以下のとおり。
なお、端的にまとめるため、発言には編集を加えてある。
モバイルゲームのマーケティングにおける懐古感の役割について
アームストロング氏:「このタイトルには何かがある、それも、私が思う不朽のタイトル群と同じものがある。『Dumb Ways to Die』はずっと前から、それこそもう約10年も市場に出回っており、いまも健在だ。そしてこのゲームは、自身のオーディエンスを彼らが子どもの頃から育ててきたようなものであり、彼らはいまTikTok世代を形成している。そんな世代にしてみれば、このゲームには懐かしさがある。オーガニックダウンロードは、YouTube動画からだけでも、とんでもない数字になっている。『おおっ、子どもの頃を思い出すよ――このゲーム、最高!』などなど、コメントを見れば、それは一目瞭然だ」。
DIGIDAY:現時点で、スマートフォンが市場に出てから20年近くが経過しており、それを考えれば、Z世代やさらに若い層が子どもの頃に遊んだモバイルゲームに懐かしさを覚えはじめているのは、驚くことではない。懐古感は実際、モバイルゲーム業界における成功の主原動力のひとつであり、したがって、マーケター勢は懐古の定義を拡大し、言うなれば、年老いていない者だけが懐かしさを感じるゲームやトレンドもそこに含めるのが賢明だろうと、クリエイティブ・トレンド・レポート2023(Creative Trends Report 2023)でも指摘されている。
「Dumb Ways to Die」のバズりがモバイルアプリインストールに与える影響について
アームストロング氏:「ダウンロード数の伸びが尋常じゃない。言うまでもなく、当社は現在、米ゲーム業界で首位に立っており、2月第二週からその座にある――信じられない、としか言えない。ふと思い出したのは「Subway Surfers(サブウェイ・サーファーズ)」だ。あれも1年位前に同様のトレンドを経験していたし、いまでも健在で、もう長いこと市場に出回っている」。
「チャートの首位に立つには、膨大なインストール数が欠かせない。さらには、もちろん、TikTok上で何十万という動画と何億回という視聴がひとつに合わさることで、インストール数を明らかに押し上げてくれる。そして、一方が上がれば、もう一方も上がるわけで、『Dumb Ways to Die 2』は現在、米チャートで35位につけているし、やや人気の劣るいくつかの作品も同様の動きを見せてくれている」。
DIGIDAY:アームストロング氏は具体的なインストール数こそ明らかにしなかったが、「Dumb Ways to Die」のバズりが10年前に作られたモバイルゲームをチャートの頂点に押し上げた要因であることは、間違いない。アームストロング氏は、この現象を「ポートフォリオ効果」と称し、「Dumb Ways to Die」の人気がプレイサイドによる今後の作品のインストール数も後押してくるのではないかと語った。氏はさらに、この人気爆発は「Dumb Ways to Die」のマーチャンダイズの売上増にも繋がっていると話したが、伸び率など、具体的な数字は明らかにしなかった。
プレイサイドの現在のマーケティング戦略に対するこのバズりの影響について
アームストロング氏:「何をするべきなのか、はっきりとわかったんだ。『よし、大きな波が来てるぞ。TikTokには早くも約160万人ものフォロワーがいる。この波に乗って、コンテンツをどんどん発信していこうじゃないか』と」。
DIGIDAY:「Dumb Ways to Die」が再バズりを起こした際、プレイサイドはそれで満足はしなかった――同社はすぐさま行動を起こし、このトレンド独自の、興味深い例の数々にスポットを当てるデュエットを大量に発信した。「Dumb Ways to Die」のオリジナル動画のキャラクターを擁するTikTok動画のなかには、暴力的で、観る者を不快にさせるものも少なくない――が、公式「Dumb Ways to Die」アカウントの急激な成長が、TikTokにおけるいわゆる「狂的(アンヒンジド)コンテンツ」の力を実証しているのは間違いない。「Dumb Ways to Die」が再バズりを起こすなか、TikTokのフォロワー数は100万人以上増加している。
「Dumb Ways to Die」のTikTok流行に伴う、潜在的ブランドセーフティリスクについて
アームストロング氏:「あれはどのようにして作られたのか? それを語ることは、原点回帰を意味する――あれはそもそも、PSA(公共広告)だった。ある種の衝撃因子を利用して、安全の大切さを人々に注意喚起するPSAだったんだ。安全性は極めて重要なことであり、その立ち位置はいまも変わらない。あれはいまもPSAであり、それは昔から変わっていないし、そこは今後も絶対にブレないようにしたい」。
DIGIDAY:「Dumb Ways to Die」の人気TikTok動画の多くは荒唐無稽であり、大半は無害だ――が、少なくとも一部の動画は、バズりを狙い、自傷にほかならない行為を映している。もっとも、危険なマイナス面を有するバズり動画は、これが初めてではない――「シナモンチャレンジ(cinnamon challenge)」はその顕著な一例であり、そのせいで何年にもわたり、多くの子どもたちが病院に送られている。
アームストロング氏の回答からは、暴力や危険絡みのゲームに伴う潜在的ブランドセーフティリスクに対する氏の自覚がうかがえる。最近、「コール・オブ・デューティ(Call of Duty)」をはじめ、極めて人気の高い有名ゲームが、戦争や銃による暴力との関連性を叩かれている――したがって、「Dumb Ways to Die」のクリエーターたちが、潜在的に危険なTikTokでのトレンドではなく、安全性の喚起という原点を優先したいとする姿勢は、理に適っている。
[原文:How the owners of that ‘Dumb Ways to Die’ jingle are benefitting from its TikTok virality]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)