ニュースレター パブリッシャー各社の景気減速攻略法:要点まとめ

DIGIDAY

新型コロナのパンデミックによる一時的な不況のせいで、唐突にマーケティング費がほとんど使われなくなってから2年が経過し、景気減速が広告予算を脅かしている。しかし、現在ニュースレターパブリッシャーの広告ビジネスを脅かしているのは、それだけではない。

広告主は広告費が収益をもたらすことを証明するもっと確実な裏付けを求めている。そのような状況で、Appleのメールプライバシープロテクション機能が2021年9月に導入され、メール開封率は信頼できない数字として捉えられるようになった。一方、この2年でニュースレターの発行が急増し、市場は過飽和状態にあると指摘するメディアバイヤーもいる。

ニュースレターパブリッシャーにかかる重圧

  • モーニングブリュー(Morning Brew)やザ・ギスト(The Gist)、1440のようなニュースレターパブリッシャーは、広告主のマーケティング戦略に一部変化が生じていることに気づき始めた。暗号資産のような分野では、メディアバイイングに様子見のブレーキがかかっている。
  • メディアバイヤーは、ニュースレターへの投資が予算を回すだけの価値があると証明できるものをもっと必要としている。
  • Appleのメールプライバシープロテクション(Mail Privacy Protection)導入で、メール開封率の信頼性がなくなったが、パブリッシャーのなかには、オーディエンス調査を実施し、自社のキャンペーンは投資の価値があると広告主を説得するところもある。

「間違いなく変化が起きている」

モーニングブリューやザ・ギスト、1440のようなニュースレターを得意とするパブリッシャーにとって、今とるべき戦略は「適応性」だ。たとえば業界によってはブランド広告主が姿を消し始めているところもあり、そうした業界ではパブリッシャーが広告キャンペーンの成功を示すブランドリフト調査に着手している。Appleの変更で従来のメール効果測定方法の信頼性が危ぶまれるようになってからは、ブランドリフト調査もその対応策として使われている。

「この数カ月、市場で目の当たりにしてきたのは、間違いなく変化が起きているということだ。当社のパートナー企業にも、少し規模を小さくしようと考えているところがある。規模の縮小を検討する分野がある一方で、予算増加とまではいかなくても、これまでどおりの規模という企業も数多くある」。そう話すのは、モーニングブリューでブランドパートナーシップおよびクリエイティブスタジオ担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるジェイソン・シュルワイス氏。

様子見のブレーキがかかっている広告主の分野には、驚くほどのことでもないが、暗号資産がある。「当社の大口顧客には景気の問題だけでなく、暗号資産で生じている状況から痛手を受けた企業もある」とシュルワイス氏は付け加えた。たとえば、仮想通貨のビットコイン(Bitcoin)とイーサリアム(Ethereum)はどちらも徐々に価値を下げており、2022年6月第3週にはビットコインが1年ぶり、イーサリアムが2年ぶりの底値をつけた。仮想通貨取引プラットフォームのコインベース(Coinbase)は、市場が暴落した結果、従業員の18%を一時解雇する予定だと発表している。

高まる不確実性

一方、ブランド認知キャンペーンに注力していた広告主の場合、スケジュールにも少し変更が出始めている。

「提携先がこぞって完全にキャンセルしたとか、大幅に計画を変えてきたという経験はない」と話すのはザ・ギストの共同創業者でブランドパートナーシップの責任者も務めるジェイシー・ディフープ氏だ。顧客がアッパーファネル(認知レベル)やミドルファネル(理解・興味、購入検討レベル)に分類される広告主では、「夏に向かって変化があるかもしれないが、これまでのところ不確定要素が多く、計画の一時停止や変更が数多く生じている」という。

女性オーディエンスを対象にしたスポーツニュースレターを発行するザ・ギストの場合、広告スケジュールは、プロスポーツの予定に合わせているとディフープ氏は説明する。2021年の夏はオリンピックに合わせて何カ月も前からスポンサーシップの契約が交わされていたが、それに比べると2022年夏のペースは若干ゆっくりになるだろうという。

一方、1440の創業者でCOOを務めるピエール・リプトン氏は「当社の場合、スローダウンはまだ見られない」と話す。しかしながら、「パフォーマンスマーケティングの重要性は高まっている。パブリッシャーはCPA(顧客獲得単価)とROI(費用対効果)の情報を以前よりもすこしばかり多く提供しているものの、予算がますます限られてくるので、マーケターにとっては透明性の重要度が高まるばかりだ」という。

iOS 15問題

2021年9月からというもの、ニュースレターパブリッシャーにとって、メール開封率の数字は信頼性が低くなっている。これは、AppleのiOS 15アップデートが原因だ。今回の更新で、モバイルメールアプリのユーザーは新機能メールプライバシープロテクション(Mail Privacy Protection)を選べるようになった。このオプションは企業側の動きをブロックするもので、選択されると、企業側は、ユーザーがメールを開封したのかトラッキングして調べたり、メール受信者をオンラインでトラッキングするために利用可能なIPアドレスなどの情報を収集したりできなくなる。

「これは、スパムメール送信者に対するApple流の反撃を意図していたのだが、残念なことに今回の変更では、まともなニュース会社がその巻き添えを食らっている」。そう話すのはインボックス・コレクティブ(Inbox Collective)を経営し、コンサルタントとして携わるダン・オシンスキー氏だ。同社はメール戦略でメディア企業やブランドと提携している。

特にAppleのiOS 15には、ユーザーの代わりにAppleがメールを読むオプションがあり、ユーザーの個人情報が送信者に渡らないようにしている。その結果、残念なことに、ユーザー本人はメールを一切開いていないにもかかわらず、Appleがそのメールを「読む」ことで、送信者の開封率が跳ね上がるという事例が出てきたのだ。

たとえば、オシンスキー氏の顧客の場合、開封率が平均15~20%上昇してインフレ状態にあるという。また、ザ・ギストのディフープ氏によると、同社ではニュースレター開封率約5%の上昇が確認されており、同社の基幹サービスであるデイリーニュースレターは平均開封率が40%になっている。これはつまり、平均開封率が30%のパブリッシャーなら、現在なら35~37%の開封率が想定される。

1440のリプトン氏は、メールに掲載されている広告(アトリビューションとして評価される可能性あり)のクリック数に減少が見られることに気づいたという。以前、購入につながらないクリックは、ニュースレターの合計クリック数の約5%だったが、その割合が9%程度まで上昇している。差し迫った問題ではないものの、現在社内では状況を注視していると同氏は話す。

ニュースレターパブリッシャーにとって幸運なのは、状況が何とか安定化に向かっていることだ。モバイルデータ分析のミックスパネル(Mixpanel)によると、iPhoneの87%でiOS 15が使用されている。「だから、これから先iOS 15を使う人が山ほど増えるわけではない」とインボックス・コレクティブのオシンスキー氏。つまり、今ならパブリッシャーが開封率のインフレをより正しく見積もることが可能になる。

証拠は調査結果のなかに

ブランドの広告主たちは、自社の予算がビジネスに直接影響を与えるものに使われていることを示す確固たる証を求めている。開封率やインプレッションが、キャンペーン成功の証明としても、予算をニュースレターにつぎ込むようマーケターを説得する根拠としても、役に立たなくなった今、ニュースレターパブリッシャーが広告主を満足させるカギは、ブランドリフト調査かもしれない。

たとえばモーニングブリューの場合、広告主はブランド認知を第一に考えており、キャンペーンの成果がわかるデータをこれまで以上に求めている。ダイレクトレスポンスキャンペーンには、広告主が自らトラッキングできるコンバージョン率やトランザクションデータのような数値が含まれるが、「ブランド認知のキャンペーンで成果を証明するには、その成果が測定できるかどうかにかかってくる」と同社のシュルワイス氏は説明する。

そのため、モーニングブリューでは2019年に入り、ブランドリフト調査に着手した。この調査では、広告主が広告キャンペーンの前後と実施中に、オーディエンスのブランド認知度だけでなく、広告がニュースレター読者との距離をどれだけ縮めることができるのかも測定できる。

ザ・ギストのディフープ氏によると、同社はこの数カ月間、ブランドリフト調査に注力しており、その調査から、ブランドのメモラビリティ(記憶しやすさ)や購入傾向のような別の測定方法を探しだそうとしている。

不況は、消費者行動や消費傾向に影響をおよぼす可能性が高い。そのため、「広告主もこの時期は及び腰で行動し始める(かもしれない)。それに、メディアへの投資はトラッキングが困難であるため、売上に対する影響が直接見えにくい投資にはなかなか踏み出せない」とMMIエージェンシー(MMI Agency)でメディアグループディレクターを担うデイビッド・マースキー氏。「ニュースレターは(も)ほかのどのデジタルメディアよりもほぼ間違いなくインプレッションあたりのコストが高くなる傾向がある。そのため、直感的に選択肢としては選ばれにくい」。

安定化するものの、超飽和状態

オシンスキー氏によると、顧客からはまだニュースレター広告の減益や大幅な変化は報告されていないが、彼自身は目の前の不況が2020年夏と同じようであってほしいと期待している。というのも、2020年のときにはメールのCPMにほとんど影響がでなかったからだ。

「2020年夏のニュースレター広告は終始安定していた」とインボックス・コレクティブのオシンスキー氏。メール開封者1000人あたり(CPM)平均20ドル(約2600円)から50ドル(約6500円)をほぼ維持していたと指摘する。また、2020年から現在までの間、自社顧客のCPMが約5ドル(約650円)と若干ではあるものの上昇も確認している。

とはいえ、この数年、ニュースレター市場は強気相場で、有り余るほどの資産を生み出していたはずだ。

「ニュースレター市場は超飽和状態。大きな問題は頻度だ。広告主はニュースレターを顧客と1対1でやりとりができて、コストのかからない方法だと考えているので、これからも数多くの広告主がオーディエンスにこれでもかと言わんばかりにニュースレターを送り続けることになる」。そう話すのは、メディアバイイングエージェンシーのメディア・トゥ・インタラクティブ(Media Two Interactive)のCEOセス・ハーグレイブ氏だ。

問われるのはクリック率とクリック単価

ニュースレターインベントリーを買収するとき(ハーグレイブ氏いわく、こうしたニュースレターは、彼が顧客向けに取り組む大規模なメディアキャンペーンの追加要素として考えられる)、まずチェックするのは送信率、その次に開封率だという。ただ、何よりも重要なのは、ニュースレターオーディエンスのエンゲージメント率を判断するためには、結局クリック率とクリック単価(CPC)が問われるということだ。

「クリック率が、パブリッシャーから提供された開封率のデータ頼みになるのだとしたら、開封率のデータの信頼性に関する問題は見逃せない。残念ながらKPIがCPCに戻ってきたのはそのためだ。結局、CPCは正確に見ることができるファネル分析のなかでも特に質の高い測定値なのだ」とハーグレイブ氏は話す。

「私たちバイヤーが最初に拠り所にするものにニュースレターが含まれる理由の1つが『信頼性がないこと』であるなら、『それって付加価値になりますか?』と尋ねてみたいものだ」。

[原文:Media Briefing: How newsletters publishers are dealing with a destabilized ad landscape

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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