スーパーボウル効果でDL数激増、中国発低価格EC「テム(Temu)」が米国事業拡大へ

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中国発のECアプリ「ピンドゥオドゥオ(拼多多/Pinduoduo)」を運用するeコマース企業が所有するオンラインショッピングサイト「テム(Temu)」が、米国へのさらなる進出を試みている。

昨年9月、大幅な割引と非常に低い価格を売り物とするアプリという位置づけで米国に進出したこのeコマースプラットフォームは、より多くのアメリカ人が自社ウェブサイトを訪問し、アプリをダウンロードしてもらうために、積極的なマーケティングキャンペーンを開始した。テムは最近、2月12日のスーパーボウル(Super Bowl)で、米国内ではじめてのスポット広告を放映した。この30秒間の広告はサーチアンドサーチ(Saatchi & Saatchi)が制作し、ロバート・ジッツマーク氏が監督したもので、試合中に2回流れ、約1400万ドル(約18億9000万円)を要したとされている。

このテムの広告は「億万長者のように買い物しよう(Shop like a Billionaire)」というキャッチコピーがつけられ、この広告によってダウンロード数と毎日のアクティブユーザー数が即座に増加した。センサータワー(Sensor Tower)のデータによると、スーパーボウル当日、テムのダウンロード数は、前の日と比べて45%も急増し、1日のアクティブユーザー数も約20%増加した。それ以来、テムのダウンロード数は増加し続け、2月の初頭にはターゲット(Target)のような米国の大手小売企業のペースをもしのいだ。

テムはメールの声明で、TV広告の測定企業であるイーディーオー・インコーポレーテッド(EDO Inc.)からの調査結果によれば、この広告は、中央値よりも10倍優れたパフォーマンスを示したと述べている。「テムのマーケットプレイスへの訪問者数と、アプリのダウンロード数のどちらも、試合中と試合後の両方で大幅に増加し、関心は高まったままになっている」と、同社は記載している。

[embedded content]スーパーボウルで放映されたテムの広告

スーパーボウル広告のインパクト

テムの親会社はPDDホールディングス(PDD Holidaings)で、中国ではピンドゥオドゥオのアプリでよく知られており、第3四半期には、前年同期比65%増の49億ドル(約6620億円)の収益を計上した。PDDの社長兼CEOを務めるチェン・レイ氏は、国際事業は同社にとって新分野であると語った。「当社は消費者の基本的なニーズからはじめ、これまで培ってきた運営やサプライチェーンのノウハウと経験を適用していく」。

「我々はまだ初期段階で模索している。そして当社が提供するサービスは多くの点で改善の余地がある。当社は学習し、最適化する必要がある。このプロセス自体には時間がかかるだろう」と、レイ氏は第3四半期の決算発表で述べた。

テムは米国において非常に確固な成長を見せ、ダウンロード数は2400万を超え、センサータワーのデータによれば、運用を開始されて以来、米国内でもっとも多くダウンロードされたショッピングアプリの地位を維持している。同社は最近になって海外事業をカナダに拡大した。アナリストらは、テムがスーパーボウルの広告で注目を集めたことは間違いないと認めているが、これらの新規ユーザーのどれだけがアプリに戻ってくるのか、また、成長率が実際に持続可能なのかについては懐疑的な見方を示している。

マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の創設者兼CEOであるジョーザス・カジウケナス氏は、「同社は、極めて積極的な顧客獲得の過程にあり、可能な限り多くのユーザーを迅速に獲得しようとしているようだ」と述べている。「そして、テムの最新の試みであるスーパーボウル広告は、ほとんどお披露目パーティのようなものだ。ここで同社は、マーケティング活動の水準を引き上げ、Facebookやインスタグラムの広告、ユーザーからの紹介などを超えて、より広いオーディエンスに到達しようと試みたと思われる」。

米国での事業拡大を視野に

カジウケナス氏は、スーパーボウルの広告は高価ではあるが、1回限りの人気取りの要素が強いと見なしている。「これは、テムにとって成功を左右する瞬間というわけではなく、どちらかというと、わずか数カ月のあいだにゼロから100への成長を促すという、同社のマーケティングへの意志と大胆さを示すものだ」と、同氏は述べている。

同プラットフォームはたしかにTV広告で成長したが、米国においてテムのユーザー数が急激に増加したのは、同社のダイレクトマーケティング活動での努力と、ユーザー紹介プログラムによるものだと評価している。ユーザー紹介プログラムとは、既存のユーザーがテムに参加するようさらに多くのユーザーをテムに招待し、その対価としてアプリで使用できるクレジットがもらえるようにするものだ。

それでも、今回の広告の直接的な影響は馬無視できるものではない。センサータワーのシニア調査ディレクターを務めるシーマ・シャー氏は、テムがスーパーボウルの日に広告を放送したあと、「ユーザー数の増加も、ダウンロード数も過去最大に急増した」と述べる。センサータワーのデータによれば、2月の集計時点で、同アプリの月間アクティブユーザー数は1340万人で、ターゲットの月間アクティブユーザー数の920万人を凌駕している。しかし、テムの2月の月間アクティブユーザー数は依然として、従来型小売業者であるウォルマート(Walmart)に届いていない。2月の集計時点でウォルマートの月間アクティブユーザー数は1770万人近い。

シャー氏の目には、同社が明らかに、米国での規模の拡大に注力しているように映っている。たとえば、同社は昨年9月、米国での事業を管理するためにボストンにオフィスを開設した。「現地にオフィスを開いたという点は興味深い。現地で文化的に何が実際に起きているのかを感じ取るためかもしれない。同社がスーパーボウルでの広告を実施することを考えられたのも、それが理由かもしれない」と、同氏は述べている。

シーインとの類似点

テムの戦略は、中国のライバル企業であるシーイン(Shein)の海外進出戦略とよく似ている。パンデミックのあいだにシーインは米国に全力を投入することを決定し、2021年にマーケティングを推進するために膨大な労力を費やした。同ブランドの広告は概して、米モダンリテールが以前に報じたような野心的なコンテンツよりも、特定のセール、商品、クーポンへのリンクを含む具体的なCTA(行動喚起)だ。同社はこの方法で、2021年にもっとも多くダウンロードされたショッピングアプリになり、現在ではオンラインのファストファッションの有力な競合とみなされている。テムと同様に、シーインもマーケティング戦略や低価格のトレンドの商品を、より幅広いオーディエンス層を対象に打ち出している。

目覚ましい成長にもかかわらず、テムはいまだ独自の商品を提供するブランドとしての地位を確立していないと、カジウケナス氏は語る。

「同社が現在のようにユーザーを獲得できたのは、ひとえに積極的なマーケティングのおかけだ。同社はいまだ、独自の商品セレクションや、独自のカスタマーエクスペリエンスを提供するブランドとして自社を確立していない。現在のところ、同社のアプリはごくありふれたものだが、これを基盤としてさらに高度なものを構築し続けるだろう」と、同氏は述べている。

「今のところ、テム、アリエクスプレス(Ali Express)、ウイッシュ(Wish)の価値提案は中国で、今日の小売業では十分ではなく、もっと努力する必要がある」と、同氏は述べている。

[原文:After a successful Super Bowl ad, Temu’s growth is outpacing rivals like Target]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Temu/Youtube

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