オフィスのランチは変化し、レストランは座を追われつつある

DIGIDAY

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ホワイトカラー労働者が会社のオフィスへ次第に戻りつつあるが、仕事中のランチはかつての姿とは異なるものになるかもしれない。

米国のレストランはすでに、ランチへの新たな人の集まりが期待したほどではないことに気づいている。11月にエヌピーディーグループ(NPD Group)から発表されたレポートによると、ランチ時のレストランの客は2021年9月までの12カ月に前年比で4%増大したものの、2019年9月までの12カ月と比べると8%減少している。2024年になっても、この分野はランチ市場においてパンデミック前のシェアまで回復しないだろうと同社は予測している。

この変化を推進した大きな要因は、労働者の大部分が週のほとんどの期間についてリモート勤務のままだということだ。9月に行われたギャラップ(Gallup)の調査では、米国内のフルタイム労働者のうち、1週間に少しでもリモート作業を行った割合は45%に達した。これは勤務中のランチについて新しいパラダイムが生まれたことを示すものだ。レストランでのランチの売上はパンデミック前と比べて減少しており、顧客はレストランの代わりに、家庭料理、包装食品や冷凍食品を求めて食料品店などの小売店に集まっている。これによって、ランチはますますスーパーマーケット中心のオケージョンに変化していく。その結果、ランチに特化したビジネスは顧客に接触するため小売店との提携を結び、ゴーストキッチンのような新規参入の業者は変化の続いているあいだに市場への参入をめざしている。

エヌピーディーグループの飲食物アナリストであるダレン・サイファー氏は、パンデミックの前は「人々のランチの約72%が小売店から購入したもので、本質的にはパントリーから持ち出したものだった」と述べている。「ランチの残りの28%はフードサービスからのものだった。パンデミックの最初の1年間にこれらの数値は変化した。ランチの78%が小売店からのものとなり、フードサービスはランチ市場のわずか22%に低下した」。

ランチタイムのピークにおけるレストランのシェアの低下は避けられないものであったかもしれない。パンデミックの前でさえも、レストランは小売店と競合し、ランチを食べにくる人々を維持するため苦闘していたとサイファー氏は言及している。「レストランの客は実際のところ、最後の景気後退以来増加していない」と同氏は述べる。「人々が2019年にレストランを訪問した回数は、2010年と同程度だ」。パンデミックは単にその流れを加速したにすぎない。

ランチの新しいパラダイム

パンデミックにより新しい習慣が生まれ、人々がどのようにランチをとるかが変化した可能性がある。

「多くの人々は、自宅で調理することに疲れている」と、市場リサーチ会社210アナリティクス(210 Analytics)のプリンシパルで創設者のアン・マリー・ローリンク氏は述べる。「今までこれほどのレベルのことはなかった」と同氏は述べ、現在では「利便性が再度、非常に重視されている」としている。

ローリンク氏は、食料品店での総菜の売上が2019年より大幅に増えていることを指摘している。パンデミックにより小売業者は自社のサラダバーや調理済み食品のコーナーを一時的に閉鎖することを余儀なくされたが、それ以後に多くの店舗ではこれらのコーナーを再開し、顧客は大挙して総菜を買い求めている。調査会社IRIのデータによれば、「調理済み食品」(スープ、サラダ、調理済みの肉などが含まれる)の売上は2019年よりも13.1%増加している(昨年と比較すると、実に18.7%の増加だ)。

人々はランチに冷凍食品も選ぶようになってきている。パンデミックのあいだ、顧客は食料品店で生鮮食品と冷凍食品の両方をはるかに高い割合で購入していたが、もっとも増加率が多かったのは冷凍食品で、2020年に21%も増加した。これに対して生鮮食品の増加率は10%にすぎない。1つのカテゴリとしての冷凍食品の急伸は、2021年の間中ずっと続いている。

ローリンク氏によれば、冷凍食品メーカーは「食事のパターンがはるかに柔軟になったことをいち早く理解した」。クイックサービス式のレストランで十分な食事を頼むのではなく、「人々はランチにスムージーを、軽食に少量の食事やピザを食べることが考えられ」、冷凍食品メーカーはランチ市場への足がかりを得られるようになった。「冷凍食品は自宅での手早く健康的で便利なランチも対象にしていくようになると思う」と同氏は述べている。

消費者が自宅の外でランチをとる場合でも、かなりの割合でテイクアウトの料理、自家製のサンドイッチ、自宅での食事の残りなどの形で、小売店からランチを調達している。最近の四半期において、「消費者が多少モバイル化するにつれ、自宅のパントリーも活用するようになった」とサイファー氏は述べている。

イノベーションの競争

食料品店は、外出中の食事の新しい調達先になることを目標に策をめぐらせている。これらの会社は利便性を追求し、デリバリーやテイクアウトが可能な調理済み食品への投資を増やしている。ウォルマート(Walmart)やクローガー(Kroger)はいずれもここ数カ月にゴーストキッチンを開設し、アプリを使ってより多様な調理済み食品の販売を目標としている。

ほかのゴーストキッチン会社は、出社勤務中や自宅勤務中にかかわらず人々に接触するため、各種のオフィスやアパートメントのビルと提携している。ゴーストキッチン運営会社のズール(Zuul)は現在キッチンユナイテッド(Kitchen United)の傘下だが、割安のランチをテナントに提供するため、ワールドトレードセンター(World Trade Center)などの場所でオフィス施設を運営しているシルバースタインプロパティーズ(Silverstein Properties)との提携を結んだ。4月に、当時ズールのCOOを務めていたクリステン・バーネット氏は、特に多くの人々がオフィスに戻りつつあることから「オフィス環境ではデリバリーの採用率が増え続けていくだろう」と米モダンリテールに語った。「デリバリーの行われる場所に変化が起きるだろう」とも同氏は述べた。

ワークランチというパラダイムに取り組んでいる別の会社として、フーダ(Fooda)、ミールパル(MealPal)、リチュアル(Ritual)などのサブスクリプション制ワークランチの新興企業がある。これらの会社は大規模なビジネスと提携し、労働者に対する特典として、サブスクリプションによる食事を割引価格で提供する。しかし、これらの会社はワークランチ業界全体では小さなシェアにとどまっている。パンデミックのあいだにサブスクリプションランチの新興企業は自社のサービスを一般的なオフィスワーカーから、自宅で勤務する選択肢がない肉体労働者や医療従事者に移行させるようになった。

レストランの方向転換

スーパーマーケットランチの隆盛と、自宅勤務の人々の数が減少を見せないことは、かつてオフィスでのランチタイムの中心だったレストランのチェーンにとって、概して悪いニュースだ。

スイートグリーン(Sweetgreen)は10月に、同社の同一店舗での売上が前年比で21%増加したが、以前としてパンデミック前の水準には戻っていないことを報告した。ほかの有名なオフィスランチチェーンであるプレタ・マンジェ(Pret a Manger)は9月に、パンデミック前の販売の80%を達成したと発表した。

その結果、プレタは拡張計画の中心を都心の実店舗の開設から、デリバリーインフラストラクチャの構築とスーパーマーケットへのさらなる浸透へと移した。同社は英国において、食料品店チェーンのテスコ(Tesco)内に店舗内ストアを開設することを試し、さらにプレタが多く展開されている繁華街を訪れない消費者を引き付けるため、既存の小売店でもセルフサービスのプレタコーヒーステーションの販売を行っている。

プレタのCEOを務めるパノ・クリストウ氏は、パンデミックにより「ロンドンなどの大都市の外にいる顧客」や「国内や外国で当社と働くことを望む新しいフランチャイズパートナー」も含めて「より多くの人々がプレタを体験することを望んでいる」ことが判明したと語っている。

エヌピーディーグループのサイファー氏は、ランチ市場でシェアの維持にもっとも成功したのは、従来の都心オフィスの外にいる消費者に注力する方法を見出したレストランだとしている。オフィスパークに位置するレストランでは、パンデミック前の数値への回復は長期にわたって見込めないかもしれないが、「過去1年間に上手な対処を行ったのは、テイクアウトやデリバリーなどの方法により施設外で人々にサービスを提供できたレストランだ」と同氏は述べている。

これらのレストランについて、「重要なのはどこに位置し、どこで消費者にサービスを提供するかだ」。

[原文:The office lunch has changed — and restaurants are losing out]

Michael Waters(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:長田真)
Illustration by Kevin Kim, directed by Ivy Liu

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