現在ISSで船外活動に使われているNASAの宇宙服は40年以上前に作られたものとあって、老朽化が進んでいます。
NASAは21世紀にふさわしい宇宙服を手に入れることを熱望しており、先日Collins Aerospace(コリンズ・エアロスペース)社が実施した無重力環境でのテストはそうした方向への第一歩です。
新型宇宙服の開発における重要な一里塚
NASAは2022年12月にノースカロライナ州に本社を構えるCollins Aerospaceに対し、同機関の探査船外活動サービス(xEVAS) 契約の下、国際宇宙ステーション(ISS)で使われる次世代型宇宙服の開発を9720万ドル(約145億円)で依頼していました。
そしてCollinsはILC Dover(ILC ドーヴァー)とOceaneering(オーシャニアリング)と協力し、同契約における主要なマイルストーン、クルー性能評価テストを終えたのです。
この重要なステップは地上の疑似的な宇宙環境、つまり地球の上空を飛行する航空機内で宇宙服の性能をテストするというもの。
この目標が達成された今、NASAには宇宙服の実証実験の契約を延長するという選択肢もあります。その場合には2026年4月までにISSのクルーが同宇宙服を着用して船外で実験が行なわれるとのこと。
現在の宇宙服と相次ぐトラブル
バージョンアップされた宇宙服の登場は、長らく待たれています。40年以上も前から使われている現在のNASAの船外活動ユニット(EMUs)が引き起こす問題によって、差し迫った必要性が生じているからです。水漏れや合うサイズが限られていること、そして古くなった技術といった問題が、宇宙服のアップグレードは急務だと強調しているのです。
今あるEMUsは整備が難しくなってきていて、柔軟性に欠けて可動域が限られているため、今後の月と火星ミッションには適しません。
例えば2013年にルカ・パルミターノ宇宙飛行士がヘルメット内での水漏れに見舞われたトラブルは、改良が大いに必要だと力説するものです。
2022年には、ESAのマティアス・マウラー宇宙飛行士が船外活動中にヘルメット内の水と湿気に気付き、NASAはいったん船外活動を保留して調査を待つことになるというハプニングもありました。
RTXの事業部門であるCollins Aerospaceはこういった課題に対して、現在のNASAのものと比べ軽量でかさばらず、容易に変更できるオープンアーキテクチャ設計を誇る次世代型宇宙服で対応しようとしています。
同社のチームは宇宙探索者の多様なニーズに応える宇宙服を開発するにあたって、現役及び元宇宙飛行士たちに協力を仰ぎました。
無重力テストには、元NASA宇宙飛行士が参加
新宇宙服の機能性を評価する今回のテストは、機内に作り出した疑似的な無重力環境の中で行なわれました。
新型宇宙服を着た元NASA宇宙飛行士のジョン・オリーバス氏とダニエル・バーバンク氏はフライトで、放物線飛行を利用した微重力環境をサポートチームと共に40回経験。その中で宇宙服の加圧システムのサイズ感や機能性、ISSのツールやインターフェイスの使用感、そして現EMUと比べての性能を評価したとSpaceflightNowは報じています。
「このテストのおかげで、制御された環境下で幅広い乗組員サイズと彼らのタスクを支えられる設計の具体的な目標を検証できました」と、Collinsの宇宙システムのPeggy Guirgisゼネラルマネジャーはコメントしています。
最終設計審査を前にCollinsは、テキサス州にある無重量環境訓練施設での水中テストや熱真空テストなど追加の評価を行なう予定。これらのテストは、宇宙を模したさまざまな環境下での宇宙服の機能を保証するうえで極めて重大です。
Collinsの取り組みは、宇宙探査を前進させる大きな構想の一部です。2023年7月に同社はxEVAS契約の一環として、NASAのアルテミス計画での月面ミッションに特化した船外活動用宇宙服を開発するという500万ドル(約7億5000万円)のタスクオーダーも追加で獲得しています。同社いわく、彼らの宇宙服は月面ミッションの90%近くに対応するとのこと。
その一方でテキサス州ヒューストンに本社を構えるAxiom Space(アクシアム・スペース)は現在、NASAのアルテミス3ミッションで使われる月面用宇宙服に集中しています。
Source: SPACE.com, SpaceflightNow, RTX business, Military & Aerospace Electronics,