6月8日にアップデートが発表されたアドビ(Adobe)のジェネレーティブAIエンジン「Firefly」。リリースから数カ月が経過したこのエンジンは、マーケターから一般の愛好家まで、さまざまなユーザーへのジェネレーティブAIの普及促進が期待される存在だ。
AIが作成した画像や動画に加え、アドビはソーシャルメディアやマーケティングキャンペーン、チラシやロゴなどの素材に使用するテキストの生成も開始した。一部の機能は「Adobe Fireflyエンタープライズ版」と呼ばれる新しいサブスクリプションベースのプラットフォームと、「Adobe Express」の無料ベータ版を通じて利用できるようになる(現在はデスクトッププラットフォームで、モバイル版は近日公開予定)。
ジェネレーティブAIの分野がますます勢いを増し、テック企業大手やスタートアップ企業が競って新機能を追加する。大小さまざまなブランドでジェネレーティブAIのテストや採用が続く。カンファレンスAdobe Summit EMEAで発表されたこのアップデートは、そのような状況において行なわれた。
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AI機能があたり前に
アドビによると、これまでにIBM、マテル(Mattel)、電通を含む「数百」のブランドやエージェンシーがFireflyでコンテンツを生成しており、2023年3月以降、ベータ版ユーザー向けにすでに2億枚以上の画像を生成しているという。また、アドビはユーザーが自社のブランド資産を使ってFireflyをカスタムトレーニングする方法を追加し、企業のブランドガイドラインや既存のクリエイティブ素材に基づいたコンテンツを生成できるようにした。
「このブランドガイドラインの問題は、クリエイティブチームにとって数十年来の課題だった」とAdobe Express製品の責任者であるイアン・ワン氏は述べる。「我々が目指すのは、Expressをよりアクセスしやすいプラットフォームとし、実際にブランドを定義しているクリエイティブのエコシステムと連携すること。この件に投資する真の理由は、各種プロジェクトの進捗スピードを上げることだ。なぜなら、それこそが我々の顧客が求めていることであり、連携していることこそが重要なのだ」。
この取り組みは、社内でのツール構築からアウトソーシングまで、さまざまな面でAIへの投資を進めていく企業が増えるなかで生まれたものだ。G2の新しい調査によると、ソフトウェア購入者は2024年にAIへの支出を60%増やす予定であり、ソフトウェア購入者の81%は購入するソフトウェアにAIが搭載されていることが重要だと考えている。
知的財産の補償さえも組み込む
過去数カ月間、多くの企業がジェネレーティブAIコンテンツの実験を行なってきたが、一部のジェネレーティブAIプラットフォームが抱える著作権問題やそのほかのリスクのために、躊躇している企業も多い。
アドビは、自社のAIモデルが適切にライセンスされたコンテンツのみを使用して学習するかどうかに、懸念を持つ顧客への保証が必要だと考えた。そこでAdobe Fireflyで作成されたコンテンツに関連する著作権訴訟に巻き込まれた顧客企業に対し、知的財産の補償を申し出ることさえしている。
「我々はそういったものをしっかり尊重するモデルに投資すべきだ」とワン氏は述べる。「オリジナルの明確化やAIで生成されたものとそうでないものの追跡に関する分野の先駆者として、指導的な役割の責任をさらに果たしてく」。
AIコンテンツのスタンダードはどの企業が構築するのか?
アドビは、新しいジェネレーティブAI機能を構築している多くの企業のひとつに過ぎない。マイクロソフト(Microsoft)、Google、オープンAI(OpenAI)のほか、最近自社のプラットフォームにさまざまな新しいツールを追加したキャンバ(Canva)、シャッターストック(Shutterstock)、ジャスパー(Jasper)、ライター(Writer)、ブリア(Bria)といった新興企業も含まれる。
ガートナー(Gartner)のアナリストであるアンドリュー・フランク氏によると、ジェネレーティブAIへの関心は、好奇心と疑念の両方あわせて「これまでないほどに高まっている」という。同氏は、「アドビにとっての課題は、ジェネレーティブコンテンツのスタンダードを構築することであり、同時にほかのテック企業との競争と協力、両方が必要である」と述べている。
「コンテンツのための商業的に健全なエンタープライズツールを作成し、知的財産の所有権やコンテンツの出所といったものを尊重することが重要だ」とフランク氏は語る。「これらの問題は、重要性の割にはこれまであまり注目されてこなかったのだ」。
[原文:How Adobe is adding new generative AI tools for enterprise clients and everyday users]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)