小売ビジネスの未来は Z世代 ウケにかかっている、かもしれない

DIGIDAY

ライブショッピング機能のテストに関して、マーケターや広告代理店、パブリッシャーやプラットフォームはまだ初期段階にある。しかし、ライブショッピングはとくに若い消費者にとっての今後のコマースメディアや動画コンテンツのあり方を決定するポテンシャルがあると信じられている。

ライブショッピングのコンセプトは、QVCショッピング(TVショッピング)チャンネルに似ている。ソーシャルメディアプラットフォーム全体で展開され、多くの場合コンテンツクリエーターが主催している。近年では、メタ(Meta)からAmazonまでの大手企業がライブショッピング機能の実験を行っている。

スタティスタ(Statista)のデータによると2022年には、アメリカ人の20%がライブストリームショッピングのイベントに参加しており、これはデンマークの24%に次いで2位だった。米国でライブショッピングについて聞いたことがあるが参加したことがない、という回答は3分の1にとどまっている。また、マッキンジー・デジタル(McKinsey Digital)の調査によれば、ライブコマースで最も人気のある製品はアパレルやファッションで、その後に美容や食品が続いている。

「パブリシス(Publicis)は、クライアントとともに米国でこれらのコマース機能をテストしている広告代理店のひとつである」と、パブリシス・コマース(Publicis Commerce)のVPリテールメディア戦略責任者であるアリサン・ランディ氏は言う。

同氏は、「消費者はAmazonやウォルマート(Walmart)でたくさんの時間を費やすよりも、(ライブストリーム)にログインして視聴するだろう。(ライブストリームにおけるショッピング体験は)あまり押し売り感がなく、そのことがコンバージョンを促進する」と語った。なお、同社はクライアント名は言及しなかった。

異なるショッピング文化と新興市場

ライブストリームショッピング、またはライブショッピングは、米国でも成長途中の市場だ。米国市場は2022年に200億ドル(約2兆7685億円)に達したが、中国ではさらに大きな成長が見られている。コアサイト・リサーチ(Coresight Research)によれば、2022年には中国のライブストリームeコマース取引市場が約4970億ドル(68兆8228億円)に達したという。アジアのほかの地域でも、成長は安定しているようだ。

ランディ氏は、「中国はインフルエンサーのフォロワーが多く、彼らは(ライブストリームが)どんなに長くても視聴するだろう」と、中国市場について話した。

WARCとGoogleによる3月の小売レポートでは、過去6カ月間のさまざまなチャンネル全体におけるオンラインでの商品購入事例の32%がライブストリームによるものだったと記された。ソーシャルコマースについては、購入事例の38%を占めていた。

この研究では、ライブストリームコマース、AR(拡張現実)およびVR(仮想現実)、およびソーシャルコマースが新興および拡大中のコマースであり、オンラインマーケットプレイスおよび小売業者のWebサイトは従来のeコマース取引とみなされていた。

「ライブショッピングは、起源であるアジアでは米国よりも成熟しているようだ」と、WARCのアジア太平洋地域のアドバイザリー主任であるアシック・アショカン氏は言い、アジアでは、「ショッピングとエンターテイメント」が組み合わされた文化であるのに対し、米国のライブショッピングはより「構造化され、シンプル」であると、米DIGIDAYに地域差を話した。

また、「アジアのプラットフォームでは、タオバオ(Taobao)などで、毎日数百万ドルが異なるカテゴリを超えて取引されている」と述べ、「ただし、米国ではこのトレンドはまだ上向きの軌道にあり、ハイエンド製品に焦点が当てられているため、まだ主流にはなっていない」と言及した。

実店舗での経験を再現するポテンシャルもある

米国におけるライブショッピングは、スポーツトレーディングカードのようなニッチ市場で差別化を図ることができるかもしれない。「人々がカードを開封する様子をファンがライブストリームで楽しむからだ」と、デジタルエージェンシーのアイフル・メディア(Eyeful Media)のデジタル戦略上級ディレクターであるライン・ヒギンズ氏は述べた。

「一部の人にとって、自分のカードを開封するのをほかの人に見てもらうことが楽しみになっている」と同氏は話し、「コミュニティを築いた小規模なメーカーがライブショッピングを通じて限定品や独占品を提供することで、クリエイターは視聴者とより深いつながりを築くことができる」という。

また、同氏はライブショッピングがまだ比較的「未開拓」であることに同意し、小売業者が実店舗での経験を再現するポテンシャルもあると述べた。大都市に拠点を置く高級ブランドやファッションブランドが、電話サポートやライブチャットの代わりに、ソーシャルメディアやイマース(Immerss)のような顧客プラットフォームを使って、商品の説明をするライブ通話を行うこともできるだろう。

次世代の消費者

インフルエンサーの商品おすすめやソーシャルコンテンツに向かう消費者が増えるなかで、ライブショッピングはとくにZ世代やミレニアル世代の買い物客にとって魅力的かもしれない。レーザーフィッシュ(Razorfish)の消費者およびコンテンツ体験担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるクリスティーナ・ローレンス氏は、Z世代の消費者はとくに支払いプロセスからショッピング体験に至るまで、没入型体験に魅かれる傾向があると説明する。

「個人的な関係を(デジタルで)どう維持するか、ショッピングの仕方、商品の購入決定、モバイル決済まで、Z世代の消費者たちはデジタルにおける行動の変化を本当に推し進めている」と同氏は言う。「彼らにとって、デジタルこそが現実だ。彼らは、自分たちが大切にするブランドやコミュニティとつながるのに役立つ、現実とデジタルが混ざった体験を求めている」。

米国では、18歳から34歳の層が2022年に最もライブコマースの利用が高かったと、スタティスタにより報告されている。彼らの10%が定期的にショッピングチャンネルを利用しているとし、一方で55歳以上の人々はライブショッピングをしたことがなく、興味がないという。また、ライブショッピングでのお気に入りの商品について尋ねられた時、米国の男性と女性の消費者にとって最も人気があるカテゴリは衣類だった。

定着しつつあるライブショッピング

IPG傘下のUMワールドワイド(UM Worldwide)で米国コマース責任者を務めるアミー・オーウェン氏は、過去1年間でより多くのクライアントがライブショッピングに関心を持つようになったと以前、述べている。とくに現在は、「より多くの消費者がソーシャルメディアに参加しているため、これはリテールメディアとショッピングがひとつの場所で一体化し、コマースメディアの未来を形作ることになる」と同氏は付け加えた。

パブリシスのランディ氏も、クライアントたちがテック製品や美容製品を(ライブショッピングで)紹介したがっていると話す。これらの製品は説明が必要で、チュートリアルを行うコンテンツ形式に適している。そして、セレブやクリエイターを招いてその商品を使ったライブストリームを行うことで、より多くの興奮を生み出すことができるのだ。

ヒギンズ氏も、今後ライブショッピングが普及するかどうかは、いくつかの要素によって決まるだろうとおおむね同意している。「(扱うものが)限定商品または独占商品である必要がある。また、そのような体験があることは知られており、かつよいものとして評価されているうえで、同じものを再現できないような体験を作り出さなければならない」と話し、「趣味で、人々がその体験やショーを楽しむために動画を視聴するものでなければならない」と付け加えた。

ソーシャルと動画コマースの未来

エージェンシーやブランドがこの分野で実験を続けるなか、ライブショッピングは中小企業にとっても、魅力的でかつブランドのデジタルにおける存在感を伸ばすことができるという意見もある。WARCのアショカン氏は、小規模なビジネスもリアルタイムで商品をより広いオーディエンスに紹介できると考えている。

「同様に、消費者はブランドとの直接的なやり取りを通して、よい価格設定も体験できる」と同氏は言う。「高速インターネットとデジタルの普及が世界的に進むなかで、ライブショッピングが世界中で主流な現象になる可能性は非常に高い」。

インフルエンサーエージェンシーであるビリオンダラーボーイ(Billion Dollar Boy)の英国シニアデータアナリストであるトム・ハーヴェイ=ジョーンズ氏は、「主要な小売業者がコンテンツクリエーターに目を向けるにつれてソーシャルコマースも増加しており、短い動画が引き続きエンゲージメントを促進している」と述べている。

「TikTok、リールズ(Reels)、YouTubeショーツ(YouTube Shorts)での短編コンテンツへの関心が再び高まるにつれて、ひとつひとつのトレンドの寿命はますます短くなるだろう」と同氏は言い添えた。

ライブショッピングは実店舗での購入も促進

しかし、ライブストリームコマースをスケールすることは、物流上の課題や「ソーシャルメディア疲れ」などいくつかの課題がある。アショカン氏は、より多くのブランドやソーシャルプラットフォームがショッピング機能を拡大するにつれて、競争が増えるだろうと予想する。

「物流、顧客サービス、ロイヤリティ、支払いソリューションなどの問題も考慮する必要がある。よい成長軌道に乗っているが、ブランドはライブショッピングの舞台裏で適切なソリューションを採用し、発見から購入に至るまで素晴らしい体験を提供する必要がある」と、同氏は付け加えた。

また、買い物客は時間とともにソーシャルメディアのインフルエンサーに飽きてしまったり、その誠実さに疑問を持ったりすることがある。このことは、次回のライブショーに戻ってもらえるような消費者を引き付ける何かがない場合、エンゲージメントに影響を与える可能性がある。

ただし、ライブショッピングが進化することで、実店舗に直接足を向けての買い物を置き換える可能性も考えられる。そのため、ストリームで紹介される製品を視聴者がその場で購入しなかったとしても、結果的に全体として動画コマースの利用が増加することに寄与する可能性があるのだ。

「ノードストロームのWebサイトに行けば、商品詳細ページがあり、そこで販売員が商品を紹介する画像がある。これは、動画やライブストリームのかたちで実店舗の体験を提供する新しい方法だと思う。そのことで購買者は実店舗に行かせなくても済むのだから」とランディ氏は言った。

[原文:How live shopping is shaping the future of retail

Antoinette Siu(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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