カンヌ――それは人脈づくりと取引交渉、そしてときに二日酔いが渦巻く場所。そして、クリエイティビティと熾烈な競争がぶつかり合う世界だ。このアドレナリン全開のイベントをたった1冊のガイドブックをたよりに渡り歩くなんて、到底無理な話だ。
そこで本記事では、広告業界のベテランたちへの丹念な取材から得たカンヌ裏側情報をお送りしよう。彼らが苦心の末に築いてきた知恵と型破りな戦略に裏打ちされた情報だ。経験豊富なエグゼクティブたちは、カンヌという荒波のなかを、ただ生き残るためにではなく成功することを目指して、自身の秘策や独創的な戦略に磨きをかけてきた。ここに記すのは、陽光降り注ぐ可能性の舞台でゲームの頂点に立ち続けた業界の異端児たちの、知られざる真実である。
カンヌを賢く渡り歩くための裏情報:各社幹部たちの知恵とは
AIマーケティング会社コグニティブ(Cognitiv)でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるジャスティン・フロスタッド氏
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これまでカンヌといえば、「大酒飲み」や「エンドレスでパーティ三昧」といったようなイメージがつきまとい、少し身構えるような、まるで春休みを間近に控えた卒業前の学生のような気持ちにさせるところがあった。今も酒好きのためには24時間飲める環境が整っているが、一方でアルコールを介さずとも人との繋がりを築き、カンヌのもつ途方もないエネルギーを体験する方法がたくさんある。
「飲まない」という選択が、必ずしもチャンスを失うことを意味するわけではない。重要なのは、場所を見つけること、そして手にしたグラスの中身よりもあなた自身に注意を向けてくれる人を見つけることだ。コグニティブでは飲酒の場に限定されない幅広い出会いの場を提供できるよう意識的に努力している。
たとえばダイビングツアー「ディープダイバーズ」、波止場で楽しむ毎日のスムージー、アート集団ザ・モーメント(The Moment Co.)とのコラボによるガイド付き瞑想などのほか、当社の「トロピカルソワレ(夜会)」やドラァグクイーンと一緒に楽しむ「ドラァグビンゴ」イベントではおいしいノンアルコールカクテルを提供しており、飲まない人の選択肢はジュースかソーダだけ、ということにならないように配慮している。
これは我々が年間通じてすべてのイベントで取り組んでいることだ。アルコール代替品の用意は後回しにされることが多いが、誰もがその場に受け入れられていると感じ、このイベントに十分に参画できていると実感できるようにすることは、間違いなくポジティブな効果を生むからだ。
広告プラットフォーム、シント(Cint)でマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるクマール・ドーシー氏
すべきことは、カンヌを実感することだ。きっとカンヌ到着前は、行動予定表を手にあれこれ思い悩むだろう。ミーティングの数はこれで十分だろうかと。しかし現地に着いたら、初日にだいたい理解できるだろう――偶然の出会いを大切にするというカンヌの本質を受け入れるべきだ。予定されたミーティング以外の時間も楽しんでほしい。私自身、スケジュールにあったディナーの後、ケバブ屋で生涯のパートナーに出会った。
してはいけないことは、ボトル入り飲料水の値段に文句を言わないことだ。それはコストであり、納得いかないかもしれないが全員が了承している。
コンテクスチュアル広告企業ガムガム(GumGum)のCEO、フィル・シュレーダー氏
編み上げサンダルやさまざまなテキスタイルを使った「チャンキー」なスタイルがおすすめだ。カサブランカ(Casablanca)、ミッソーニ(Missoni)、ボーディ(Bode)などをチェックしてみてはどうだろうか。
フランスのAI開発企業サイビッツ(Scibids)のCMO、ナディア・ゴンザレス氏
ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港を日曜夜に発つ夜行便でニースへ向かう場合、ほぼ間違いなく隣の席には業界関係者が座っている。振る舞いには十分気をつけよう。この業界でもっとも重要なことのひとつだ。
グローバルSSP、ワンタグ(Onetag)のデマンド・セールスディレクターを務めるシルケ・ゼッチェ氏
朝は自分のためにゆっくり時間をとろう。カンヌの美しい景色を楽しみつつ、泳ぎに行ったり朝のランニングに参加したりして、クリアかつ新鮮なマインドを整え、これから始まるミーティングやネットワーキングのチャンスに備えよう。
行動分析プラットフォームであるライン(Rayn)のCEO、ティム・ギーネン氏
もし途切れることなくミーティングの予定を組んでいるなら、30%は欠席になるものと想定しよう。会話に夢中になってしまったり、イベント会場の端から端まで移動しなければならなかったりするため、ある程度の柔軟性を持たせる必要がある。ヨーロッパでのミーティングの予約には、Whatsapp(ワッツアップ)を使用するのが望ましい。
エクササイズしようと目論んでカンヌに参加するなど、もってのほかだ。早朝ヨガに申し込んでもサボってしまい、嫌な気分になるだけだ。服装面では、きっとボートシューズをたくさん目にするだろう。アメリカ人がヨーロッパの夏のイベントに参加するときは、絶対にこれを選ぶ。
アドテク企業ライブランプ(LiveRamp)のプロダクト担当シニアバイスプレジデント、ダニエラ・ハーキンス氏
炭酸水の「ペリエ」にはたっぷりお金をかけること。
データテクノロジー企業であるインフォサム(InfoSum)のチーフ・オペレーティングオフィサー、ローレン・ウェッツェル氏
カンヌの常連である私がこれまでの経験から学んだ優先事項は、重ね着だ。一部の会場ではエアコンがフル稼働で凍えそうなほど寒く、ミーティングやイベントの会場間を移動する際には温度差への耐性が試される。あるいはエアコンの効いた室内でしばらく過ごすときのためにセーターかジャケットを持っていこう。それから、ラップトップPCは置いていき、バッグに余裕を持たせよう。ほとんどのミーティングは直接顔を合わせて行われる。スライドを1枚1枚見ていくやり方ではない。
メディアエージェンシー、エイジェンシ(Eidgensi)のジェネラルマネージャーを務めるジョージ・テルトワ氏
絶対に必要なのは、日焼け止めだ。6月はとても暑く、紫外線も強い。服装についてはあまり深刻に考えすぎなくてよい。普段の休日のようなスマートカジュアルで問題ないだろう。南仏だからといって、コートダジュールのセレブを気取った服装をする必要はない、と頭に入れておこう。
メディアエージェンシー、グループMネクサス(GroupM Nexus)のチーフグロースオフィサーを務めるズザンナ・ギェルリンスカ氏
上手く着こなしを工夫しよう。カンヌの天気は素晴らしくよいが、暑い。ミーティングからミーティングへと屋外を動き回らなければならないため、フォーマルなビジネスウェアは捨てよう。会場で会う先輩諸氏も、そんなものは着ていない。もし私と同じようにハイヒール好きの女性の方がいたら、ウェッジソールがおすすめだ。ウェッジの靴なら上品に見える。それに、日中たっぷりとワインを飲んで過ごし、さらに夜更けのガターバー(The Gutter Bar)までと、長い一日を頑張る脚にも優しい。
モバイル広告企業インモビ(InMobi)でバイスプレジデント兼欧州・中東・アフリカ地域(EMEA)担当マネージングディレクターを務めるアンディ・パウエル氏
朝食ミーティングに始まり、ハッピーアワー、深夜のパーティに至るまでカンヌで鍵となるのは「準備」だ。靴があなたの満足度を決めるため、賢く選ぼう。そして全体を通して、服装選びも重要だ。6月のカンヌは暑い。
フランスに本社を置くテック企業エクエイティブ(Equativ)の元CMO、マイケル・ネビンズ氏
カンヌにいること、おそらくは会社が旅費を負担してくれているのだろう。雇用されていることに感謝しよう。この業界では今、多くの人が職を失い、多くの企業が苦境に立たされている。あなたがソーシャルメディアで投稿をシェアするときには、これらすべてを心に留めておくことだ。
アドテク企業ID5のCEO、マシュー・ロッシュ氏
カンヌライオンズには何度も参加しているベテランのロッシュ氏は、フレンチ・リビエラでは米国ほどエアコンが普及しているわけではないと指摘している。「これはカンヌでの1週間の日程を組む際に覚えておくべき重要な要素だ」。
フランス生まれの同氏はカンファレンス参加者にそう説明し、おそらくは焼け付くような気温のなかでビジネス交渉をすることになるだろうと注意を促した。そして、「自分がこれからどこへ行くのかを知り、それに備えること、そしてエアコンの効いた場所でクールダウンできる時間を確保することが重要だ。我々ID5としてはその点(そういった施設を提供していること)を売り込みたい」と話している。
[原文:How industry vets tackle Cannes]
Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)