パブリッシャーの サステナビリティ 活動、鍵は「サプライパス最適化」?

DIGIDAY

広告主たちはメディアの買い付けで、サステナビリティを重視することに経済的なインセンティブを見出しはじめている。結果として、メディアにのしかかる重圧も日増しに増大する。二酸化炭素排出量を測定し、ゆくゆくはその削減または削減できない分の埋め合わせをすべし、と迫られるのだ。

しかし現時点では、二酸化炭素排出量の報告に努めるパブリッシャーたちが、それぞれの実態を明確どころか正確にすら伝えていない可能性は十分にある。

企業の二酸化炭素排出量は依然として曖昧な部分が大きく、その測定は容易でない。たとえ最善を尽くしたとしても、排出量を測定するツールが改善されるに伴い、長い目で見れば増えてしまう可能性すらある。さらに、ジェネレーティブAIのような新しい技術が登場すれば、それを活用する企業の排出量も勘定に入れなければならない。

とはいえ、できることはまだある。実際、インサイダー(Insider)、ガーディアン(The Guardian)、ハースト(Hearst)らは、デジタル広告にまつわるCO2など、自分たちが測定できる二酸化炭素排出量を削減したり相殺したりする試みを始めている。

CO2削減は事業戦略

運用型広告のサプライチェーンマネジメントを支援するジャウンスメディア(Jounce Media)の創業者であるクリス・ケイン氏の指摘によると、パブリッシャーたちは運用型広告のサプライチェーンが環境に与える影響について、「その解決策を模索せよ」というバイサイドからのプレッシャーにさらされているという。

ケイン氏は、「運用型広告のサプライチェーンは『不要なオークションの繰り返し』に満ちている。というのも、パブリッシャーたちは必要とあればどんな手段を使ってでも、自分たちの広告在庫を売らなければならないという固定観念に囚われているからだ。現在の経済情勢ではなおさらだろう」と語った。

続けて、「ひとつの広告枠を1回のオークションで売ればよいところ、しばしば10回を超えるオークションが実行される。これでは買いつけのプロセスが複雑化するだけでなく、二酸化炭素の排出量も増えてしまう。そして、こうしたSSPの大半、あるいはSSPに至る経路のほとんどは結局不要で使われずじまいだ」と嘆いた。

2023年第1四半期、インサイダーはCO2排出量の測定を支援するスコープ3(Scope3)と連携して、自社が排出する二酸化炭素全体の20%を削減した。レヴェニューオペレーションとデータ戦略を統括する広告担当シニアバイスプレジデントのチャオ・リャオ氏によると、同社が広告販売に使うSSPの数を減らしたわけではなく、SSPに至る経路、いわゆるサプライパスを最適化した結果だという。

リャオ氏は、「SSPの設定を見ると、さまざまなテキストファイルやリセラーなどが記述されており、これらがサプライチェーンを構成している。我々が最初に着目したのはまさにここで、収益を生まず、広告リクエストを出さないサプライパスを事前に排除した」と説明する。

これはいわゆるサプライパス最適化(SPO)という戦略で、ジャウンスメディアのケイン氏は「多くの広告主やパブリッシャーにとって、CO2排出量を削減するためにいますぐできる、より効果的な取り組みのひとつだ」と話す。

デジタルサプライチェーンの簡素化

一方、インサイダーのリャオ氏は「たとえば、あるSSPに『御社とはもう取引しない』と言ったところで、当のSSPにとってそれほど大きな痛手とはならない。彼らの事業に大きな衝撃を与えるわけではないのだ。しかし、いま取引のあるすべてのSSPに、『もっとサステナブルな協業関係を模索したい』と言えば、それは業界によい結果をもたらすだろう。基本的に、パブリッシャー1社がSSP1社を取引停止にするだけでは、何の改善にもならない」と述べた。

ガーディアンの最高広告責任者を務めるイモジェン・フォックス氏は、「ガーディアンもデジタルサプライチェーンの簡素化に注力している」と話す。同氏によると、ガーディアンは60社のアドテクベンダーと取引があり、2022年に大手ベンダーの多くに各自のCO2排出量を訊ねたところ、回答できたベンダーはほんのひと握りだったという。

フォックス氏は、「中間業者の一部をデジタルサプライチェーンから排除し、広告主とパブリッシャーの距離を縮めることができれば、無駄な排出量を大幅に減らすことができる」と語る。しかし、年内にデジタルベンダーを減らす努力や、既存業者を対象にSPOを実施するかどうかについては名言しなかった。

このほか、ハーストのサステナビリティ活動を統括するデイヴィッド・キャリー氏は、アドテク中間業者の合理化や集約に向けた社内の取り組みは承知していないとする一方、「自社のデジタル広告事業による温室効果ガスの排出量をより正確に把握するため、スコープ3のようなCO2排出量の測定企業と提携することを検討している」と語った。

「広告主と消費者の中間には多くの業者が介在しており、それぞれが収益の一部を受け取っている。そしてその収益にもCO2の排出はついてまわる」とキャリー氏は話す。なお、同氏はハーストの広報およびコミュニケーション担当シニアバイスプレジデントも兼務している。

ネットゼロ実現への道

ほとんどのパブリッシャーは相も変わらず、近い将来のいつかに「ネットゼロ」または「カーボンニュートラル」を達成するという途方もない目標を掲げているが、実際に達成できるか否かはいまのところ未知数だ。

  • リャオ氏によると、ドイツのメディアコングロマリットであるアクセルシュプリンガー(Axel Springer)は、2045年までに二酸化炭素排出量を90%削減し、2024会計年度末までにその削減、または相殺による気候中立をめざすという。なお、同社は2005年以来、自社のサステナビリティ報告書を公開している。
  • フォックス氏によると、ガーディアンは2030年までに、営業活動とサプライチェーン全体から排出される二酸化炭素の少なくとも3分の2を削減する計画だという。
  • ハーストは2021年にサステナビリティ活動を開始した。2022年11月には「サステナビリティ概観(Sustainability Overview)」という報告書を公開しているが、ネットゼロ実現の目標期日はまだ定めていない。

企業の二酸化炭素排出量は「スコープ」という3つの区分に分けられるが、完全な測定は依然、信じがたいほどに困難だ。

「サステナビリティ活動をPRやいわゆる美徳シグナリングとして始める企業もある」とハーストのキャリー氏は話す。「そういう企業は大層な目標を掲げるだけで、計画性がない。CEOは2040年とか2050年までにネットゼロを実現すると宣言するが、唯一確実なのは2040年とか2050年にこの人物がCEOでないということだけだ。説明責任は先送りというわけである」。

ハーストがネットゼロ達成の目標期日を明言しない理由について、同氏はこう説明している。「まず、データ量を改善する必要がある。紙切れに書いたら見栄えがよいからやるのではなく、本気で取り組む気があるということだ」。

エマージングテクノロジーの影響

ジェネレーティブAIが世間で話題だが、何年か前にNFTやWeb3をめぐって環境への懸念が提起されたように、こうした新しい技術には二酸化炭素排出という重荷がつきものだ。

インサイダーを含む多くのメディア企業がジェネレーティブAIを活用したツールを報道の現場で実証実験すると表明しているが、実証実験といえども環境への負担は免れない。

インサイダーの親会社であるアクセルシュプリンガーは2021年にスコープ3の測定値を報告しているが、2023年には計上する項目がさらに増えていることだろう。

一部の悪質業者

ジャウンスメディアのケイン氏は、「運用型広告のサプライチェーンから排出される二酸化炭素量の問題は、ほんのひと握りのパブリッシャーに集中している」と述べている。もっとも悪質な10社から20社で、「業界全体のCO2排出量の半分を占める」のだという。

同氏が名指しを避けたこれら悪質業者の大半は大抵、広告収入狙いのWebサイトを運営している。さらに、ユーザーセッションあたりのプログラマティックオークションの回数も、ハーストのようなパブリッシャーの100倍から220倍にものぼるという。

そうしてみると、ハーストやインサイダーやガーディアンらの努力は、たとえて言うなら、裕福なセレブリティがほぼ日常的にプライベートジェットで飛び回るかたわら、普通の人が環境保護のためにせっせと紙ストローを使っているようなものかもしれない。

[原文:Media Briefing: Why publishers’ sustainability efforts should start with supply path optimization

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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