デジタル広告 は高い割に透明性を欠く、不確かな広告なのか?

DIGIDAY

デジタルブームのなか、オンライン広告費が上昇し、データのプライバシー保護の取組みで測定値の意義が損なわれており、デジタル広告はいま、割高で不透明だと考えられている。

その結果、スタートアップの広告主のなかには、利用するメディアの多様化や、顧客の目に直接触れる新たな方法の模索を念頭に、ダイレクトメールやOOH広告のような従来の広告チャネルに戻るところもでてきた。

「何でも数値化できる、超個別化広告の作成も可能ではないかと万能薬を妄信し、ダイレクトレスポンスマーケティングに傾倒しすぎていた」。そう話すのは、アドエージェンシーのバークレー(Barkley)で戦略・コミュニケーションプランニング担当シニアバイスプレジデントを務めるジュリー・レビン氏だ。同氏によると、デジタル広告のソリューションやバニティメトリクス(虚栄の指標)は決して、業界の一部から期待されているような万能薬ではないという。つまり、それがあるからといって、膨大な量のオーディエンスにリーチしたいと考えるブランドが、ブランドの認知や従来のチャネルを即戦力として使えるようにはならないのだ。

DMに集まるブランドの熱視線

このところ、特にブランドから注目されているのがダイレクトメールだ。主にスタートアップやD2Cブランドで、たとえばペット向け医療サービス企業のファジー(Fuzzy)寝具・ライフスタイルブランドのパラシュート(Parachute)は両社とも、ダイレクトメールの利用が増えている。一部の広告主のあいだではOOHも注目されており、コロナ禍では特にその傾向が見られた。

とはいえ、世の中が著しくデジタル化が進むなか、従来のマーケティング戦術に完全に戻るというわけでもない。世界全体でみると、デジタル広告の支出は今年2023年は6260億ドル(約85兆円)を超えるとみられており、調査会社インサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)によれば、これはメディア支出全体の67%以上を占め、2022年の5670億ドル(約77兆円)から10.5%増加している。

一方、インサイダー・インテリジェンスの調査では、OOH広告費が徐々に伸びており、2021年の米国は70億ドル(約9450億円)をちょうど超える程度だったものの、2022年には80億ドル(約1兆800億円)に届く勢いだという。なお、データ分析会社スタティスタ(Statista)の報告では、米国のダイレクトメールマーケティング支出をみると、2021年の419億ドル(約5兆6600億円)から2022年は上昇を見せたものの、430億ドル(約5兆8000億円)をわずかに超える程度だとみられた。

また、デジタル世界が進化するにつれて、効果測定やオーディエンスのトラッキングが可能なテクノロジーが使えるようになり、従来のマーケティングチャネルも進化している。テクノロジーの進化のおかげで、たとえば屋外のOOHスペースにデジタル広告を掲載することも、ダイレクトメールにQRコードを添付することも今では可能だ。こうした新しい機能があるので、一部では、この手のチャネルに対する広告主の信頼が向上し、その結果として広告費上昇が見られた。

従来型とデジタルのミックス

ある広告エージェンシーの幹部が匿名を条件に話してくれたところによると、従来のチャネルの予算は、額でみれば依然として少なめであるものの、割合は増加しているという。同氏いわく、2022年にダイレクトメールやOOHのような広告に予算の2%から3%を回していたスタートアップ各社が現在では、5%から10%の予算を回している。

バークレーでも同じような話が聞かれた。レビン氏によると、QRコードのおかげで、顧客が再びダイレクトメールに関心を持ち始めたのだという。ただし、従来のマーケティング戦術に割けるスペースを増やせるほど、予算全体の増額には至っていないと同氏は話す。その代わり、顧客の広告予算は細かく分割されて、効果的に使えるようになっているという。さらにバークレーでは、TikTokへの予算集約の動きに対抗して、有料チャネルと従来のチャネルの併用など、多様化が進むメディアミックスを顧客に推しているとレビン氏は説明した(バークレーには具体的な支出額を尋ねたが、記事掲載までに回答はなかった)。

「ここにあるのは、従来のやり方とデジタルのやり方を、これまでに見たことがないようなシームレスな方法で融合させようという発想だ」とレビン氏。「まるで『従来』が指す意味を上書きするようなもの。今起きているのは、再定義といえるだろう」。

広告エージェンシー、オーシャン・メディア(Ocean Media)のプレジデント、デービッド・コールマン氏が説明するように、特に先行きが不透明な経済状況が話題になるなか、業界では今、多くの広告主がメディアミックスのさらなる多様化に関心を寄せている。

「マーケターはリスクの分散に注目しているが、ラジオやダイレクトメールなどの従来のチャネルを増やせば、リスクの分散も実現可能だ」とコールマン氏は米DIGIDAYにメールで回答した。「それにこの数年、従来のチャネルは需要の低迷で、割引価格が適用されるケースが多い」。

CTVは測定に懸念

IT技術の進歩で、従来のチャネルにもデジタル化がもたらされているが、トラッキングや効果測定の精度は完璧とはいえない。特に、メタ(Meta)やGoogleのようなプラットフォームが提供するものとは大きな違いがある。たとえば、ストリーミング広告スペースのフラグメンテーションの問題では、広告主がCTVの「約束の地」にたどり着くのはまだ先であることがわかる。

オンライン滞在時間の延長に伴い、広告環境のこうした変化で大きな痛手を受けているのは従来のチャネルだ。インサイダー・インテリジェンスの調査によると、すでに減少していたリニアTVの広告シェアは、2022年、さらに減少を見せている。2020年の71%から2021年の62%、2022年には57%にまで減少した。

飽和状態が加速する広告市場にあって、今後のメタやGoogleにソリューションを求める広告主もいる。

広告エージェンシー、コードスリー(Code3)のメディア担当バイスプレジデント、イボンヌ・ウィリアムズ氏は「SNSは、iOS 14の変更やらシグナルの喪失やらいろいろな問題を抱えていて、一部の広告主は依然としてどのプラットフォームでSNSに戻ればいいのか決めかねている。一方のプラットフォームでは、一段と多様化が進んでいる」と説明する。

結局は多種多様なチャネルにばら撒かれる?

ウィリアムズ氏の話では、業界では従来のマーケティングツールとしてダイレクトメールが注目を集めているという。とはいえ、結局、予算が使われるのはデジタルメディアであり、ソーシャルメディアがメインになる。

「デジタルであっても、広告スペースには広告主がひしめき合い、なかなか厳しい状況だ。引き続き、SNSの新興プラットフォームに注目することになるだろう」とウィリアムズ氏は話し、Lemon8ビーリアル(BeReal)などの候補を挙げた。

広告主は今後も現在のデジタル広告の環境下で、広告予算を配分するので、この先どうなるのかはまだわからない。

オーシャン・メディアのコールマン氏は「広告主は今、売上を伸ばすために顧客にリーチできるチャンスがほかに何かないのか探しまわっている」と話す。「その結果、最終的には多種多様なチャネルに予算がばらまかれることになるだろう」。

[原文:Why some advertisers are reconsidering old school marketing channels

Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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