ルイ・ヴィトン ×草間彌生、ブランドの「大ヒット」術【ファッション・ブリーフィング】

DIGIDAY

ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)は、ハンドバッグを中心に大人気を博した日本人アーティスト草間彌生氏との2012年のコラボレーションの続編を発表した。よほど世の中に疎くない限り、すでに誰もが承知のことだろう。

草間氏のシグネチャーである水玉をあしらった400点以上の洋服とアクセサリーから成る今回のコレクションは、その巧みな演出と世界規模の文化的レレバンスのあるスターを集結させたキャンペーンのおかげで、大きな反響を呼んでいる。ルイ・ヴィトン×草間彌生の米国でのローンチから1週間後となる1月6日には、ファッションの重要な歴史的瞬間であることが証明された。同時に、2023年の「大ヒット」となるブランドマーケティングの教訓を提供している。

キャンペーンとコレクション

5月に行われたルイ・ヴィトンの2023年クルーズ・ファッションショーは、1月1日に中国と日本の販売チャネルで最初に発売された今回のコラボレーションのティーザーとしての役目を果たした。各市場でのローンチに伴い、スーパーモデルを起用した3Dデジタルサイネージ、草間氏の顔のビルボード、一面を飾る印刷メディア、街中を走る水玉のバン、草間氏のインスタグラムで人気のアートインスタレーションから着想を得たハイテクなフィジカル・アクティベーションなどが広く行われた。

ロンドンのセルフリッジズ(Selfridges)、ルイ・ヴィトンのシャンゼリゼ店、ニューヨークの2カ所のポップアップストアといった店舗では、レインボーカラーの鮮やかな水玉が建物の外壁を覆い、エントランスを飾る。売り場全体が草間氏の遊び場へと変身し、水玉のデザートまで提供される。ウィンドウディスプレイには本物そっくりの草間彌生ロボットが姿を見せ、水玉を描く。さらにQRコードからは、草間氏の創り出す「無限」の世界へとさらに没入するAR体験ができる。

製品コレクションとしては、ルイ・ヴィトンの新製品および既存の製品に、草間氏の有名な水玉やかぼちゃのモチーフがあしらわれている。その中には、365ドル(約4万7000円)のフレグランスボトルや1万3000ドル(約167万円)で販売されるサーフボードも含まれている。ルイ・ヴィトンx草間彌生の第一回目のコラボレーションは、当時ルイ・ヴィトンのクリエイティブ・ディレクターだったマーク・ジェイコブス氏にが推進したものだ。

インパクト

データ分析会社ローンチメトリックス(Launchmetrics)によると、ルイ・ヴィトンx草間彌生の新コレクションは、1月13日までの7日間で、1540万ドル(約19.8億円)のメディアインパクトバリュー(MIV)をもたらした。MIVは、インフルエンサー、印刷メディア、セレブリティ、公式サードパーティパートナー、ブランドのメディアチャネルの総合的な影響を測定する。MIVの88%にあたる1350万ドル(約17.4億円)は、ソーシャルメディアによるものだ。K-POPラッパーのキム・ミンギュ氏と、キャンペーンに登場するベラ・ハディッド氏のインスタグラム投稿がもっともメディアで話題になった。

「没入型のアートインスタレーションや目をクギづけにするアイテムによって活気づいている今回のキャンペーンは、『インスタ映え』や『インスタ向き』の瞬間がオンラインでバイラルを生むという今日の文化をうまく活用している」と述べたのは、ローンチメトリックスのCMOアリソン・ブリンゲ氏だ。「そして草間氏のアート作品が、世界中のルイ・ヴィトンのブティックに設置され、ソーシャルメディアに表示されて、通常のラグジュアリーな消費者を超えて広く共鳴している」。ルイ・ヴィトンからはこの記事へのコメントはもらえなかった。

店舗の役割

ルイ・ヴィトンx草間彌生キャンペーンを取り巻く注目を主に牽引しているのはソーシャルメディアだが、物理的な構成要素もコンテンツの大きな焦点となっている。

東京とニューヨークでは、今回のキャンペーンが「街の景観を支配している」と述べたのは、ブランディング・エージェンシーのジェネラルアイデア(General Idea)の共同創業者で、両都市でキャンペーンを目にしたイアン・シャッツバーグ氏だ。「自分のスマホで見ることよりも、物理的な要素に興味がある」と彼は述べ、そう思うのは自分だけではないと確信している。「パンデミックの後、世の中にはスクロールを見つめることに対する疲れがある」。

そのためブランドは、デジタル広告から、今月ルイ・ヴィトンが画策したような「リテールシアター」のようなタイプへと、さらに支出をシフトしていくだろうと彼は予測している。スクリーンは没入型のストーリーテリングを促進し、買い物客の携帯電話がその体験を増幅させる役割を果たすだろう。ジェネラルアイデアのクライアントには、プラダ(Prada)やスワロフスキー(Swarovski)などがある。

人生は芸術を模倣する

今回のキャンペーンで、ルイ・ヴィトンはさまざまな方法でポップカルチャーを活用することに成功している。93歳の草間氏のアートに命を吹き込むことは意図的なものだが、多くのインスタグラマーやTikTokerにとって、キャンペーンのさまざまな要素が、ある番組を連想させるものでもあった。

12月末にNetflixで配信がスタートしたドラマ『エミリー、パリへ行く(原題:Emily in Paris)』の第3シーズンのあるエピソードは、架空のファッションデザイナー、ピエール・カドーの革新的な店舗が舞台となっている。草間彌生ロボットのように、カドーをモデルにした等身大のフィギュアが正面のウィンドウの中央で買い物客を出迎える。

ロンドンを拠点とするインフルエンサーのハナ・マーティン氏は、セルフリッジズでのルイ・ヴィトンx草間彌生のディスプレイを撮影したTikTokに「現実世界のピエール・カドー」とキャプションを付けた。その動画のコピーではドラマの主人公に言及し、「ルイ・ヴィトンがエミリー・クーパーをマーケティングに雇った」とある。この動画は50万回以上視聴されている。これは、ほんの一例だ。

Glossyのファッションレポーター、ゾフィア・ツヴィリンスカ氏もセルフリッジズのアクティベーションを訪れ、インスタグラムのストーリーでピエール・カドーの店との別の類似性を指摘した。彼女は店内の草間氏のホログラムの画像に「見て、『エミリー、パリへ行く』のホログラムが現実に」とキャプションを添えた。

だが、2012年に行われた第一回目のルイ・ヴィトンx草間彌生のコラボレーションのプロモーションで、等身大の草間氏が店のウィンドウに登場したこともここに記しておくべきだろう。

Netflixは、『エミリー、パリへ行く』で紹介された(時に議論を呼んでいる)マーケティングの動きの背後にいるブレーンに関する問い合わせへの回答を避けた。ファッション小売業者ブーフー(Boohoo)によるGoogle検索データの新しい調査によると、2022年にファッションの買い物客に影響を与えた番組のなかで、『エミリー、パリへ行く』はHBOの『ユーフォリア/EUPHORIA(原題:Euphoria)』に続いて2位にランクインしている。

フォーカスの重要性

シャッツバーグ氏によると、ルイ・ヴィトンの草間氏本人と水玉への「ハイパーフォーカス」は、このコラボレーションキャンペーンを「大ヒット・モーメント」と彼が判断するにあたり、極めて重要な点だった。

「選択肢が氾濫する状況において、ブランドは『これこそが関心を寄せるべきメッセージであり、瞬間である』ということを伝えるアプローチを強化している」と彼は語る。「これはブランディングのコアバリューへの回帰だ。(人々は)コンテンツにどっぷり浸かっており、(その雑音を)はねのけることは難しい。ブランドはメッセージという点において、正確に特定の狙いを定める必要がある」。

同時にルイ・ヴィトンは、ニッチではなく、グローバルなオーディエンスに対して語りかけることをうまく成し遂げている。

「インターネットは(人々の焦点を)いくつものニッチへと細分化した。」と彼は言う。「グローバルなストーリーのようなものを作るのは非常に難しい。だが、(ルイ・ヴィトンは)ソーシャル、店舗、広告、体験、ポップアップなど、あらゆる方面でベストを尽くしている。世界的な注目を牽引するために、大ヒットを生みださなくてはならなかった。そしてそれは(大規模な)投資に依存するのではなく、より少ない投資で多くのことを行うことなのだ」。

ルイ・ヴィトン×草間彌生コレクションのパート2は、3月31日にドロップされる予定だと報じられている。

[原文:Fashion Briefing: Louis Vuitton x Yayoi Kusama and the art of the brand ‘blockbuster’]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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